Sightsong

自縄自縛日記

与那原恵『まれびとたちの沖縄』

2009-06-24 23:57:54 | 沖縄

『街を泳ぐ、海を歩く』や雑誌のルポなど、割に好きなライターによる新刊が出たので、読みかけの本を脇にどけてこちらを先に読んだ。与那原恵『まれびとたちの沖縄』(小学館101新書、2009年)だ。

ここには、何人もの「まれびと」が登場する。いろいろな意味でのユマニスム溢れる奇人ばかりである。なかでも惹かれるのは、国語教師として沖縄に赴任し、教え子・伊波普猷に古琉球に関する研究成果を渡した田島利三郎だ。伊波を含め、多くの人たちに影響を与えたが、沖縄を踏みつけるヤマトゥへの反発などにより、若くして沖縄を追われる。その後台湾や中国へと流れ、その地その地で潔い姿を見せる。

伊波普猷の仕事は柳田國男に衝撃を与え、柳田ただ一度きりの沖縄への旅を経て、30年後、『海上の道』が世に出るという、何とも言いようのない時間と空想が紡がれることになる。(このあたりは、同じ与那原恵のエッセイ『柳田國男 椰子の実から海上の道へと続く旅』(Coralway、2004年7/8月)に叙情的に記されてあった。)

その伊波普猷だが、祖先は中国人であり、「魚」という姓を名乗った皇帝の侍医だったという。それが不老長寿の薬を求めて宮崎に移り住み、その3代目が琉球の読谷山に移住、伊波家の先祖となった。本書には、それだけでなく、琉球と中国との結びつきに関してそこかしこで言及してあることが特徴的だ。

琉球は中国の冊封体制の一員であり、朝貢国であった。年号も、中国との関係が出来て以来中国のそれを使っている。そのアイデンティティを示すため、「江戸上り」においてもフォーマルウェアは中国服だった。薩摩侵攻の前後、「親日本派」と「親中国派」との対立が記録されており、前者ですら祖母を中国、祖父を日本としている。また日清戦争時には中国の衣装を身につけ、清国の勝利を願う「頑固党」があった。こうなれば、言葉が、琉球語、中国語、日本語を如何に使い分けていたのか、調べてみたくなるところだ。

かたや、琉球王のルーツは日本にありとする物語を作り上げるため、「源為朝が琉球に来ていた」という創作がなされてきた。本書のもっともスリリングな部分だ。

「琉球を血のつながりもある親しい隣国として見る時代は終わり、日本の一部として認識しつつあることがこれらの書物からよくわかる。為朝渡琉伝説はその証左として強化されていった。けれども、これまで紹介した琉球物刊本の著者は、琉球に足を一歩も踏み入れていないことがわかるだろう。誰も琉球を見ず、書物をわたり歩き、書き手の意にそって強調したい部分を取りあげてきたのだ。為朝渡琉伝説は、日本人の欲望にこたえて生きのびたのである。」

幕末の時代に沖縄に来たスロバキア人宣教師ベッテルハイムについての物語も興味深い。「犬眼鏡」と呼ばれ、感情が激しやすく、宣教という目的をほとんど果たすことなく黒船とともに去っていった。ただ、のちに姓を「牧志」に変えるインテリ、板良敷朝忠のように、ベッテルハイムに接触し、影響を受けた人物もいた。朝忠は投獄され、薩摩に引き渡される際の船から海に身を投げてしまう。嶋津与志(大城将保)『琉球王国衰亡史』(平凡社ライブラリー)において主人公として描かれた人物である。

語りは、海流に乗って、沖縄/琉球、日本、中国、朝鮮を行き来する。


レニー・トリスターノ『ザ・コペンハーゲン・コンサート』

2009-06-24 00:19:58 | アヴァンギャルド・ジャズ

毎日新聞の夕刊で、温室効果ガス中期目標に関して登場した。語り口調が軽くて別人格みたいである。

レニー・トリスターノによるソロ・ピアノの白黒映像が収められたDVD『the copenhagen concert』(STORYVILLE FILMS、1965年)を観た。リージョンコードが日本仕様でない中古品なので廉価だった。

異様な印象ばかりを残す。トリスターノの音楽は、『奇才トリスターノ』やリー・コニッツ『サブコンシャス・リー』を聴いたことがある程度だ。コニッツの師匠格というより、横ノリもレイジーな感覚も拒否してフラットにコード進行内の即興を突き詰めている音楽家、と感じていた。

ところが、今回はたと思ったのは、これはラグタイム・ピアノの独特な進化系なのではないかな、ということ。曲や展開によっては、左手でベースラインを作りながら右手で自在に即興を繰り広げていく。そこのところ、鍵盤を叩き続ける感覚がそのように思わせた。

随分昔、ある現代音楽の作曲家と話した際に、ジェリー・ロール・モートンに強弱の概念はないのかと尋ねた。いやそうでもあるしそうでもないのだ、自分はまさにジェリー・ロールのような色彩を取り入れようと思っているのだが、とのことで、はぐらかされたような気がしたのだった。ラグタイムを大して聴いているわけでもないしトリスターノの評価もろくに知らないのだが、さてどうなのだろう。

何となくライオン・スミスとかユービー・ブレイクでも聴こうかと思いついたが、全然見つからない(笑)。