Sightsong

自縄自縛日記

ジャズ的写真集(5) ギィ・ル・ケレック『carnet de routes』

2008-11-02 23:45:22 | アヴァンギャルド・ジャズ

と言っても、単体の写真集ではない。アルド・ロマーノ(ドラムス)、ルイ・スクラヴィス(クラリネット、ソプラノサックス)、アンリ・テキシェ(ベース)による録音『carnet de routes』(LABEL BLEU、1995年)とセットになっている。ここでは、CDのおまけではなく、あくまでCD+写真集となっていて、写真集は100頁弱もある。CDの名義も、この3人に加えてギィ・ル・ケレックの名前があり、楽器のところに「ライカ」とあるのがなんとも嬉しい。

音楽は94、95年にスタジオ録音されたものだが、写真はその前にこのメンバーがアフリカツアーを行ったときのものだ。90年にはチャド、中央アフリカ、コンゴ(旧ザイールではない方)、ガボン、カメルーン、赤道ギニアを、93年にはモーリタニア、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、コートジボアール、ガーナ、セネガルを訪れている。そのたびに、ジャケット写真にあるように野外でセッションを繰り広げたのかどうかわからないが、その状況ではこのような緻密な音楽を構成することは難しかったに違いない。

聴くたびに、スクラヴィスの微分的な音符をうねうねと繰り出していく超絶技術に圧倒される。これだけ楽器が吹けたら怖いものはないだろうね。何年前だかに来日したとき、草月ホールに聴きに行くつもりが、熱が出て行けなかった悔しい記憶があるが、聴いてもきっと熱が出た。

ル・ケレックの写真だが、名人芸というのか、3人の音楽家のまわりを踊りまくるその土地のひとびとをも含めて、動きのある作品に仕上げている。何気ないスナップ写真ももの凄く巧い。レンズは21mmとか24mmとか、かなりの広角を使っているはずだとおもい(CDにはライカM6とR6を使用、とのみある)、いろいろググっていたら、どうもこの後に機材を全て盗まれたらしいということがわかった。

1997年に盗難にあったル・ケレックの全てのライカは以下の通り(数字はシリアルナンバー)。

Leica M6 - 1706764 and 1709955;
M lenses: 28 f/2.8 Elmarit - 3154541, 35 f/2 Summicron - 3018868 and
2619793, 50 f/2 Summicron - 3100543;
R6 body - 1747862;
R lenses: 28 f/2.8 - 2785373, 35 f/2 - 3364671, 50 f/2 - 3113320, 90 f/2 -
2506573, 135 f/2.8 - 2611624, and 180 f/3.4 - 2866832.
http://leica-users.org/v01/msg08825.htmlより)

つまりM型にしろR型にしろ、広角は28mmまでだとわかる。28mmであの写真を撮ろうと思ったら、相当被写体(しかも飛び跳ねている)に戦いを挑まなければならない。まあ名人芸である。この写真集を観るまでは、ル・ケレックのジャズ写真は、写真集団マグナムの展示にあった、ウィントン・マルサリスを撮った1枚しか記憶に残っていなかったし、しかもそれはさほど臨場感のあるものではなかった・・・ウィントンの音楽と同様に。

この後、同じメンバーでさらに2枚+写真の作品が世に出ているが、まだ聴いたことはない。ル・ケレックのライカが戻ってきたかどうかもわからない。