つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

裏の折り返しにしようよ

2007-10-07 16:11:58 | 小説全般
さて、こんな数字になったりすると、ないのに意味があるような気がするよねの第909回は、

タイトル:むかし女がいた
著者:大庭みな子
出版社:新潮社 新潮文庫(初版:'98)

であります。

「初恋、嫉妬、復讐、倦怠、沈黙…愛の変容を綴る現代版「伊勢物語」」
これが本書の裏表紙に書かれていた煽り文句。
ぱらっと見てみると、短編集だったし、先週のがどろどろを期待して、ぜんぜんどろどろではなかったりしたので、こっちは……と思って借りてみたんだけど……。

ストーリーは、

『むかし、女がいた。
その女は、まだ少女で、時は異国と戦争をしているときだった。空襲で飛来する爆撃機の姿を見て麦畑に伏せる。そんな時間に読む異国の物語に夢中になるような少女だった。

また、ある女は、昔の髪の長さが女性の魅力を物語っていたころの絵や事実、そして変わっていく内装に内心で戦いていた。夫が作り変化していく部屋とそこに香り、さらに落ちている長い髪に。

また、ある女は冬の異国で友人である赤毛の女と、近くの湖でスケートをしながら、ケネディ大統領暗殺の話をしていた。凍った湖の氷の下で泳ぐ魚の影に戦きながら。

また、ある女は長兄とその妻、次兄とともに蚊帳で寝ていたときのことをはっきり憶えていないことを悔しく思っていた。それは長兄のあによめと次兄との関係を後から知ってしまったからだった。それからと言うもの、女はことあるごとに……息子の結婚に際して互いの両親と顔を合わせたそのときでさえ、その嫂と次兄のことを語っていた。』

えー、ストーリー紹介で書いたのは、一部です。
と言うのも、本書は短編集と言うよりは、ショートショート集で170ページくらいのページ数で28もの作品が収録されているから、さすがに全部書く、ってのは無理。

短いもので3~4ページ、長くても7ページ程度で、小説としての体裁を取っているものもあれば、まるで詩のように抽象的に書かれたもの、どちらもが混在しているものもある。
いろんな書き方で「女」と言うものそのものとか、またはその「女」から見た時代や社会とか、「女」から見た男とかを、いろんな描き方で綴っている。

さて、評価……と言いたいところだけど、これが難しい。
なんせ数が多くて、一個一個評すると長くなるし、それにはっきり言って、「なんだそりゃ?」ってのもけっこうある。
ストーリー紹介で書いた「髪の長さ」を主眼にしたものや、「嫂と次兄のことを語る女」の話なんかは、短いながらもゾクッとするようなラスト(「髪の長さ」のほう)や、不気味さ(「嫂と次兄のことを語る女」のほう)があったりして、こういうものはいいんだけど、詩みたいな形式で書かれたものは「???」なのがほとんど。
もちろん、そうでないのもあるけど、全28編を眺めてみると「???」側に傾く感じ。

もっとも、性別の違いってのもよくわかんないことの一因かもしれないし、むしろ女性ならばよくわかる、ってのもあるかもしれない。
そう言う意味では、女性向けの短編集と言えるんだろうけど。

とは言え、じゃぁ、まったくダメなのかと言うと期待したとおりのどろどろっぷりが窺える作品もあり、また興味深く読めるものもある。
こういう短編集にはありがちな、いいのもあればいまいちなのがある、と言ったところだろうねぇ。
総評するなら及第。
しかも崖っぷち(笑)

……なんだけど、ここは崖から落ちてもらうことにしよう。
表紙の折り返しに著者紹介があったんだけど、これを読んで最初の2編を読んだあとで私小説の匂いがぷんぷんして、げんなりしてしまったから。
初手にこのふたつがなければ、救いの手が伸びたかもしれないんだけどねぇ。

やっぱり、先入観なしで読むためにも、著者紹介は最後にしてほしいって思ったなぁ。
それでも、最後にやっぱ私小説かい! ってげんなりするのには変わりないのかもしれないけど(爆)