つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

この声が聞こえますか……?

2006-09-05 23:45:14 | マンガ(少女漫画)
さて、知る人ぞ知る名作な第644回は、

タイトル:コーリング(1)(2)(3)
著者:岡野玲子
出版社:早川書房

であります。

岡野玲子が持ち味を十二分に発揮した、珠玉のファンタジー。
パトリシア・A・マキリップ作『妖女サイベルの呼び声』の漫画版です。
最後に物凄い暴走っぷりを見せた『陰陽師』と違い、こちらは原作にかなり忠実――らしい。(実は未読)



オガムとレアランの娘・サイベルは、知恵深き獣達と数多の書物に囲まれ、エルド山の館でひっそりと暮らしていた。
彼女は漠然と、父や祖父が持っていたものを凌ぐ何かを求め、エルドウォルドで唯一の女王を背に乗せて飛んだとされる伝説の鳥・白色のライラレンを呼び続ける。
だが、サイベルの呼び声はライラレンには届かず、さらに、突然の訪問者が瞑想を妨げる。門の前に立っていたのは赤子を抱いた騎士――名をサールのコーレンと言った。

コーレンは、自分が連れてきた赤子がサイベルの甥であることを告げ、引き取って育てて欲しいと頼む。
世俗との関わりを嫌うサイベルと自分の立場を主張するコーレンは激しく言い争うが、最終的にその赤子・タムローンはエルドの館の住人となり、十二年の時が過ぎた。

再び、コーレンはやって来た。
自分が王族の血を引いていることを知らぬタムを、殺戮と謀略の世界へと誘うために。
タムを愛するようになっていたサイベルは、否応なしに彼を巡る争いに巻き込まれていく――。



岡野玲子の最高傑作です、私の中では。
中世ヨーロッパ風の世界を舞台に、氷の心の女と呼ばれる魔女サイベルが、愛、恐怖、憎悪、喜びを知り、聖別された卵の殻を破って世界に飛び出していくまでを描いた重厚なファンタジー。
白を基調にした絵が物語に絶妙にマッチしており、キャラクター、景色、シーン、どれもがとにかく美しい! 原作未読なので本来の雰囲気をちゃんと伝えているかは不明ですが、これはこれでありでしょう。

基本はサイベルの成長物語ですが、その構成要素は多彩。
コーレンとのロマンス、タムとの生活と別れ、猪・サイリンとの知恵問答、魔女メルガとの友情、魔術師ミスランとの対決、タムの父・グリードへの復讐等々、これでもかと言うぐらいエピソードを詰め込んでいます。
これに加え、サイベル以外のキャラクターの心理を描くサブエピソードや、大河ドラマのような王位を巡る戦闘を入れ、一つの物語としてまとめ上げているのは本当に凄い。
(って、これは原作を褒めるべきなんだろうが)

随所で語られる伝説、その演じ手として登場する知恵の獣等、ファンタジー世界が生き生きと描かれているのも魅力。
特に、謎の番人たる猪・サイリンのキャラの出来は素晴らしく、彼が喋るだけで一気にテンションが上がりました。

「謎かけ師はある日、己れの謎を解く鍵を失くした。が、鍵は己れの心の中で見つかった」

って、あんた格好良すぎ。(笑)

実に贅沢な物語です。三重丸のオススメ。
原作も読んでみたいけど、見つかるかなぁ……。



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