つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

もう忘れちまったなぁ

2007-03-02 20:09:32 | ミステリ
さて、こういうのは初めて読んだなぁの第822回は、

タイトル:恋文
著者:松木麗
出版社:角川書店 角川文庫(初版:H10)

であります。

就職のために、法律の勉強をしていて、憲法やら民法、刑法なんかをけっこう楽しんでいた○年前。
にも関わらず、そういえばこういう法律が絡む話はまったく読んでなかったなぁ。
……と言うわけで、現役検事が描く法廷サスペンス長編であります。
あ、ちなみにネタバレがあるのでご注意を。

「純文学作家・上野兼重が自宅で死体となって発見された。死因はインスリンの大量接種とされ、誰もが自殺と考えた事件であったが、兼重の妻・規世子に嫌疑がかけられると、彼女はあっさりと殺人を自白した。しかし、二回目の公判で、規世子は突如、自白内容を否定するのだった! 自殺か他殺か? 妻はなぜ自白を翻したのか? 死体も物証もないこの難解な事件を、検事・間瀬惇子は担当することになり、調査を開始した。
複雑な女性心理の深層を、現職の女性検事が、情緒豊かな筆致で描いた、臨場感溢れる出色の法廷サスペンス!
第十二回横溝正史賞受賞作。」

法廷サスペンス、と言うことで、ストーリーの大半は主人公である検事、惇子が担当する殺人事件の公判と、それにまつわる調査などが主体。
とは言え、ミステリにありがちな捜査や謎解きの部分に比重が置かれているか、と言うとそうではなく、またサスペンスのイメージとしてどうしてもつきまとう、どろどろとしたものも薄い。

主人公の惇子、規世子ともに形は異なれど、義母という存在や、おなじ理想を抱く者と言った共通項を軸に、惇子の規世子に対する思索や心理描写などと言ったものが殺人事件の公判を通じて深く描かれている。
ストーリー紹介にある「複雑な女性心理の深層を~」の部分は確かにそのとおりで、心理描写や公判のシーンなど、リアリティのある作品になっていると思う。
また、タイトルの「恋文」に通じる兼重の著書や、公判の途中に出てくる兼重の遺作とされる小説、ラストの惇子のもとに届く手紙と言ったものも効果的に使われていて、作品の出来はいいと思う。

あと、ネタバレになるが、検事が主人公にも関わらず、最終的に被告人は無罪を勝ち取る=検事として負ける、と言う結末はけっこう意外。
何のかんの言っても、この手の話だから検事がどどーんっ、と揺るぎない証拠とかを突きつけて、有罪を得るのが当然だと思ってたしね。

しかし、検事でありながら作家志望という惇子のキャラはねぇ……。読んでいて私小説の匂いが強く匂ってくるんだよね。
ストーリーは重厚で興味深く、文章も読み応えのある分量、描写でいい作品だとは思うのだが……。

私小説……う~む……。

私小説嫌いにはこの部分がどうしても評価を下げてしまう。
とは言え、作品そのものはおもしろく読めたので、個人的に嫌いだからと言って落第にするのも忍びない。
私小説だからと言うのが気にならなければ、サスペンスながら人間ドラマをしっかりと描いているので、サスペンスは苦手と言うひとにも比較的オススメしやすい。
と言うわけで、良品とは言わないが、かなり良品に近い及第、と言ったところ。


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