君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
二次小説とオリジナル小説の置き場となっています。
同人に傾いているので入室注意★

『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 四話「ソルジャー・ブルー」

2012-10-21 01:37:42 | 『君がいる幸せ』Artemisia編二章 心の中は
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<人物>
ジョミー キースの警護をしていたが今は教育ステーションに在学中 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズ 人類が作ったブルージョミーのクローン(タイプブルー)
シド ミュウの優秀なパイロット シャングリラのキャプテン 今はジョミーの専属

   『君がいる幸せ』 Artemisia編 二章「心の中は」 四話「ソルジャー・ブルー」

  太陽系第三惑星「地球」衛星「月」黄昏の海 上空
 月が近づくにつれてジョミーが無口になった。
 その様子を見てシドがソルジャーズに声をかけた。
「君たちを信頼しているよ」
「シド?」
 艦橋を出て外部ハッチを開け、外へと三人は出て行った。
 黄昏の海と呼ばれるポイントには古い建物がありそこを覆うように巨大な青い氷の塊がある。
 前に来たのは三年以上前、青い氷は成長していた。
 あの時はトォニィですら近づく事が出来なかった。
 ジョミーは何も言わずに進んでゆく、そして、青い氷に溶け込むように中に入った。
 青い氷はあの時と同じように悲しみを湛えていた。

「おいで」
 氷の中に入るのを躊躇っているソルジャーズにジョミーが声をかけた。
「……」
 二人は意を決して氷に近づいた。
 スッと意外と簡単に中に入れた。
 この氷を作ったジョミーが良いと言っているのだからこれは当然なのだが、前に何をしても入れなかった事が嘘のようだった。
 氷の中は冷たさを感じなかった。
 氷のように見えてこれは氷ではなかった二人は悲しみが形になったようだとミュウ達が泣いていたのを思い出していた。
「そう…なんだ…仲間たちはここで泣いたんだね…」
 何も言っていないのにジョミーがそう反応した。
 ジョミーは薄く青く光っていた。
 古い建物の内部は所々で凍りついたようになっていたが、通路を歩き、ある部屋の前ででジョミーが言い出した。

「僕が初めてここに来た時、僕は自制心を失った。シドが君たちに僕に注意するように言ったのはそういう事なんだ。二度目はまるで観光のようだった。三度目はマザーに引き寄せられてここに…最後はブルーの心をここに戻すために来た」
「……」
「ブルー。見て、彼が君の本体だ」
 ドアを開けてジョミーがブルーを招き入れた。
 僕はドアの所から見ていた。
 ブルーがゆっくりと前に進み出て彼の棺へと近づく、その光景は少しずつ歪んで見えなくなった。
「もう泣かないって、ここでは泣かないって置いてきたのに…」
「ジョミー」
 クローンのジョミーが僕の肩を抱いていた。
「…ここには、反省と後悔しかない。ブルーを助けられずに逝かせてしまった事、身体を残すなんて事をして、君たちを人類は作り出してしまった。僕が希望を無くしてしまったからブルーは僕から離れる事が出来ずに彷徨わせてしまった。僕の身勝手な行動の象徴みたいなこの氷を見てミュウ達はブルーを想って泣いた。彼らはとても純粋だ。僕は仲間を裏切っていると知りつつ、ブルーの事を何年も黙っていた。それは僕のただの我がままだ。僕はこんなに酷いのに…僕は身勝手で自己満足な事しか出来ないのに…ミュウ達はあのシャングリラと同じように僕をまた迎えてくれるんだ。だけど、僕はどこまで酷い事をすれば気がすむのかな…」
「……」

「でも…それでも、君には見えるだろう」

「え?」
「誰?ブルー」
 あの優しい声がした。
「ブルー?」
「ソルジャー・ブルー。貴方ですか?」
 声はクローンのブルーからだった。
 彼の身体は時間が止まったようになって動かないのに、声が聴こえる。
「見えたのだろう?」
「ブルー!」
「…進めと、また僕に前を向いて進めと言うのですか?」
「見たのだろう。今の君と同じ、あの光を。希望の丘のあの朝日を」
「そうですね。あの朝日を」
 そうジョミーが言った瞬間に風景が変わった。
 空はどこまでも青く、流れる白い雲。
 足元には草花が咲いていた。
 チリチリと痛い程、冷たく澄んだ空気。
 そして、遠くに見える山の間から登ってくる朝日の眩い光。
 ここは、地球の希望の丘。

「僕は見た。あの時、この光を」

 あれが本当の意味での希望の光だ。
 明日を守る事、それがこれからの僕の生き方。
 いつか来る未来のために投げうったこの命。
 その使い道。
 失った希望はまた見つければいい。

「どこまでも、遠くへ」

「僕は貴方には追いつけないですね…」

 僕を探し続けて、僕を見守り続けて、僕を導き。
 僕を愛し。
 そして、去っていった貴方。

「大き過ぎます…」
「ブルー。お願いがあります…最後に…。今、貴方の心が入っている彼にキスしていいですか?そしたら、また嫉妬してくれますか?」
 そう言って、ジョミーはブルーに近づき、その首に手を回し引き寄せてキスをした。
 ブルーの手が優しく僕を抱きしめた。
 ジョミーのオーラが青から暖かいオレンジに変わっていった。







  シャングリラ(庭園)
「死んでも敵わない気がする…」
 クローンのブルーが一人呟いた。
「なんで勝てるなんて思ったんだろう…」
「ブルー。僕もだ…」
 横に座るクローンのジョミーが同調した。
「僕達は違法なクローンなのに、こうしてちゃんと生きていけるようにしてもらって、僕達はどこかでいい気になっていたんだ」
「ジョミーが力を無くして、身体も小さくなった時に僕も多分どこかで自分の方が勝ったって思ってた…」
「ブルーはもう死んでいて、伝説のタイプブルーって言葉だけで大した事は無いと思っていた。あんなに大きくて強かったなんて…」
「トォニィが氷に入れなった時、僕なら入れるって思ったのが恥ずかしい。多分、僕も入れなかったと思う」
「僕も同じだ。あの時彼にも勝てたと思った。そんなの全然なのに…」
「僕達は思い上がっていたんだ」
「自分とそっくりの固体が死んでゆくのを見て、悲しかったけど、どこかで自分じゃなくて良かったと思った…」
「そう。自分自身が死んでゆく経験なんてしていない」
「ジョミーはそれに耐えて生きてる」
「自分よりも大切な人を失った経験なんてしていない」
「多分、僕達はこの先もそんな経験はしない」
「経験がタイプブルーを作るのなら、経験がタイプブルーを変化させたんだな」
「もう、一生、敵わない。僕らは最初から負けていたんだ」
「ジョミーを自分の思いのままにしようなんてなんて…出来なかったんだ…」
「僕達は彼の手の内だ」
「僕達はまだ子供だから…身体はこうして人並みでも、まだ十年も生きていない」
「まだまだだね」
「僕達はどこかで間違えたんだ」

「人を愛するってのは、生きるのと同じくらいの覚悟がいるんだな」
「そうだね。好きなだけではダメなんだ」
「愛も憎しみも希望や夢や、そんな全てが入り混じって愛なんだ」
「愛する人と見る夢。同じ夢、違う夢。同じ望み、違う望み」
「同じ痛み、違う痛み。そして愛する事の重さ」
「一緒に居るだけが愛じゃない」
「だけど、一緒に居ないとわからない愛もある」

「それは、きっと全て経験で…。ああ、もう、何も考えられない…今の僕では無理だ」
「僕達はまだまだ届かないのだけは、はっきりしたね」

 シャングリラは月を離れて地球を一周した後、木星のメティスで補給しメサイアへの進路をとった。





  続く









最新の画像もっと見る

コメントを投稿