つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

逆襲連鎖

2006-08-15 23:59:00 | ファンタジー(異世界)
さて、ファンタジー強化週間になりそうな第623回は、

タイトル:抗いし者たちの系譜 逆襲の魔王
著者:三浦良
文庫名:富士見ファンタジア文庫

であります。

お初の作家さんです。
これがデビュー作ということですが……さて。

一つの伝説にこだわる男がいる。
己が運命に縛られていることを危惧する者がいる。
彼の名は魔王ラジャス。

一つの伝説に縛られた女がいる。
望まずして勇者と呼ばれ、孤独な生を生きる者がいる。
彼女の名はサラ・シャンカーラ。

必然と、一つの想いが二人を引き合わせた。
男は女に敬意を表し、女は男に対する愛を形にする。
その時、一つの伝説が現実のものとなった。

自分を迫害した人類に復讐するため、女は魔王となった。
運命に破れたことを由とせず、男は再戦を誓って野に下った。
そして運命に抗う二人は再び対峙する、一方は統一帝国を統べる魔王、一方は一介の戦士として――。

開始4ページで勇者に負ける魔王って初めて見ました。(笑)

勇者が悪で魔族が正義という、単純な聖邪逆転物……ではありません。
プライドと実力を備えた世界最強コンビの純愛物です。(いや、マジで)
いきなり魔王が負けてしまうというシチュエーションだけでも、「勝ったな!」と言えるのに、ぬかりなく『勇者が魔王に惚れていた』という設定まで入れた作者にまずは拍手。

ストーリーは、サラとの再戦を望むラジャスの戦い、人魔統一帝国の王として苦労するサラの戦い、サラを守る者達と狙う者達の暗闘を描くというもの。
メインであるサラの出番が多いとは言え、三つ物語を同時進行し、立場を変えた二人が対峙するシーンに収束させていく構成は見事の一言に尽きます。
また、陰謀物語の側面も持っているのですが、これについては後述。

キャラがかなり濃いのも特徴です、特に主役二人。

魔王を倒した直後に自分がその位置に座ることになり、前任者以上の実力を見せつけたサラ。
冷静な策略家にして人類への復讐者である面と、年齢相応に甘い面を併せ持つ、非常にアンバランスな御方。某襲撃者との対決は、その二つがぶつかり合っていて秀逸でした。
途中で語られる過去からして、もっと性格悪くなっていてもおかしくない人物ですが、ギリギリのラインで踏みとどまってしまうのが彼女の魅力の一つでしょう。

もう一方、余裕ぶっこいて、見事な負けっぷりをさらした元魔王ラジャス。
尊大でプライド高くて頭も回って強いんだけど、『魔王は勇者に勝てない』という伝説にこだわっているという、いかにも人間臭い方。(賛辞)
某『D'ark』のダルディーク様(解る方が何人いるだろう……)のように、冷酷かつせこく立ち回り、ひたすら悪に徹するタイプも好きなんですが、こっちはこっちで悪くないかな。

サブキャラもなかなか味があり、キャラ物の名に恥じないメンツが揃っています。
ただ……サラの清涼剤となっている少女ナナに関しては、ちょっとどころじゃなく雰囲気を破壊してる気が……。
ちなみに、私のイチオシは統一帝国の宰相スキピオ君。絵に描いたような苦労人で、次巻では殆ど主役と言っていいぐらい活躍します。(よしっ!)

と、いい点ばかり挙げてきましたが、引っかかる部分がないでもありません。
それはこの作品のキモでもある、策略を駆使した陰謀物。
とにかくくどい。

全部自分で『正しい答え』を書かないと気が済まないのでしょうか、心理描写、神の視点、キャラ同士の会話すべてを駆使してくどくどと説明文を読ませてくれます。
おまけに、エスカレートすると地の文が一行一段落になり、刻むように読者への確認作業を続けるので鬱陶しいことこの上ない! 書いてる方は楽しいのかも知れんが。
この傾向は陰謀が絡んでない戦闘描写にもあり、コマ送りの画像を見ているようで拒否反応が出ました……趣味の問題なんだろうけど。

続編が出ていますが、これ一冊できっちり一作品として終わってます。オススメ。
ラストもプロローグに負けず劣らず秀逸で、もう一度、「勝ったな、作者!」と言わせてくれます。(笑)


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