つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

綺麗な馬は好きですか?

2007-03-07 23:54:58 | ミステリ
さて、馬は好きだけど競馬はやらない、な第827回は、

タイトル:焦茶色のパステル
著者:岡嶋二人
出版社:講談社 講談社文庫

であります。

岡嶋二人のデビュー作。
競馬界の内幕を描く長編ミステリです。
『あした天気にしておくれ』も面白かったけど、個人的にはこっちの方が好み。



大友香苗は離婚を決意していた。
競馬評論家である夫・隆一は自分を家庭のパーツとしてしか見ていない、それがたまらなく嫌だったのだ。
だが……家を出て、親友の所に引っ越そうという矢先、夫が狙撃されたとの報が入り、彼女は機会を失ってしまう。

結局、早苗は間に合わなかった。
東北の幕良牧場で銃撃を受けた後、隆一は病院で死亡したのである。
同情の視線に晒されながら、早苗は悲しんでいた。夫の死に、ではなく、どこまでも隆一の妻でしかない自分に。

その日、狙撃されたのは隆一だけではなかった。
牧場長の深町、そしてサラブレッドの母子、モンパレットとパステルが、それぞれ撃たれて死亡していたのだ。
犯人の正体も目的もはっきりしないまま東京に帰った早苗は、自分の留守中に侵入者があったことを知り、漠然とした恐怖を覚える。

次々と判明する奇妙な事実を整理しつつ、早苗は親友・芙美子と共に、事件の真相へと近付いていくのだが――。



いやもう、何と言うか……初手からまんま岡嶋二人です。

読みやすい文章、流れるような展開、最後まで読者を引っ張る謎など、後の作品にも共通して見られる要素は既に登場しており、全体の出来も後期の作品に引けを取りません。

今回の謎は、二人の人間および二頭の馬の命を奪った狙撃事件の犯人と動機。
被害者である夫・隆一と牧場長・深町、どちらが狙われ、どちらが巻き添えを食ったのか? あるいはどちらも犯人の標的だったのか? それが全く不明なことが、複雑な心境にある主人公・香苗を惑わせます。
しかも、隆一と深町、どちらかがもう片方を狙わせた際の誤射だったのではないかという疑惑が持ち上がり、さらに、隆一が一週間前に会っていた人物・柿沼の死まで絡んできて事態は混乱。

事件直前の隆一の行動を追う内に、香苗は、夫がパステルについて調査していたことを知ります。
その後は、隆一が残した謎の写真が見つかったり、幕良牧場の裏が見えたり、政治家が絡んできたりと、怒濤の情報ラッシュ。
もっとも……話が大きくなるにつれて、香苗のテンションはどんどん下がっていったりするのですが。(苦笑)

そこで活躍するのが、早苗の親友・綾部芙美子。
絵に描いたような姉御肌の彼女は、気弱な早苗の尻を叩いて、ずんずん事件の奥へ奥へと突き進んでいきます。実際問題、後半はこの方が主役と言っても過言ではありません。
殆ど引きずられるだけの香苗と半分暴走に近い形で調査を続ける芙美子のコンビは、最終的にかなり危険な領域まで足を踏み入れてしまうのですが――後は本編で。

例のごとく、オチは非常にさらっとしてます。
作品によっては、少々物足りない印象を受けたりもするのですが、本作はかなり綺麗な方でした。
どんでん返しで事件が解決した……と思いきや、もう一度どんでん返しが用意してあり、それが、夫に縛られてきた香苗の心境とマッチして非常にいいラストになっています。

デビュー作ですが、両氏の他作品と同じ感覚で読めます。オススメ。
香苗が競馬オンチで、芙美子が競馬予想誌の記者という設定が上手くハマっており、知識のない方でも楽しめる作品になっています。(これも、いつも通りですね)



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