Sightsong

自縄自縛日記

マイルス・デイヴィスの1964年日本ライヴと魔人

2011-04-11 23:45:23 | アヴァンギャルド・ジャズ

マイルス・デイヴィスが1964年に来日したときの記録は、『Miles in Tokyo』(Sony、1964年)に残されている。私が手放さず棚に残している数少ないマイルスのCDのひとつである。最近、別の日のライヴ音源が『The Unissued Japanese Concerts』(Domino Records、1964年)としてCD化された。

サイドはハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラムス)とこのあたりは何も言うことがない面子であるが、何といっても、たった1か月ほど在籍したサム・リヴァース(テナーサックス)である。『週刊新潮』(4/14号)のコラム、関陽子『セレブゴシップ天国ときどき地獄』に、「チャーリー・シーン(魔人)」と書いてあって結構笑ったのだが、いやいや、サム・リヴァースだって魔人である。コードを豪快にアウトする独自性の高い音色とフレージングでもって、マイルスだろうが何だろうがお構いなく激進しまくる。サックス吹きの魔人度では、ユセフ・ラティーフと双壁をなす(いま思いついただけだが)。

この2枚組のCDには、それぞれ、1964年7月12日(日比谷野外音楽堂)と7月15日(京都丸山音楽堂)での演奏が収められている。『Miles in Tokyo』が7月14日(新宿厚生年金会館)であったから、その前後である。音質は確かに劣る。『Miles in Tokyo』で聴けるような、ロン・カーターのユルみまくる前のベースの響きも、トニー・ウィリアムスの果てしなく鮮烈なドラミングも、このもこもこした音源ではいまひとつ愉しめない。しかし、サム・リヴァースのひたすら愉快な異物混入的なソロは無防備に聴くことができる。最高である。

『Miles in Tokyo』にあってこっちにない曲は「My Funny Valentine」、ある曲は「If I Were a Bell」、「So What」、「Walikin'」、「All of You」。さらに『Miles in Tokyo』になかった「Autumn Leaves」、「Stella by Starlight」、「Oleo」、「Seven Steps to Heaven」も収録されている。もちろん彼らであるから、同じ曲であっても演奏の展開はそれぞれ異なる。特に京都での「Walkin'」におけるマイルスの走りかたには少なからず驚かされてしまう。

それにしても勿体ない。この後に加入するウェイン・ショーターの魔人度も高いが(一度ライヴを観たが、魔人から人を幻惑する魔術師に変っていて、ひたすら眠くなった)、もっとサム・リヴァースを使ってほしかった。水と油だったのか?

●参照
サム・リヴァースのザ・チューバ・トリオ
トニー・ウィリアムス+デレク・ベイリー+ビル・ラズウェル『アルカーナ』
ハンク・ジョーンズ(ザ・グレイト・ジャズ・トリオでのトニー・ウィリアムス)
トニー・ウィリアムスのメモ