トーキョーワンダーサイト本郷では、「アート・プラットフォーム」として、さまざまな活動の場を提供している。そのひとつとして展示中の『旗、越境者と無法地帯』がとても興味深いものだった。
象徴的なテーマは渋谷事件(1946年)。やくざと結託した警察と、在日台湾人との間で起きた衝突事件であり、戦後の都市における勢力争いであると同時に、現在にも通じる形の治安維持の結果でもあった。キュレイターの柯念璞氏によれば、本展は、渋谷事件を手掛かりにして「変動する国家権力及び国境線の下で個人が直面した赤裸の状態を新たに見つめ直す」ものだということ。
藤井光『演習1:非日本人を演じる』は、現在の東京に生きる若い台湾人たちが、渋谷事件当時の台湾人たちを演じる映像およびひとりずつのプロフィール写真。かれらの語りは、まさにいまの日本における外国人を取り囲む状況についてのものに他ならない。
高俊宏(カオ・ジュンホン)『人にあらず、旗にあらず、上にあらず』では、渋谷事件の予兆として時間を遡る。辿り着いた時空間は、日本統治時代の台湾総督府が、1905年から原住民(台湾では先住民のことをこう称する)を制圧した山林地帯だった。鬱蒼とした山の中における演出写真と素描が、今回の作品である。上の藤井光氏の作品が渋谷事件から現在への橋だとすれば、これは渋谷事件から過去への橋であり、歴史には因果や種があるのだということを身体的に示唆している。
琴仙姫(クム・ソニ)『異郷の空』は、在日朝鮮人三世として生まれた氏による70分の映像。日本の敗戦による解放後の歴史や事件が、本人や親戚の実体験を通じて語られるドキュメンタリーである。本来の歴史を持っている当事者が、歴史を失った者たちの無理解により受けることが、大きな違和感として描かれている。
ここで語られた事件のうち、重要なもののひとつが信川(シンチョン)虐殺事件(1950年)である。国連軍の占領下にあった地域において、3万5千人以上の住民が殺された事件であり、その後、米軍の戦争犯罪ではないかと推測されている。映像には、住民に向けてトリガーを引いた米兵が証言する場面も、また事件を検証する場に米国が出てこないことを弾劾する場面もある。
やがてアメリカに渡った琴氏が、人が歩くようにできていない道路の脇で轢殺されている小動物にシンパシーの視線を向けるくだりなど、たいへんな迫真性がある。