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つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

マンガと漫画

2005-09-11 15:10:55 | 学術書/新書
さて、マンガだけどそうじゃないの第285回は、

タイトル:江戸のまんが ~泰平の世のエスプリ
著者:清水勲
出版社:講談社学術文庫

であります。

まんが、と言ってもいまで言うマンガではなく、江戸時代の木版刷りの絵についての紹介と、考察を行っているもの。

前半分は、「江戸まんがの世界」と題して、江戸時代に描かれた様々な「まんが」の紹介を、豊富な写真で紹介している。
江戸時代の絵と言うと、「浮世絵」や武者、役者、力士、女性などを描いた人物絵などがすぐに思い浮かぶかもしれないけれど、これにはそういうものはない。

そういったよく知られたものではなく、「鳥羽絵」や「大津絵」「寄せ絵」など、当時の風俗や政治、社会と言ったものを題材に、諧謔や滑稽、風刺と言った要素を取り入れた「江戸のまんが」を、わかりやすい文章で解説している。

後半分は、「江戸まんが群像」として、まんがに対する著者の考えなどが紹介されている。

読んでみて、ふと、江戸時代のまんがって、けっこうおもしろいのね。
マンガというと、4コママンガとかは別として、ストーリーがあるのがいまは当たり前。
でも、この時代はいまみたいに何十枚、何百枚も簡単に印刷できるわけがないから、1冊数十枚だったり、数枚揃えがせいぜい。
1枚なのも当たり前、な時代だけに、そういった1枚の中にいろんな意味が込められていて、読み解く楽しさみたいなのがある。

たとえば、「子供遊絵」に出てくる「子供遊お山の大将」という絵では、子供の文字が入っているにもかかわらず、戊辰戦争を題材にしたものだったりする。

副題のとおり、けっこうエスプリの効いたのがたくさんあって、解説を読まずに絵をまず見て、どういうものかを想像してみる楽しみ方もできるのではないかと思う。

ただ、写真が多くても、そこまで大きくないし、白黒なのでよくわからないところも多い。
文字も当時のままの書き方だから読みにくいし、判別しにくいところが多いのが残念。

雑学っぽいものではあるけど、興味深く読めるものだと言える。
……言えるけど、さすがに講談社学術文庫。
200ページ程度の文庫で880円は、高いっ。

知らないほうがよかったかも

2005-09-04 14:22:11 | 学術書/新書
さて、そんなもんだろうと思ったの第278回は、

タイトル:テレビの嘘を見破る
著者:今野勉
出版社:新潮新書

であります。

タイトルからして、いわゆる暴露本とか、裏話みたいな感じに聞こえるかもしれないけれど、そういうものではない。
いわゆるドキュメンタリー番組というものを作成したりするときについて回る問題についての話。

ドキュメンタリー番組、と言うといろんな種類のものがある。
けっこう私はこの手の番組が好きで、特に自然科学関係や民俗学に関わるようなものとかをよく見る。

けれどそういうものでも、よく見せるために作成する際にいろんな工夫をする。

たとえば、本書に載っているものでも、

○ 移動中の車(バス)からの景色は、番組中では往路になっているが、実は復路を撮影したものである。
○ 田舎(海外含む)で行われる伝統的な結婚式などのイベントは、住人総出で行った演技である。
○ カワセミが魚を捕獲する詳細なシーンは、作られた環境の中で行っている。

などなど。

こういったことが当然のように行われている映像業界の論理や、「やらせ」との境界線、視聴者との関係などを著者なりに問題を提起し、その答えを探っていくのが本書の中心的なテーマ。

う~ん……。
なんかいろいろと、あーだのこーだのとあって、わかりにくい、と言うのが正直な感想。

実際に問題になったドキュメンタリー番組とかをもとに、詳細な解説を加えたり、著者の考えを説明してはいるんだけど、文意が掴みにくいところが多々ある。
もともと文章を生業にしているひとではないのだろうから、しょうがないとは思うんだけど、すらすらっと読めて、頭に入ってくるものではないから、読みにくい。
いちいち「あれ?」と思って読み返す必要に迫られるのではダメだな。

とは言うものの、話そのものがぜんぜんわからない、と言うわけでもないし、「やらせ」だ何だと批判する新聞社などの文章業界、時間や予算、状況に応じてある程度の作為は許されるとする映像業界の論理などは興味深く読めた。

まぁ、個人的なことを言わせてもらえれば、結局「編集」という作業=作為が働いている時点で、ある程度「作る」という作業に目くじらを立てる必要はない、と思う。
ニュース番組だって、街頭インタビューとか流すけど、これも何人かインタビューして、放送できるものをピックアップしてるんだろうから、事実を報道する、と言うニュース番組でだって、そういう作為は働いているんだろうから、事実をありのまま伝えるものだとする文章業界の論理はどうかと思うけどね。

本書にもあるように、それが作為であったり、再現された演技であったとしても、その動物の生態や、文化に嘘がない=結婚式が住人総出の演技だとしても、実際の結婚式ではそういうふうにするのであれば、それは事実と言える、と言う映像業界の論理を支持したい気はする。

まぁ、虚偽だの捏造だのは、当然問題外ではあるけれど。

にしても、ちょっとこの手の本を読んだあとにドキュメンタリーなんかを見ると、下手にここはこうじゃないのか、なんて考えたりしてしまうようになってしまって、ただ見て楽しむ、と言うことが出来なくなったところがある。

そういう意味では、知らないほうがよかった、と言うのもひとつ思った。

野球のほうが好きだけど

2005-09-03 18:23:08 | 学術書/新書
さて、スポーツ観戦は好きなほうなんだけどの第277回は、

タイトル:サッカーの国際政治学
著者:小倉純二
出版社:講談社現代新書

であります。

言わずと知れた国際サッカー連盟、FIFAの理事である著者が、国際社会におけるサッカーのいろんな出来事や思惑、日韓で共同開催したワールドカップでの舞台裏、日本サッカーに尽力してきた人たちなどを綴ったもの。

国際政治学、とあるように、メインは世界のサッカー業界での話題が多い。

この手の本は、やっぱりタイトルだけ見たら、手に取らないタイプのものだったりする(^^;
なので、当然のように借り物。
……だって、こんなのほいほい新刊でも古本でも買ってたら、お金もたないし(笑)

さておき、サッカーよりは野球が好きだけど、地元チームが勝ったか負けたかくらいは気になる程度の私だけど、これは素直におもしろかった。
いわゆる舞台裏の話、と言うのはそう表に出てくるものではないし、スポーツニュースとか見ても、話題性のあるものが前面に出て、その裏に隠されたものはなかなかわからない。
だからこそおもしろいのだろうとは思うけどね。

それに、この本、国際政治学なんて銘打ってはいるけれど、ほとんどFIFAや日本サッカー界のことなどぜんぜん知らない私でもわかりやすく書かれているし、素直に「へぇ、そうなんだぁ」と思える話もある。

この本の中でやっぱり読んでいて興味深く、おもしろかったのは、日韓共同開催になった2002年ワールドカップに至るまでの、各国の思惑や駆け引きなど。
共同開催が決定した当時は、やっぱり日本ってのはこういう交渉事ってのが下手なんだなぁ、と思ったり、やっぱり単独開催がよかったと思ってはいたけれど、読んでみると、いろんな事情とかが絡んでいて、結果的に共同開催の道を選ぶことになった経緯がよくわかる。

もちろん、韓国の交渉のうまさが日本よりも上だった、と言うのはあるのだろうけど、そのときの招致活動に携わっていたひとの思いや決断に至る苦悩と言うものがわかって、いまさらながら「ふむふむ」と納得させられる。

あとは、このワールドカップの開催地を選ぶ際の投票のことが興味深かった。
ってか、ここまで巨大な国際組織のFIFAにあって、投票してもらうためのいわゆる「選挙運動」にルールがない、ってのが、なんだかなぁと言う気にさせられる。

まー、こうした中での立候補国の運動だの、駆け引きだの、アジア、ヨーロッパ、南米、アフリカなどの各地域の思惑だのが絡んで、けっこうどろどろ。
国際政治なんてそんなものだとわかってはいても、「をいをい」と突っ込みを入れたくなるような話がたくさん。

まー、そんなところがまたおもしろかったところではあるんだけど(笑)

この他は、Jリーグに至るまでの話や、FIFAやアジアサッカー協会がが行っている公益的な活動などの話題が散りばめられている。

サッカー好きにはオススメだろうし、それでなくても興味深い話がたくさんあるので、あんまりサッカーには興味はないけれど、と言うひとでもいいと思う。
ただし、日韓共同開催とか、2010年の南アフリカ開催の投票の話とか、時間が経つにつれて色あせてしまいそうな話があったりするので、早めに読むのが吉……かもしれない。

やっぱり嫌いだ

2005-08-28 19:15:06 | 学術書/新書
さて、こんな本もあるんだねぇの第271回は、

タイトル:数学物語
著者:矢野健太郎
出版社:角川文庫

であります。

裏表紙に曰く、

「現在記録に残っている最も古い数字、エジプト、バビロニアの数字がギリシャへ渡り、それらを受け継いだヨーロッパでパスカル、デカルト、ニュートン、オイラーなどがどんな仕事を残していたのだろうか。
数学の権威の著者が、数学の誕生から、それが発展していった様子を平易な文章で説く。」

とあり、はっきり言って、これ以上この本を解説するのが無駄なくらいに、そのまんま(笑)

と言いつつも、もう少し補足すると、大きく分類すると3種類の話になっている。

ひとつは裏表紙にもあるように、最も古い数字の話で、ここは結構興味深く読めた。
ちょっと前に、東京都の石原都知事がフランスの数字の数え方を愚弄した話題があったけど、昔から10進法しかなかったわけでもないし、バビロニアは60進法だったみたいだし、ギリシャ数字なんか、「9」を「10-1」(90は100-10とずっと続く)で表現するし、10進法だからと言って表記でわかりやすかったり、そうじゃなかったり……。

こういうのは「へー」と思ったりもしておもしろい。

ふたつめは、幾何学。
みっつめは、代数。
と、いかにも数学らしい話になるけれど、基本的に解説はほんとうに平易。

難しい漢字は極力使っていないし、文章は丁寧。
でも、∠ABCだの、△CABだの、図形関係は文章で読むといまいちぱっとしないけど、こういうときも図入りで、文章と図とをじっくり見ながら読むとわかりやすい。

その点、代数のほうが文章でいけるので読みやすいけど、ただ方程式の展開とかは、詳しすぎて読むのが面倒なときもあったりして。

でも、数学物語……物語、と言うには最初の数字の歴史みたいなところ以外は、けっこう定理の証明とかの説明に紙面が費やされていて、読み物としては不満あり。
いちおう、ターレスから始まる数学者の話でも、その数学者の簡単な略歴や小ネタ、業績なんかが書かれてはいるものの、そういうのが少ないので、気楽に読むにはちょっとなぁ……と言った感じ。

特に私は数学嫌いなので余計にきつい……。

え? なんで嫌いなのにこんなもの読むんだって?
そりゃー、借りたからに決まっているではないかい(笑)

話半分でも十分楽しめる

2005-08-21 15:12:20 | 学術書/新書
さて、妄想街道まっしぐらの第264回は、

タイトル:オーケストラ楽器別人間学
著者:茂木大輔
出版社:新潮文庫

であります。

人間学、なんて言うと小難しい感じがあるかもしれないけど、そんなことはまったくない。
とは言うものの、各章のタイトルはお堅い漢字を連ねてはいる。

まず、第1章「楽器選択運命論」
どういう性格のひとが、オーケストラで用いられる楽器の中で、どういう楽器を選ぶのか、と言うことをテーマに解説されたもの。

ある楽器のイメージや音の特徴などから、どういう環境で、どういう育ち方をし、こういう性格のひとが、この楽器を選んだ、と言う感じで書かれている。

著者はNHK交響楽団などの第一オーボエ首席奏者なので、楽器と奏者の性格というものをよく知っている、とは言うものの、著者個人の考えというのがだいぶ入っているので、「をいをい」というつっこみどころはけっこうある。

まーでも、この妄想ぶりもなかなか堂に入っている(?)ので、話半分で「ほほぅ~、そういう感じなのか」と楽しめる。

第2章「楽器別人格形成論」
どういう楽器を専攻しているひとが、楽器の特性によってどういう性格を形作っていくのか、を解説したもの。

第1章のちょうど反対で、こういう楽器を専攻しているから、こういう性格になる、と言う感じ。

構成は、その楽器の持つ特徴を「音色」「演奏感覚」「合奏機能」の3つに分けて語られている。
ここはけっこう、楽器の特徴や音色、技術の難易などをベースに説得力がありそー……な感じなんだけど、「音色」「演奏感覚」「合奏機能」で形作られるはずの性格がけっこう多岐に渡っていて、こちらもどーしても話半分、って感じになってしまう。

第3章「楽隊社会応用編」
オケマンとはいかなるヒトか、と言うことを解説したもの。
ほとんどが「有名人による架空オーケストラ」と言うことで、芸能人から政治家、マンガのキャラなど、有名人の特徴などから、どういう楽器がふさわしいか、と言うことを書いたもの。

ほとんど斜め読み。
ぜんぜんおもしろくなかった。

第4章「フィールドワーク楽隊編」
ここでは著者が楽団の、管楽器奏者に、
・アナタの演奏している楽器
・その楽器の得意技
・苦手な仕事
・その楽器にとって最も大きな快感をもたらしてくれる作曲家
・最も苦手な作曲家
・アンサンブルをするうえで最も相性の良いと思われる楽器(自分とおなじ楽器を含む)
・最も相性の悪い楽器
・アナタがオケの中で最も気持ちよいと思っている楽器
・一番むずかしいと思う楽器
こうしたアンケートを行って、その結果と解説を行っているもの。

この本の中で何がおもしろかったってここがいちばん面白かった。

あとは文庫版のみの「特別講義」とか、いろいろあるけど、本来はここまで。
つか、特別講義がまたおもしろくないので、個人的にはこの第4章までで十分。

とは言うものの、まぁ、よくここまで書いたとは思うよ、このひと(笑)
いわゆる人間学としての正確性とか、論理とか、そういうのはまぁ、話半分でいいと思うんだけど、オケマンという普段接することのない職業のひとたちの性格とか、そういったものが随所に見られておもしろい。

物書きとしても、そういう傾向がある、と言う意味では楽器をやるキャラなんかを作ったときに参考になったりするだろうしね。

なかなか変わったタイプの本だけど、オススメ。
楽器の名前をほとんど知らなくても、巻頭に「オーケストラ楽器配置図」があって、写真、名称、位置が入っているから、ご心配なく。

ハーメルン消失事件

2005-07-12 17:36:01 | 学術書/新書
さて、笛吹いたの何年前だっけ? な第224回は、

タイトル:ハーメルンの笛吹き男
著者:阿部謹也
文庫名:ちくま文庫

であります。

打! 打! 打~! 打! 打! 打~!)

警部「なんでいきなり130人も消えるんだ!」
(打打、打打。打打、打打)

探偵「これはれっきとした誘拐事件ですよ」
(打打、打打。打打、打打)

――夜霧の中、ぬうっと現れる笛吹き男。
(打打ッ!)

助手「先生、コッペンでまだら男を見たという証言が!」
(打ッ打ッ打ッ打打)

大量の鼠に襲われ、「うわーっ!」と悲鳴をあげる探偵。
(打ッ打ッ打ッ打打)

血まみれの槍、真っ二つに折られた笛、闇の中で沼へと落ちていく子供達。
(打ッ! 打ッ! 打ッ!)

ハーメルンの東門に立つ探偵と助手。
(打~~~、打~~~~~!)

『時の探偵シリーズ(3)――子供達が消える日』
1284年、六月二十六日放映。

なんで火サスやねん。

まさかご存じない方はいないと思いますが、笛吹き男伝説とは――

ハーメルンの町を一人の旅人が訪れた。
彼は報酬をもらえるなら鼠を追い払ってやると言う。
町の人々は男と取引するが、鼠がいなくなった後、報酬を渋った。

1284年6月26日、再びハーメルンの町に男が現れた。
彼が笛を吹きながら歩くと、鼠の代わりに子供達が集まってきた。
笛吹き男と130人の子供達は町を出ると、そのまま山の中に消えた。

おおむねこんな話です。
足の不自由な子供は連れて行ってもらえなかったんじゃないか?
連れて行かれた子供達は子供の国を作ったんじゃないか?
などという、異伝や童話にある枝葉は敢えて削除しました。

本書は笛吹き男伝説を題材に、西洋の黒歴史にメスを入れていく好著です。
笛吹き男伝説の原型となった資料集めに始まり、現実の1284年6月26日に何があったかの調査、時代背景と移民の話、経済とそれに伴う貧富の格差、伝説の主人公である笛吹き男の地位など、非常に詳しく解説してくれてます。

どの異伝でも、日付、消える子供達、130人、の要素はほぼ共通している。
これがただの伝説ではなく、その背景に何かがあったと考えるのは自然です。
個人的には、飢饉による子殺し、もっと言えばカニバリズムが怪しいんじゃないかと思ってますが、これは飽くまで私の予想。

ともあれ、本書の主題は中世の暗黒にスポットを当てることです。
悪役に選ばれた笛吹き男――遍歴芸人の社会的地位。
鼠が人々にもたらした被害、飢饉、ペスト。
伝説が残される背景、宗教による支配、戦争の被害。
さらに、当時の人々の生活、宗教改革の波紋、魔女狩り等々。
笛吹き男伝説の形成および、その変遷を追いながら、作者は当時の社会構造を浮き彫りにしていきます……上手い。

いわゆる謎解き本ではありません。
笛吹き男伝説の真相! とかを期待した人は後半ちょっと辛いかな。
一応、既出の説がいくつか紹介されています、それだけでも充分面白いけど。

歴史ミステリー好き、西洋史好きにオススメ。
かなり気合い入れる必要はありますが、読んで損はないです。

古イ事、記ス

2005-06-29 15:26:25 | 学術書/新書
さて、遠い昔の物語な第211回は、

タイトル:古事記の世界
著者:川副武胤
出版社:教育社

であります。

古事記、と言えば?
クマソを暗殺したヤマトタケル?
ヤマタノオロチを退治したスサノオ?
ちょっとマイナー所で岩戸の前で踊ったアメノウズメ?

古事記は――その編纂意図は置いといて――楽しい物語です。
八百万(やおよろず)というほどではありませんが、これでもかと神々が登場し、アイディア満載のエピソードを披露してくれます。

本書は、古事記の成立過程、編纂者の意図、時代背景などの歴史的考察から、他の神話との比較、神名の変遷、異なる神同士に存在する類似性などの神話的考察まで、総合的な視点で古事記を語る好著です。

各エピソード、特に神代の解説は非常に面白く、何を元にして、もしくは何を意図してその話が書かれたのかがよく解るようになっています。
もちろん一意見であって、これを鵜呑みにして古事記を語る必要はありませんが、自分が読み解く時の参考とするにはかなり便利。

じっくり読んでいると、古事記の物語作法は現代でも生きていることが解ります。
死んだキャラクターと似たキャラクターが出てきて前の奴の穴埋めをするとか。
味方側と敵側にシンメトリーになるようにキャラクターを配置するとか。
劣勢の時に、颯爽と新キャラが現れていいとこ持って行くとか。(笑)

原書もそうなんですけど、ヤマトタケルが死ぬとこまでなら楽しく読めます。
それ以降は……神話だけ楽しみたい人にはちょっとキツイかも。

蛇足ですが、本書は私が卒論で参考にした本の中の一冊です。
久々に開いてみたら、ドッグイヤーとアンダーラインの嵐
普通はこんなことしないんだが……。

思ってたのとはちと違うけど

2005-05-29 21:16:25 | 学術書/新書
さて、開設して半年までもうそろそろの第180回は、

タイトル:風の名前 風の四季
著者:半藤一利、荒川博
出版社:平凡社新書

であります。

「風」にまつわる話題を中心に、著者ふたりの対談という形の本。

対談、と言う割にはけっこう話が飛んだり、風とは関係のない話になったりと、けっこう節操がない。

基本的には、風の話題を、万葉集から始まる歌集、近現代の俳句、狂歌、都々逸、民謡、文学などを絡めながら話をつなげていく、というもの。

本のタイトルから事典ってぽい感じかと思っていたけど、違っていたのでちと残念ではあったけれど、けっこうおもしろい。

最初のほうは、対談と言っても語り口も硬いんだけど、そのうち調子が出てきたのか、読みやすくなっていく。

それにしても、風というわりには「かぜ」とか「ふう」言う名前がつかないのはけっこうあるなぁ。
「二百十日」って知らなけりゃ誰も風の名前だとは思わないだろうし。

さて、本そのものの評価としては万人向けではないだろうってのが正直なところ。

まず、短歌(和歌)と俳句が必ず入る。
このあたり、特に日本文学に少しくらい興味があるとかでないときつい。
名前や名字の成り立ちのようなものなら、ちょっとした興味で読めるかもしれないけれど、これはちょっとそういうものではないので、ある程度の基礎知識が必要なぶんだけ、敷居が高い。

また事典のような感じならば資料っぽい使い方もできるのでいいかもしれないけど、これまたそうとは言えない。

まぁ、この手の新書にはそういうところがあるとは思うけど、なかなかオススメしやすいほうではないと思う。

好きなひとにはいいとは思うんだけどね。

日本語もの第2弾

2005-05-22 15:37:15 | 学術書/新書
さて、まだたぶん引かれないくらいの趣味の話をしているの第173回は、

タイトル:名字と日本人 ~先祖からのメッセージ
著者:武光誠
出版社:文春文庫

であります。

20日のはいろんな名前に関する話題の本だったけど、こちらは完全に名字のみの本。

読みやすさは「名前のおもしろ事典」のほうが読みやすい。

この本はどちらかと言うと論文に近いような印象。
日本の名字が鎌倉幕府の武家支配によって作られたとする視点から名字の歴史を説明する、と言う前書きの言葉どおりなんだけど……。

けっこう読みづらい。
いちおう構成上は概略から始まって時代ごとの説明で、最初はいいんだけど、時代が下るに従って、その前の時代の話題と絡めている関係上、時代感覚があやふやになりがち。

当然、名字の歴史を説明すると言う性質上、どうしようもないことなんだけど、読んでるほうにとっては引っかかりを憶えて、確認し直すのが頻繁にあるので、気軽に読む、と言う感じではない。

ただ、最後に出てくる名字のルーツを探す先祖探しのところはおもしろかった。

私の名字は読み方はありふれているけれど、漢字のほうがめずらしいので、こういうのには興味があった。

しかし、えらいめんどくさそー……(笑)

職場の関係で、いわゆる相続図の書き方は知っているし、いまの戸籍から、いわゆる壬申戸籍まで読み方を知ってるから、ここまでは比較的簡単にたどれるはず。

その前がなぁ……。
いわゆる過去帳からどんどん遡っていくことになるらしいので、ここからがきついだろうなぁ。

でも、時間があれば一度はやってみたいかもしれない。

日本語の本と言っても

2005-05-20 21:29:00 | 学術書/新書
さて、ここいらでちと趣味の本でも入れようかなの第171回は、

タイトル:名前のおもしろ事典
著者:野口卓
出版社:文春新書

であります。

最近話題の日本語の本……というのは大して興味はなかったりするけど、こういう名前や語彙の話はけっこう……いや、かなり好き。

なので、そういえば最近この手のを読んでない(第4回の「漢字の話(上)(下)」以来のような気がするので、何気なく手に取ってみたもの。

で、本としてはタイトルどおり、名前……特にひとの名前に関するものの話題が多い。

だいたい日本の名字っておなじ文字で違う読み方(戸塚で「とづか」「とつか」みたいなの)も含めると29万字を超える名字があるのだからこれはすごい。

また、雨や風などの自然現象につける名前も、季節や状態からとても細かく名前をつけたりする。

そういった話を、

第1章 名前のふしぎ
第2章 名前を付ける
第3章 名前あれこれ
第4章 独り歩きする名前
巻末付録 名前を巡る言葉とことわざ

の5章に分けて語られていく。

ひとの名前が多いとは言ったけど、地名や動植物名、作家のペンネームの話題、クラシックの作曲家の通称など、おもしろ事典と銘打ってあるだけに、名前を主題としたコラムっぽい感じで、堅苦しい感じはない。

物書き的には、作家さんのタイトルの付け方や名前の付け方とかの記事にけっこう共感(^^

正しい日本語とか、読み方とか、なんとかかんとか、そういうのよりは気軽に雑学って感じでよいのでは?