つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

エキゾチック?

2006-08-01 23:33:51 | ミステリ
さて、本当に週一で読んでるなと思う第609回は、

タイトル:あした天気にしておくれ
著者:岡嶋二人
文庫名:講談社文庫

であります。

毎度お馴染み、岡嶋二人の長編ミステリ。
競馬界を舞台に、犯人側の視点で描かれる誘拐物です。
デビュー作『焦茶色のパステル』以前に書かれた、事実上の処女作ということですが……さて。

鞍峰牧場は重苦しい空気に包まれていた。
将来を期待されていた競走馬・セシアが、輸送中の事故で足を折ったのである。
牧場長の見立てでは、治療すれば怪我は治るものの、競走馬としては終わり……とのことだった。

最高の血統馬であるセシアには三億二千万の値が付いていた。
社長の鞍峰を含む計四人の共同出資でようやく競り落とした馬であり、使い物にならなくなった以上、他の馬主達が賠償を求めてくるのは明白だった。
『私』は、自らの保身のことしか頭にない鞍峰に嫌悪感を覚えつつも、牧場に生きる人々を救うために知恵を絞った。

セシアを殺し、替え玉を用意するという鞍峰の案は却下した。
セシアを盗まれたことにしよう、という牧場長の提案も蹴った。
だが、事故の原因となった子供の父親が自殺しようとしている所に居合わせた時、『私』は犯罪者への道を選んだ――。

三億二千万という途方もない損害を前に、やむを得ず犯罪者の道を選んでしまう人々の姿がかなりリアルに描かれています。
たかが馬一頭のために、とか、車の前に飛び出してきた子供の命の方が安い、とか、ダークな思考が浮かんでくるのも、非常にらしい。
そして、彼らが取った方法もまた……。

朝倉達は、牧場ぐるみで事件の隠蔽を計ります。
しかし、どこから情報が漏れたのか、謎の脅迫者が現れて事態は混乱。
さらに、欲の皮の突っ張った鞍峰が足を引っ張るなどという信じられない出来事もあり、状況はどんどん悪化していきます……もう、悲惨としか言いようがない。

題材である『競馬』も、かなり効果的に使われています。
馬主と生産者の関係や、配当倍率の計算法など、ファンなら納得してしまう話がそこかしこに溢れ、また、それが推理に直結するようになっているのは見事。
特に最後のトリックは、競馬ならではの方法で行われているので好感が持てます。(オチが読みやすいのは確かだけど)

結構ブラックなオチも付いていて、面白かったです。オススメ。
専門用語が沢山出てきますが、作中でかなりフォローされているので、知識がない人でも安心、かな。多少知識がある人間なので何とも言えませんが。



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