つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

ちょっと、振り向いて、見ただけの……♪

2005-09-19 09:37:38 | 文学
さて、水と氷の魔術師ではない第293回は、

タイトル:異邦人
著者:カミュ
文庫名:新潮文庫

であります。

カミュと来れば異邦人とまで言われる、彼の代表作。
文章はちとくどいですが、短いのでさらっと読めます。

ムルソーの母が死んだ。
しかし、彼は悲しみの表情を浮かべたりはしない。
彼女を愛していたのは事実、死んだのも事実、ただそれだけのこと。

翌日、ムルソーは女と戯れていた。
その後、彼女は彼に自分を愛しているかと尋ねる。
彼はよく解らなかったので正直に答えた、恐らく愛していない。

ムルソーは人を殺めた。
燃え上がる大気に包まれた浜辺の沈黙を、銃弾で破壊した。
その瞬間、彼は幸福だった……たとえ、裁かれることになろうとも。

ムルソーはいわゆる快楽殺人者ではありません。
薬物により幻覚症状に陥ってるわけでもありません。
ただひたすらに正直なのです、それを異常と呼ぶのかも知れませんが。

弁護士はムルソーの精神に異常を感じ、それを嫌悪する。
判事はムルソーに神を否定され、激高して吠える。
検事はムルソーが母の死に無関心だったことを責め、勝ち誇る。

自らを正常であると信じる人々によって、ムルソーは断罪されます。
彼らにとって、ムルソーは許されざる異分子であり、異邦人なのです。
殺人罪を問う裁判が、魔女狩りの異端審問と化すのは……怖い。

一歩引いて考えれば、ムルソーの犯した殺人は正当防衛です。
問題は、彼の態度が周囲の人々の常識の範囲内になかったこと。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、解らないものは語らない。
そんな彼は『白痴』のムイシュキン公爵を彷彿とさせます。

短い作品ですが、時間の合間ではなく、腰を据えて一気に読むのが吉。
ムルソーを狂人と取るか、別のものと取るか、それは貴方次第です。


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