しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

鏡の影 佐藤亜紀著 講談社文庫

2013-01-26 | 日本小説
「闇の左手」を読んでいたときに佐藤亜紀氏を思い出して、なんだか気になっていろいろネットで見てみました。

いまはアクティブでないようですがネット上にご自身のご意見を発信していた場を見つけてのぞいたのですが、これが面白い。
(wikipedlia辺りから入ると見られます)

基本主観をまったく抑えないでの言いたい放題ですが、素直に発信している感じが伝わってきて好感が持てました。

佐藤亜紀氏といえば前段に出たHPでも語られていますが、今回読んだ「鏡の影」と平野啓一郎氏のデビュー作にして芥川賞受賞作「日蝕」と新潮社を巻き込んだ「ぱくり」騒動は避けられない話題のとして出てきます。
件の騒動は佐藤亜紀氏が「日蝕」は「鏡の影」のぱくりで、新潮社はそれがバレないため鏡の影を絶版にしたと表明し新潮社から出版していた3作の版権を引き上げた、というもの。

私は別に佐藤亜紀氏のファンというわけではなく著作も「バルタザールの遍歴」を読み「1809」を半分くらい読んで途中のままという程度の読者ですが、なんとなく気になる作家で独特のスタイルは魅力的だなぁと思っています。
「日蝕」は芥川賞受賞のとき読み始めて挫折しただけで通読しておらず、その後も平野氏を特に気にしたことがないので、私は心情的に佐藤さん寄りかと思います。
ネット上の意見では芥川賞作家で体制寄りの平野氏よりも、「面白い」佐藤氏寄りの意見が多いですが....。
佐藤氏の行動と言動は第三者的に見ると騒ぎ過ぎなような気はしますね...。
誰も得しない話ですし。

ただ、佐藤氏のHPで「ぱくり」というか「下敷き」「参考」として他作を使うことがあるという話をしていて、自身の「バルタザールの遍歴」も萩尾望都氏の作品やらなにやらを参考にしているということを言明しています。
平野氏は「佐藤氏の作品など読んだことも聞いたこともない」と言明していますが、文学作品先人の業績の上で成り立っているのは否定できないとは思うので、平野氏の言明はちょっと硬すぎるような気もしますね。
ル.グィンの「闇の左手」でも、設定にアシモフやらハインラインの影響もあるでしょうし。(もっともアシモフもハインラインも文句つけたりはしないでしょうが...)
アシモフも「銀河帝国興亡史」は「ローマ帝国衰亡史」のぱくりだと堂々といっていますしね。

「先人の業績の上に作品が出来ている以上、同じような設定になることもあるが、私が仕上げた作品であり批評は自由にして貰って結構」くらいにすればいいのになーという気がしますした。
まぁデビュー作にケチをつけられて面白くない気持ちもわかりますが...。
行動はともかく理屈は佐藤氏の方に分があるような気がします。
(だからさらに頭に来るのかもしれませんけれども)

まぁそんなこんな考えていたら本作「鏡の影」がとても読みたくなり新品を本屋で購入してしまいました。

内容(裏表紙記載)
世界は何によって、どんな風にできているのか?百姓の小倅であるヨハネスは、ふいに彼を襲った疑問に憑かれて旅に出る。折しも異端審問やペスト、農民一揆に揺れる十六世紀初頭。ヨハネスは美少年シュピーゲルグランツを伴って迷い多き道を辿るのだった-。
圧倒的筆力で話題を攫った傑作長編小説。

文庫で450ページの大作です。

感想はあくまで私の主観ですが、期待外れ...でした。
佐藤氏の文章はもう少し「硬い」ル.グィン的文章なイメージだったのですが、この作品ではちょっと違う感じでした。
読んでいる途中で、読み通すのが苦痛というか「なにか無駄な時間を使っているなぁ」という気持ちを抑えて読み切る感じでした。
あくまで私の主観ですが新潮社が絶版にした気持ちもわかるような気がしました。

中世ヨーロッパやらキリスト教の知識は殆どないので、なにか比喩的な内容が含まれておりそれが「楽しみ方」というのなら私にはわかりませんが、どうも私的に受け付けなかったのは構成的な問題、まずは、

○主題は何なのか?どこに行ってしまったのか?
最初の主人公ヨハネスの発見「全世界を変えるにはある一点を変えるだけで充分であることを発見する」を巡る話のような気がするのですがそれが最後まで全然生かされていない。(ような気がする)
最終的には「悪魔」と「人間」との掛け合いが軸になっているようですが、伏線がなく唐突でなんとなく成り行きでそうなってしまったというような印象を受けました。

○場面が成り行きで転回していく。
前半、ヨハネスがいろいろ動いて、落ち着くかなぁと思うとガラッと転回してしまう。
とりあえず書いてみて広がらなかったら「場面を変えちゃえ」ということで書いているような印象を受けました。(週刊誌連載の少年漫画のよう?)
後半「ボーレンメント」に入ってからは話の方向が定まってきて読みやすくなってきますが前段の伏線が生かされていないような...。
前半でヒロインになりそうな感じで出てきたベアトリクス姫は後半ほったらかし...。
ラストで帳尻合わせ的に出てきますが(と見えた)なんだかなラストに感じました。

それでもとりあえず読ませてしまうのはこの作者の「筆力」なのかもしれませんが、私的には前半部分をもう少し整理した方がいいような感じを受けました。

「伏線を回収しなきゃ」などというのは凡人の発想なのかもしれませんが気になってしまうんですよね。
Amazonのレビューなど読むと高評価をつけている人が多いので私の読み方が悪いのかもしれませんが。

この後に書かれている「1809」はもう少し落ち着いた作品だったような気がします。
読了してないので機会を見つけて読んでみたいです。

でもまぁ話の流れで次は「日蝕」を読んでみようと思います。


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