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つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

タイトルに騙されるな

2005-05-01 01:15:36 | 学術書/新書
さて、騙されたほうになってしまうの第152回は、

タイトル:ギリシャ神話集
著者:ヒュギーヌス(訳:松田治・青山照男)
出版社:講談社学術文庫

であります。

ギリシャ神話、と言うと、ゼウスを始めとして、様々な神、様々な精霊や妖精、様々な英雄たちを描いた叙事詩……つまり物語。

はっきり言って、本読みならば誰もが知ってる(と思う)世界に名だたる古典であります。

神々の王であり、浮気者のゼウス、その妻ヘラ、太陽神アポロンと月神アルテミス、戦女神アテナ、愛の女神アフロディーテ、見た者を石にするメデューサ、酒の神デュオニソス、数多の偉業を成し遂げた英雄ヘラクレス、アンドロメダ、ケンタウロス、ミノス島の牛頭人身のミノタウロスなどなど……。

この神話に登場し、世に知れ渡った神々、英雄、魔物の数は計り知れないと言っても過言ではない。

そんなギリシャ神話を集めた本書は、しかし、『物語』ではない。

たいていギリシャ神話の本と言うと、たとえば創世の話で、どういうふうに世界ができて、巨人族がいて、神々が生まれ、ゼウスが雷をもって神々が世界を支配するようになった。

……なんて物語が語られるのがふつう。

けれど、この本はそういった物語的なところからは一線を画している。

まず構成は2種類に分けられている。
ギリシャ神話で語られる物語に出てくるメインキャラが成した出来事の、極めて簡潔な列挙。

たとえば、初っぱなの「誰と誰の子供がどの神である」と言うこと。
たとえば、ヘラクレスが成した出来事……「どこでどう行動したか」「どういう理由で殺したか」「なぜ奪ったのか」など、はっきり言って退屈なほど、何をしたかを記している。

また、物語と言うのはお粗末なほどの事実(?)の解説。

トロイア戦争に出てくるキャラが、どういう行動をしたか、どこで死んだか、死んだキャラの役割を誰が担ったか、そのキャラの両親は誰か……など。

とてもじゃないけど、物語として読むにはきつい。

だけど、資料としてはおもしろいと同時に、ギリシャ神話の全体を見渡すにはとてもいい本になっていると思う。

ほとんどのギリシャ神話の本が有名な物語を中心に編纂されているのに対して、この本はとにかくあらゆる出来事を、物語ではなく、ただ淡々と記述しているところがいい。

だいたい、ふつうのギリシャ神話の本を手にとって、277もの話が入っているものはないしね。

読み物として手に取るには向かないけど、改めてギリシャ神話で語られている物語はどういうものがあったか、ってのを確認するにはいいかもしれない。

世界で最も愛され、憎まれた国

2005-04-26 13:33:43 | 学術書/新書
さて、西洋史といえばローマな第147回は、

タイトル:ローマ五賢帝
著者:南川高志
文庫名:講談社現代新書

であります。

ローマの皇帝を五人挙げよ、と言われてすぐに出てきますか?
カエサルは皇帝じゃないから除外。となると初代皇帝アウグストゥス、飛んで有名人のネロ、それから……個人的に好きな人として五賢帝最後のマルクス・アウレリウス、あ、終わっちゃった。

ま、まぁ、私自身の不勉強はひとまず置いといて……。
本書は五賢帝時代(紀元96~180)を軸に、ともすれば絶対権力者と見られがちなローマ皇帝の実像にメスを入れていく好著です。

カエサルの後を継いだアウグストゥス、彼が作り上げた統治メカニズム及び皇帝と元老院の関係を述べ、二代目以降のマイナーな方々(笑、ただしネロ除く)についてさらっと触れた後、五賢帝と呼ばれる五人の皇帝について一人ずつ解説しています。

面白かったのは、元老院議員の公職経歴。
ちょっと複雑なので、簡略化して言うと――。

☆二十人委員(18~20歳で就く、いわゆるキャリア)→見習い高級将校→財務官、法務官等を歴任→正規軍司令官→執政官(最高公職)。

見事なまでに武官と文官をいったりきたりしています。キャリアが実戦を経験した後財務官になるあたり、警部補スタートの日本警察とちょっと似てますね。ただ、さわり程度の実戦経験が役に立たなかったのはローマも同じらしく、領土の拡大と外敵との戦争激化に伴ってこのシステムは機能しづらくなり、五賢帝時代後は専門軍人の台頭と皇帝の専制化が進みます。どっちかと言うと、こちらの方が一般的なローマのイメージなのでしょうけど。

一見、平和に見える時代の影の部分を解りやすく書いてくれているので、カエサル以後のローマは面白くない、と思っている方にオススメです。
現代新書だけあって、さらっと読めます。

いざ、メルヘンの世界へ

2005-03-02 13:20:43 | 学術書/新書
さて、一部の人間以外は一度は耳にしたであろう第92回は、

タイトル:グリム童話
著者:鈴木晶
文庫名:講談社現代新書

であります。

グリム童話の解説本の一つ。
沢山ある中からこれを選んだ理由は……安いから。
いい加減にも程がありますね、ははははは(乾いた笑い)。

一時期流行った他の本のように、本書も冒頭でグリム童話の残酷性を語っています。
とにかく死のオンパレード。ただし、子供がそれを好むのもまた事実。
例として、今日は悲しいお葬式~、という雛祭りの替え歌が挙げられていますが、私もむか~し歌っていた記憶があります。

以下、グリム兄弟の伝記、童話の構成論、グリム童話成立の過程、グリムが行った改訂とそこに潜む意図の考察……等が続きます。原書からの引用がかなり多く、グリム童話本編を読んでいなくても楽しめるようになっています。

グリム童話そのものよりも、それを執筆したグリム兄弟(特に弟のヴィルヘルム)にスポットを当てており、初版とその後出たいくつかの改訂版を比較することで、グリムがどのような道徳観を持っていたかを明かしていくのが特徴。

現代新書らしく、さらっと読めます。
専門的な資料として使うには役不足でしょうが、肩の力を抜いて読むには最適。

ちなみに、原書二百話を読む気は今のところないです……。

のろい町に住んでいても感覚的には変わらない?

2005-02-28 20:50:52 | 学術書/新書
さて、一部の人にとっては懐かしいかも知れない第90回は、

タイトル:不思議の国のトムキンス
著者:ジョージ・ガモフ
出版社:白揚社

であります。

平べったい自転車ライダーが通りを走っていく。

そんな絵に見覚えはありませんか?
え? ないって?
じゃ、車庫から染み出てくる車の絵は?
それもない? ふむ……残念。

本書は一風変わった科学の解説書です。
どこが変わっているかというと、各所に科学を元にした物語が挿入されていること。
ただし、飽くまで解説書です。SFではありません……作者曰く。

主人公トムキンス氏はごくごく平凡な銀行員。
ちょっと現代科学(1938年当時)に興味を持っています。
彼は、科学の公演を聞く度に不思議な夢を見ます。

自転車を走らせると通りの景色がぺしゃんこになる『のろい町』。
再び同じ町を訪れ、殺人事件に遭遇してしまう『休息の一日』。
たった一つの遊星しか存在しない小さな宇宙での会話『脈動する宇宙』。
定常宇宙論と膨張宇宙論がオペラで対決する『宇宙オペラ』。
転がるに従って、玉が広がっていくおかしなビリヤード『量子玉突き』。
分身する虎やカモシカが現れる森での狩りを描いた『量子のジャングル』。

どの夢も不思議なものばかりですが、ちゃんと科学に基づいています。
しかし、当のトムキンス氏にはちんぷんかんぷん。
そこで、たびたび登場する老教授がそれらを解説してくれます。
聞いてもさっぱり、なんてこともあるけど。

理系の人は必見。文系の人は……物語を楽しんで下さい。
数式もかなり出てきますが、教授はそれなりに解りやすい解説をしてくれます。

興味を持ったなら、続編の『原子の国のトムキンス』もどうぞ。
って……今だと改訂されてタイトル変わってるんですね。(汗)
詳しくは上のリンク先へ。

日輪と書いてひのわと読んだりして

2005-02-17 23:18:01 | 学術書/新書
さて、どっかの明王さまが乗り移るマンガを思い出した第79回は、

タイトル:「魔」の世界
著者:那谷敏郎
出版社:講談社学術文庫

であります。

なや、と聴くと「ごろう」と呼びたくなるひとは私だけではあるまい(爆)

さておき、古今東西、さまざまな国や伝承で「魔」に属するとされる、いわゆる妖怪、魔物の類を解説した本。

初っぱなから「ナッツ(精霊)の国で」という題名でビルマ(現ミャンマー)の「魔」の話から入る。

ミャンマー!?

いきなりこれですかい。

だいたい「魔」というと、いわゆる悪魔。
ファンタジーだとだいたいヨーロッパ……キリスト教絡みを想像するかもしれないし、少し知ってるといろんな神話(ギリシャ、エジプト、インド、中国などなど)が出てくるかもしれない。

でも、初っぱなからミャンマーの「魔」から始まって、ミャンマーでは、ある政府要人が訪日する際、このナッツに「方角が悪い」と言われて、何の用事もないのに別の国に行ってから日本に来た、と言う話もある。

平安時代は「方違え」と言って、陰陽道で方角が悪いからいったん別の方角に行って、参内する、ってのがあったけど、未だにそれをやってる、と言う話も載っている。

魔を題材にした話だからと言って、いわゆる辞典のような感じじゃない。

魔を題材にしながら、その国の風俗や他の国の魔との関連性などなど、その国の説話や伝奇などの紹介をしながら、紹介していくもの。

学術文庫だから、って肩肘張って読むようなものじゃない。

タイトルで買ったものだったけど、かなり当たりだと思う。
すらすら読めておもしろかったし、いろんな国の「魔」……ホントの悪魔や精霊、龍などなど、いろんな発見もある。

ファンタジーが好きで、東洋の文化が好きで、いろいろ神話や伝説の類は読んだことがあるけど、それでもこれはおもしろい。

高い金を出して買う勝ちはあると思うよ。
これは学術文庫の中ではけっこうおすすめ。
本はあんまり……ってひとでも、魔が象徴する異文化の香りに浴することができると思う。
(おぉ、ひさびさのべた褒め(笑))

タネも仕掛けもございます

2005-01-26 13:16:58 | 学術書/新書
さて、魔法が使えなくても生きていける第57回は、

タイトル:大魔術の歴史
著者:高木重郎
文庫名:講談社現代新書

であります。

魔法ではなく手品の話。
カップと玉(玉が消えたり増えたりする奴)から、現代のイリュージョン(と言っても昭和六十三年当時だけど)まで、さらっと解説してくれてます。
奇術の歴史をざっと一望したい人には打って付け。

カップと玉、ハンカチやシルクハットから鳩、消えたり現れたり、首切り、人体浮遊、ラップ音、ポルターガイスト、白骨化、弾丸受け、大脱出、人体切断……等々。

しかしこれだけ並べると、いかに人間がアナログ好きかってのがよく解りますね。
すべてを自分の理解の範囲内に納めようとするのに、それでいて説明つかない現象を見たがるものなのだなー、と。

デジタルからアナログを作り出すってのは創作全般に言えることだけど、手品はそのアナログ部分をどーにかして知りたい、と思わせるところが素敵である。

かみはひかりあれでこうげき!

2005-01-18 18:15:44 | 学術書/新書
さて、第50回目前の第49回は、

タイトル:旧約聖書を語る
著者:浅野順一
出版社:NHKブックス

であります。

悔い改めよ~

深い意味はないです。ちょっと緑色を使ってみたくて……。

ユダヤ教とキリスト教、双方の聖典である旧約聖書の解説本です。
天地創造、アダムとイブ、カインとアベル、ノアの箱船、バベルの塔など、どっかで聞いた話について解説してあります。

天下のNHKだけあって(?)、内容は非常に真面目ですが、語り口調で丁寧に書かれているので割とすんなり読めます。
原典を読むのがおっくうだとか、ちょっとした知識を仕入れたい人向き。

無論、読んだからと言って、宗教にはまることはないです。
ただ、他のメディアでこれでもかと引用されているお話の原典を知っとくのも悪くないかと。

貴方はなぜ……と言われても困るよな

2005-01-14 21:21:50 | 学術書/新書
さて、ひねるネタもない第45回は、

タイトル:シェイクスピア劇の名台詞
著者:P・ミルワード
文庫名:講談社学術文庫

であります。

シェークスピア(イよりーの方が私はしっくりくる)劇の中から有名な台詞をピックアップし、場面の紹介と、劇の解釈を載せたもの。

紹介されている作品は、『ロミオとジュリエット』『夏の夜の夢』『ヴェニスの商人』『お気に召すまま』『十二夜』『リチャード三世』『リチャード二世』『ヘンリー四世』『ヘンリー五世』『ジュリアス・シーザー』『ハムレット』『オセロー』『マクベス』『リア王』『あらし』……しかしよくこんなに書いたもんだ。

うんうん、と納得してしまうものから、おいおい、と呆れてしまうものまで、多種多様な台詞が出てきます。
どの作品にも悲劇と喜劇両方の要素を入れるシェークスピアならではですね。
やっぱ一流のエンターテイナーだわ、この人。

ちなみに私のお気に入りはマクベス。
特にラストのどんでん返しが。

漢字の人

2004-12-05 13:53:24 | 学術書/新書
さて、記念すべき(いつまで続けるんだ)4回目は、

タイトル:漢字の話(上)(下)
著者:藤堂明保
出版社:朝日選書

であります。

漢和辞典などでは有名な人。
とは言っても辞書のように小難しい話ではなく、漢字の成り立ちや本来の意味などなど、「漢字ってのはこういうものか」と感心させられる本。

印象的だったのは、いまの学校での漢字の教え方は書き順偏重で、書き順なんかより、漢字本来の意味を教えるほうがいい、と。

確かに、「必」の漢字なんて書き順適当だけど、本来の意味や成り立ちを知るほうが読んでて楽しい。

漢字は苦手というひとでもおすすめできる本。
ただし、上下巻各1500円くらいで3000円と少し高めなのが玉に瑕。

早くも追加

2004-12-04 12:45:26 | 学術書/新書
早くも追加です。

素晴らしい、このペースなら一週間で1ギガ越えるかも。(絶対無理)

さて、記念すべき(あと何回記念しようかな)2回目は、

タイトル:厩戸皇子読本
著者:藤巻一保
発行所:原書房

であります。

割と力の入った聖徳太子研究本。専門書ほどお堅いわけではないが、古代史が苦手な人にはちとハードかも。

聖徳太子の伝記である『聖徳太子伝暦』の完訳が載っているので、資料としても使えます。300ページ1500円を高いと感じるか、安いと感じるかは人それぞれ……かな。

この本の真の活用法は『日出処の天子/山岸凉子』をよりディープに味わうためのサブテキストとすることです。(笑)
 
『日出処の天子』の皇子様はニューハーフでサイキッカーというとっても凄い人ですが、伝暦の皇子様はさらにその上を行く。

腹の中で仏を語るやら仏舎利握って生まれてくるなんてのは序の口。
愛馬に乗って空を飛んだり
平城京遷都を予言したり
挙げ句の果ては前々々々々々世の事まで語り始める始末。
一方、聖人なのかと思いきや、寺が受け取った布施を貸し出して利を取れだとかぬかすし。
私は釈迦の弟子なんだから小賢しい孔子の教えなんか守れるか、なんてことも言ってたりします。

いろんな人間が引き合いに出してイメージ作ってるから仕方ないとは思うのですが、実際のとこ彼はどんな人間だったのか?

本書を読むと、実在しなかった、という意見もあながち冗談に聞こえなくなってしまうかも。