つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

意外や意外

2007-10-28 22:57:57 | ミステリ
さて、私はぢつは2冊目の第915回は、

タイトル:おれは非情勤
著者:東野圭吾
出版社:集英社 集英社文庫(初版:'03)

であります。

ミステリのひとだけど、前はミステリじゃないよなぁって短編集を読んだので、今度はきちんとミステリをば。
こちらも短編集なので、各話から。

『「おれは非情勤」
○第一章 「6×3」
おれは金はなくとも自分の好きなことをしていたいタイプの人間だった。とは言え、働かなければ食っていけない。だから非常勤の教師をして食いつないでいた。
おれはその日から一文字小学校で産休を取る教師の替わりとして5年2組を教えることになった。

特に教職に情熱もなく、何事もなく産休の教師が戻ってくることを考えているようなおれは1日目を無難にこなし、2日目を迎えた。
雨の降る2日目、常勤の浜口教諭が出勤してこない。どうしたのだろうと言う声を聞きながら、体育の授業でドッジボールをさせるため、体育館に向かったおれとクラスの生徒たちは、そこで浜口教諭が殺されているのを見つける。
そして浜口教諭の側には、スコアボード用の数字盤が「6×3」の形で置かれていた。

○第二章 「1/64」
担当教諭の突然の病気で、二階堂小学校に赴任してきたおれはクラスの女のコたちが「64分の1だから難しい」とかなんとかお喋りをしているのを聞いた。
また、教室の後ろの黒板には「ブス」とか「バカ」とか「ジ」とかの文字。

何のことやらさっぱりわからないが、大したことではないだろうと放っておくことにした矢先、体育の授業が終わって教室に戻ったとき、クラスの男子ふたりの財布がなくなっている、と言う事態が起きる。
さらに、そのうちのひとりは中学生にカツアゲされた、と言う話まで警察から舞い込んできた。

○第三章 「10×5+5+1」
5年3組の教諭が事故で亡くなったために、後任の教諭が赴任するまで三つ葉小学校で働くことになったおれは、そのクラスのあまりのおとなしさに首を傾げていた。
担任の教諭が突然事故死して消沈しているのだろうと思っていたおれのところに、ある刑事が死んだ教諭の事故死の不自然さから、接触してきた。

教室の窓から飛び降り自殺をしたとされる教諭が、当日買い物をしていたり、登山用具を求めていたり。
実際に生徒との関係に悩んでいたらしいが自殺とは言い切れないそれに、おれは刑事に協力することになった。

○第四章 「ウラコン」
四季小学校6年2組を担当することになったおれは、そのクラスでは意見の対立やケンカと言ったことないことに不自然さを感じていた。
またある女子は心ここにあらずと言った様子だったりと気にはなっていた。

そんなことを考えていたとき、学校から見えるマンションからクラスの悪ガキ4人が出てくるのが見えた。そこに住んでいるはずのない4人組を不自然に思いながら帰るために学校を出ると、そのマンションの4階のベランダに、今日一日ぼんやりとしていた女子生徒が立っていた。しかも手すりの上に。

自殺しかけた女子生徒を古紙回収のトラックを使って助けたおれは、その動機を女子生徒の両親に尋ね、そこでウラコンという気になる言葉を聞いた。

○第五章 「ムトタト」
五輪小学校で働くことになったおれは、間近に迫った運動会のリレー選手を決めるために体育でタイムを計っていた。
リレーだけでなく、他の競技の選手も決めなければならず、さらにこれが終われば修学旅行なんてイベントがあり、憂鬱だったが仕事は仕事。選手を決めるために、競技名などが書いてあるペーパーを教室まで体育委員に取りに行かせた。

すると体育委員のふたりが教室に変な手紙があると報告してきた。
早速それを見に教室に戻ると、「先生ムトタトアケルナ」と書かれた封筒と、活字を切り取ってつなげた文字で「修学旅行を中止せよ。しなければ自殺する。いたずらではない。」と書かれた手紙があった。

○第六章 「カミノミズ」
六角小学校で音楽の時間が終わり、教室に戻ってきた生徒たち。
続けて授業をしようとした矢先、生徒のひとりが突然苦しみだして倒れてしまう。その生徒を保健室に運び、養護教諭に任せて教室に戻ったおれは、その生徒の机から「神の水」と書かれたペットボトルを見つけた。

後日、倒れた生徒はペットボトルの水に入っていたヒ素で中毒症状を起こしたとわかり、ペットボトルは警察で指紋の採取が行われた。
そこで浮かび上がってきたのは倒れた生徒以外に3人の生徒。
全員、倒れたあとからペットボトルに触ったと言うが、指紋の重なり具合から倒れた生徒が触る前に、誰かが触った形跡があることが発覚する。

「放火魔をさがせ」
おれ、こと小林竜太の住んでいる住宅街では最近放火によるボヤ騒ぎが起きていた。
そんなことが続いていたから、町内で見回りをすることになった。
珍しい出来事に、おれはとうちゃんと一緒に他の大人たちと見回りをすることになったけれど、見回りをしては集合場所になっている細川というおっさんの家で酒盛りをするとうちゃんたち。

とうとう酔っ払って何回かの見回りのあと、眠ってしまった大人たちと一緒に寝てしまったおれは、焦げ臭い匂いで目が覚めた。
見回りをするために集まった家が燃やされてしまうなんてことになっていたのだ。
だが、なのにその放火の容疑者に細川のおっさんの名前が挙がっていた。そんなわけがないと思っていたおれは、ある失敗で先生に説教させられているときに閃いた。

「幽霊からの電話」
家に帰ると、留守電にかあちゃんからのメッセージが入っていた。
だが、それは実際にはかあちゃんが入れたものではなく、またおなじクラスでもおなじメッセージが留守電に入る、なんてことが起きていた。

まさか幽霊か!? なんて思っているとおなじクラスの連中と幽霊かどうかを探すハメになってしまった。』

……短編集のときは、もうちょい書き方考えたほうがいいかなぁ。
長ぇし……(爆)

さておき、前の「怪笑小説」とは違ってこちらはちゃんとしたミステリになっている。

まずは表題作の「おれは非情勤」
赴任する先の学校で起きる事件などを主人公の「おれ」が解決するもので、第一章と第三章を除いて人死にが出ない。
ミステリと言うと、どうしても死んでナンボという印象が強いので、こういうのは印象がよかったり(笑)

ただ短編だからどうしてもミステリとしての謎解きが、安直というか何というか……。
たぶん、ミステリを読み慣れているひとにとっては簡単な部類に入ってしまうのではないかと思う。
また、同種のトリックを使ったのが2編あったり、タイトルからあっさりとそれが何を意味しているのかがわかってしまうのがあったりと、拍子抜けしてしまうところがある。

とは言え、ミステリらしい話にはなっているし、主人公の一人称も男性らしい簡潔な書きぶりで読みやすく、また謎解きだけでなくきちんとドラマを作っているところも評価できる。
ちと各章のラストとか、説教臭いのがなんか微妙ではあるんだけど……。

でもまぁ、ミステリにしては比較的軽めの短編集で読みやすい短編と言える。

次の「放火魔をさがせ」と「幽霊からの電話」はともに小学生が主人公の独立した短編。
「放火魔をさがせ」は……かなりいまいち……。
あまり勉強は出来ないが快活な少年が放火魔が誰なのか、ある出来事をきっかけに推理して当ててしまう、と言うことなんだけど、なんかこうすとんと落ちてこないんだよね、トリックが。

それ以外ではラストのオチはこのタイプの少年らしい終わり方で、定番とは言え、思わずくすっと笑えてしまうところがあるなど、いい部分はある。
ただ、肝心のミステリとしての部分がいまいちなのは……ねぇ。

あとは「幽霊からの電話」
これも「放火魔をさがせ」同様、トリックとその謎解きが……。
両方とも短編だし、仕方のない部分もあるだろうとは思うけど、ドラマの部分とミステリの部分がともに中途半端で、ラストのいわゆる「いい話」的なオチも取って付けたような感じがする。

おなじ短編なのに、「おれは非情勤」のほうはまだしっかりしている。
このあとの2作はそれよりもレベルが下がってる印象。
だからあとの2作は入れないほうが本全体としての評価はいいんじゃないかなぁ。

いい短編もあればそうでないのもあり、と言うことで、総評は及第。
ただ、がちがちのミステリのひとだと思っていた(偏見(爆))ので、読める話だったりしたのは正直意外だったりして(^_^;