Sightsong

自縄自縛日記

浅川マキの新旧オフィシャル本

2011-03-10 01:53:38 | アヴァンギャルド・ジャズ

浅川マキが亡くなったあと、「最初にして最後の浅川マキ・オフィシャル本」という触れ込みで、『ロング・グッドバイ 浅川マキの世界』(白夜書房、2011年)が出ていた。確かに、田村仁の写真、昔持っていた『筒井康隆の世界』に収録されていたエッセイ、奥成達柄谷行人との対談、渋谷毅へのインタビュー、ディスコグラフィー、コンサート・リストなど充実している。

奥成達との対談では、浅川マキが渋谷毅の凄さを語っている。速弾きでもなく、トリッキーでもない渋谷毅のピアノの魅力を語るのは難しいが、それは浅川マキにとってもそうだった。とても共感する語り口である。

「渋谷さんという人は「ナントカ、カントカでした」なんて、絶対アドリブが終わらないんですよ。非常に結論なく終わっちゃうんです。それが、あまりに突然のことなので、客が拍手なんかできない状態になっちゃうんです。でも、その渋谷さんのバイブレーションが、次の日になっても観客のなかにつづいている、そう思えることがありますね。」
「渋谷さんのピアノは、どこへ行くかまったくわからないし。簡単にいっちゃえば、とにかく非凡なわけですね。それから、それをすごいと思うのは、思う人のキャパシティもあると思うんです。」

面白いことに、渋谷毅も浅川マキの魅力について同様のことを口にしている。

「普通にしゃべるのも、まったく普通にしゃべるのと普通にしゃべるようにしゃべるというのがあるじゃない。そういうのがいつも行ったりきたりしている、そんな感じなんだよね。聴いていると、どこが作ったものでどこが作ってないものなのかわからないんだよね。なんか、他の歌い手とは別の次元の人だね。」

もうひとつの発見。これまで「ナイロン・カバーリング」はストッキングのことだと思っていたが(そう思う人は多かったようだが)、実はコンドームのことだった。「薄物を見ると/息もつまり熱くなるの」なんて凄い歌詞だったんだな。そんな指摘をされて浅川マキ自身が照れて逃げているのが意外といえば意外だ。

オフィシャル本が最初だというのは半分誤りで、『新譜ジャーナル別冊・浅川マキの世界』(自由国民社、1974年)というムック本がある。写真以外には、新しいオフィシャル本にも収録されていない。ラリってるとしか思えない野坂昭如との対談、27曲の楽譜、それに「ちっちゃな時から」を挿入歌にした真崎守の劇画があって脱力する。

ところで、浅川マキの本名「森本悦子」は、両オフィシャル本には書いておらず、『ちょっと長い関係のブルース 君は浅川マキを聴いたか』(実業之日本社、2010年)にしか記載がなかった。明田川荘之『ああ良心様、ポン!』(情報センター出版局)には本名「虎野まき」だとあった。やはり冗談だった。

参照
『浅川マキがいた頃 東京アンダーグラウンド -bootlegg- 』
『ちょっと長い関係のブルース 君は浅川マキを聴いたか』
浅川マキ『幻の男たち』 1984年の映像
『恐怖劇場アンバランス』の「夜が明けたら」、浅川マキ
浅川マキが亡くなった
浅川マキ+渋谷毅『ちょっと長い関係のブルース』
浅川マキ DARKNESS完結
ハン・ベニンク キヤノン50mm/f1.8(浅川マキとの共演)
オルトフォンのカートリッジに交換した(『ふと、或る夜、生き物みたいに歩いているので、演奏者たちのOKをもらった』)
浅川マキ『闇の中に置き去りにして』
宮澤昭『野百合』
渋谷毅のソロピアノ2枚
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ


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