Sightsong

自縄自縛日記

ハンク・ジョーンズ

2010-06-08 00:57:52 | アヴァンギャルド・ジャズ

先月亡くなった、チャーリー・パーカーとも共演したピアニスト、ハンク・ジョーンズを偲んで、棚からCDやレコードを取り出してみる。

私は直にプレイを観たことはないが、よく来日もしていたようだし、日本製作盤にも頻繁に登場している。何となくそうなると、変に爽やかなジャケットの毒にも薬にもならないスタンダード集を乱発したケニー・ドリューと勝手に重ね合わせてしまう。それは言いがかりというものだろうが、晩年、ケイコ・リーと共演した『But Beautiful』(Sony、2004年)ではもはやピアノの冴えはない。

この盤は、張り切ってアナログLPを買ったものだが、昔好きだったケイコ・リーの声はどうにも沁みてこない。作ったような低音のハスキーボイスがどうも気になるのだ。それに、こんなベタベタなラヴソング、強気のあなたは本心から思って歌っていないでしょう、とツッコミを入れたくなったりして。

地味なバップ・ピアニスト、ハンク・ジョーンズの名前を一躍高めたのは、ずいぶん年下のロン・カーター(ベース)、トニー・ウィリアムス(ドラムス)と組んだ「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」だろう。実は結成のきっかけとなったのは、渡辺貞夫『I'm Old Fashioned』(East Wind、1976年)だそうである。ロン・カーターのユルユルで締まりのないベースは永遠に好きになれないが、それは置いておいても、魅力はトニー・ウィリアムスの煽りに煽るドラミングだ。ここでも、「Confirmation」、「I Concentrate on You」などで、聴くたびに感嘆の声を上げてしまうプレイを聴くことができる。このとき、恐るべき男・トニーは30歳である。

「ザ・グレイト・ジャズ・トリオ」もそうだが、異種格闘技とまでは言えずとも、アヴァンギャルドなトニーと、それを受けて立つ老獪なハンクという組み合わせが鮮烈であったわけだ。逆に、バラードやスローテンポの曲では、反動で退屈だと感じてしまう。ザ・グレイト・ジャズ・トリオの『At the Village Vanguard』(East Wind、1977年)の1曲目は、チャーリー・パーカーの曲「Moose the Mooche」だった。上の理由で、初めて聴いたとき狂喜した。しかし・・・、ということである。

この日本の肝いりで制作された商売レコードと比べると、同じ年に吹きこまれたリーダー作『'Bop Redux』(Muse、1977年)はいかにも地味だ。ドラムスのベン・ライリーも、どうかしてしまったような嵐を巻き起こす人ではない。しかし、飽きないのはこちらの盤だ。地味どころか、聴くたびに新鮮で、溌剌としたハンクのピアノが嬉しくなってくる。ここでも「Moose the Mooche」を演奏しており、横滑りしてくるような導入部から素晴らしい。

亡くなってからこんなことを言うのは禁句だが、プレイを近くで観ておくべきだった。