君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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「海を見たかい」 十九話 神格化

2012-07-25 22:16:21 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)


  「神格化」


 三鷹幸一は病院で事情聴取を受ける事になった。
 けれど、罪に問われる事はなかった。
 それは、俺の怪我は銃創ではないという事になったから…。
 どうやら、九条があちこち手を回したらしい。
 俺としても、病室の前に警察官がいる状態は窮屈だったので助かったのだが…。

 三鷹幸一は三鷹家の救急車で運ばれて行った。

 九条の家の方は季節外れの落雷という事になった。


 この事件を聞いて、東京に向かった春野が会社を休んで戻って来た。
 俺は三日で退院した。
 修理をしなければならなくなった九条家には戻れず、奈良市内の別宅へ行く事になった。

 色々な事が重なり俺の疲労もピークにきていたので、俺は、九条別宅で絶対安静扱いになった。
 俺が部屋で点滴をしていると、春野と孝之がやって来た。 
 俺達はこの事件のあらましを春野に話した。
 吉野で九条晴美から聞いた幸次郎と祖母の話から、兄弟だという事、そして、今回の幸一の話。俺と妹の明日花(アスカ)の事まで。

「じゃあ、カイくんは幸一伯父さんも被害者だと思っているの?」
「そこまでは思っていない。伯父にも罪はある。だけど、誠記が一番悪いだろ?」
「彼は何をどうしたいのかしら?」
「三鷹幸一が幸次郎さんを妬んでいるように、カイを妬んでいるから色々してくるんじゃないのか?」
 孝之が言う。
「でも、カイくんに言わせたら、彼の方が強いんでしょ?」
「うん。多分ね。でも、強いとか弱いとかそんな…ゲームのレベルみたいなモノで計れるそんなのじゃ無い気がしないか?」
「それじゃ、あれだ。子供が出来なくなって男として憎くなった」
「それもねぇ、俺の遺伝子を取ってったのは四年前で…伯父さんが言うには、病院でそれがわかったのは一年前なんだ…」
「自分で気が付いて、こそっと、病院に行ったのかもな」
「そういう物?」「なの?」
 と俺と春野が一緒に聞いた。
「え、あ、いや?俺はわからん」
 と孝之。

「でも、カイくん。妹さんの事はいつ知ったの?」
「高一の時、あの事件の後、三鷹から戻った時に母さんから聞いたんだ」
「カイくんからお母さんの話が出るの珍しいわね。それでなんて言われたの」
「帰ってすぐ、婚約者がいるって話を親父から聞かされた。その後で俺は独鈷を使った事をじいちゃんに謝りに行ったんだ。実は、あの独鈷は、あの日俺がじいちゃんの部屋から持ち出したんじゃなくて、本当は母さんから渡されたんだ…」
「お母さんが?」
「うん。じいちゃんが留守だったから俺はとりあえず塩だけ持って行こうとしたんだ。そしたら、これも持って行きなさいって。…多分、母さんも何かが起きるって感じてたんだろうな…」
「そうかもしれないわね…」
「それで、じいちゃんの部屋へ行ったら、母さんが居て俺の身の安全は守れたけれどって泣くんだ。それで、何が心配なのか?って聞いたら…三鷹には妹が居ると。明日花は俺の代わりに三鷹に引き取られたと言ったんだ」
「……」
 一旦、言葉を切ったカイは、それでさ、と続けた。
「俺の家…さ、近所からすると大きいんだ。造りもちょっと凝ってて、鉄筋2階建てで壁にレンガが貼ってあって、目立つ洋館なんだ。それは十年くらい前に建て替えたんだけど、その頃、親父も仕事を変えてさ、急に羽振りが良くなって…さ…」
「おい…、それってまさか」
 と孝之と春野が顔を見合わせる。
「多分、いや…絶対。三鷹からの金だ。いくらもらったか知らないが、妹を身売りして得た金だ」
「そうとは限らないんじゃ…」
 と春野が言った。
「慰めはいいよ。だから、俺は東京に行く事にしたんだ。予備校のお金とかは、じいちゃんに出してもらって、バイトもして。早くあの家から出たかった…」
「…あの事件のせいだけじゃなかったんだな…」
「最初は、じいちゃんや母さんはあの家で戦っているんだから、俺だけが出ちゃいけないんじゃないかと思っていた。でも、ミソカが言ったんだ。この出会いは偶然だけど、必然で。運命が回り出す。って、俺はそれに従ってみようと思ったんだ」
「……」
「そういえば、ミソカやツゴモリは、明日花ちゃんの事を知ってたんだろ?」
「ミソカが言うには、ばあちゃんが孫を守って欲しいって桜の木に願ったら、精霊が二人になったんだそうだ。だから、孫はもう一人居るはずだと思ってたらしい」
「そっか、でも…守りたくても明日花ちゃんは三鷹の結界の中だから…」
 と春野が言った。
 
 そこまで話した所で点滴が終わった。
 俺は点滴を外すと、彼らに眠ってもいい?と尋ねた。 

 ここは九条の別宅なので、九条本家より結界が薄い。
 俺は春野にミソカ、孝之にツゴモリを渡した。

「一つ、わかった事があるわ。だからカイ君、人は人の法に従えばいいんだって言うのね…」
「……」
「それは秋月の家も含めての事だったのね…」
「それは…俺もだよ…」

 彼らは部屋を出て行った。




 京都の街中では九条の噂が色々と枝葉がついて流れているとの事だった。

「またか、全く…何が面白いんだか…」


 ここは離れだったので、とても静かだった。
 そして、清浄だった。
「疲れた…」
 と俺がため息をついた。

「理解の遅い人間の相手は疲れるでしょう?」
 と声がした。
「俺も人間なんですけど…ね」
「そう…でしたね」
 と声は言った。

 俺の枕もとの独鈷に所々ヒビが入っている。
 それを手に取り俺は聞いた。

「これはもう限界なのか?」
「いえ、まだ少しは持ちますよ」
「それが…俺の運命なのか?」
「何がです?」
「俺は三鷹と戦いたいと思ってはいない。明日花を返してもらえればそれでいい」
「彼らはあなたに、叩き潰して欲しいと願っているんでしょ?そうしてやるべきなのではないですか?」
「…そうしたくないんだよ…」
「血族への情けですか?」
「…そんなもん。ない」
「では何です?」
「お前にはわからないよ」
「ここまで色々されているのに、憎しみが沸かないのですか?」
 俺は独鈷を元に戻した。
「憎いよ。戦うなら、本気で潰してやるから安心しろ。だから…もう消えろ」
「了解しました。期待していますよ」
 と声は消えていった。

「ふん、期待?何をだ?憎いだけじゃ、戦えないんだよ」





 春野と孝之はカイの代わりに九条との連絡を取っていた。
 今回の事で、九条は三鷹との完全な決別を決めた。
 カイを押したて「三鷹」にしようというものだった。

 三鷹の政界、財界への影響力は近年落ちていた。
 それは、三鷹の能力低下と同じだった。
 九条は、新たなる能力者が現れた。と宣伝してまわっていた。

「九条がこういうには何かあるはずよね?」
 と奈良の町に出た春野がコンビニで買い物しながら孝之に言った。
「何が?」
「んとに、鈍感ね。何で新たなるなんて言わなきゃならないか、よ」
「交代する可能性があるからだろ?」
「違う、違う。落ちぶれたとこを立て直すなら、救世主。とかじゃない?」
「救世主?大げさだな…」
「新たなる能力者ってのも十分に大げさよ」
「まあな…」
「こういうのは相手に興味を持たせなきゃ意味ないでしょ?」
「まぁそうだな」
「何か違う事が起きるのでって感じしない?」
「え、んーー、そりゃ、当主交代となったら違うだろう?」
「もー、そうじゃないって。何て言うのかなぁ…」
「何だ…何が何と、どう違うって言うんだ?」
「そう。それよ」
「え?」
「カイくんと三鷹誠記の能力が違うのよ」

「…違う?」
「そう、だから、新たなる能力。なのよ」
「??」
「どこがどう違うって思っているのかを、突き止めないといけないわね」
「どうして?」
「だって、カイくんのバックに九条がついた今、私達はカイくんから離されてしまうかもしれないでしょ?」
「そうなのか?」
「そうよ。三鷹家との事が終わったら私達はもう守らなくても良いんだから、九条はさっさと捨てるに決まってる」
「そんな、薄情な人間じゃないよ」
「薄情とかじゃないの。九条を大きな企業として考えたらそうなるの」
「俺達は関係者ではない事になるのか…」
「そ、ただの邪魔者でしかないわ」
「何にとって?」
「カイくんと九条の間のよ」

「でも、確かに。カイの能力が…カイの力が上がったって思っていたけど、それって違うのかもしれないな」
「うん。上がったっていうんじゃなくて…加わった感じよね」
「それって新宿からか?」
「蓮見明良が一年間の記憶を無くしているのだから、もうあの事件を知る人物はカイくんと孝之しかいないのよね」
「最初っから、他の人間死んでるけどな」
「九条はあの事件を公表しないでと言ってきた。そこに何があるのかしら?」
「地面に黒い穴が開いています。なんて知らせたくないって事だったよな」
「そんなの公表したって、ただの都市伝説で終わると思えたから何で止めるのかしらって思ってたのよ」
「孝之。何かなかった?」
「え?あーーー。わからないって…」
「何でもいいから思い出して」
「あの独鈷かな?」
「え?独鈷?新宿には持っていってないんじゃなかった?」

「持って行かなかった事が変なんだよ」
「そう言えばそうね…」
「春野さんがメゾンに入れなかった程のモノって見てわかったのに、ミソカ達を置いて行った。独鈷まで持って行かなかった」
「ミソカ達を守る為ってのは何となくわかるわ。あの子達は神聖な感じがするもの。そんな怨霊の溜まり場みたいな所には連れて行きたくないわ」
「独鈷にも何かがいて連れて行けなかったか、それとも何か別の…」

「もう、これは。米沢に行くしかないわね」
「電話じゃダメか?」
「うん、だめな気がする」
「そだな」
「私、このまま奈良駅に出て、関空へ行くわ」
「今からか?」
「そうよ。早い方がいいでしょ?」
「まぁな」
「あ、カイくんには会社から呼ばれて一旦帰ったって言っておいて」
「カイに内緒にするのか?」
「そうよ。私たちがコソコソ調べてる理由をなんて説明するのよ?」
「あ、そうか…」
「もーー、歯切れが悪いわね。いつもの元気な、体育会系はどうしたの?タカくんも、最近、変なのに気がついてる?」
「まぁ、ちょっと、カイんとこの問題が大きすぎて考えちまってるだけだから…」
「そうよねぇ。ちょっと、有りすぎよね?とても自分じゃ抱えきれないわ」
「だよなぁ」
「それじゃ、これ買ったのを渡しておいてね。後は頼んだわよ」
 と、春野はタクシーを拾うと奈良駅に向かった。

「女って強いな」
 って思った。
 俺なんて、三鷹幸一と会う前にカイにビビってんじゃねぇって言ったけど、あれは自分に向かって言った言葉だった。
 京都駅で、カイが不安を感じているのを見た時、俺は安心した。
 こいつも普通の人間なんだって、思った。
 …普通の人間?
 なんで俺はカイにそう思わなきゃいけないんだ?
 あいつは普通の人間だろう?

 しかし、
 あの独鈷。と 新宿事件。
 あの時、どうしてカイは独鈷を持って行かなかったんだ。
 俺は何を見た?
 あそこで俺は何か感じたはず…。
 いや、あれだけじゃない…。
 俺はまだどこかで、あいつに違和感を感じたはずだ…。

 カイ…。
 何故、こうも問題が起きるのだろう。
 それを起こしているのは、三鷹誠記だ。
「有りすぎよね。とても自分じゃ抱えきれないわ」
 と、さっき春野が言った。
 確かに一人では抱えていられないなと俺も思う。
 明日花ちゃんの事は、幸次郎さんとお母さんと話せると思うが、自分の身代わりになった妹の事をそうそう気軽に話せはしないだろう。
 それと、幸次郎さんと三鷹幸一の事は知らなかったようだし…。

 これだけの事をどうやってカイは背負っているんだ?
 何があっても動じない?
 そんな事はないよな…。
 色々、小さい時から見てきているから平気?
 そんな訳ない…。
 幸次郎さんが「三鷹」継いでくれていればと言ったじゃないか。
 あの時、あいつは本当に辛そうだった。

 そうか、俺達はあいつの泣き顔を見ていないんだ。
 俺達は…。


「お願いです。手を延ばして下さい。この手をつかんで!」

「…ダメです。いかないで…」

 あの新宿でカイは泣いていた。
 二人を救えないと泣いた。

 霊にお願いをしていた。

 何が違うのだろう…。
 どう違うのだろう…。
 彼らが特別だった訳じゃない…、あの時。
 カイは単独で解決しようとしていた。
 でも、出来なかった。

 カイは自分の力を知ったのか?
 自分だけの力の限界を…。

「俺に普通の人間とどう戦えと言うんだよ」

 普通の人間と、とカイは言った。
 じゃあなんだ。
 自分は普通の人間じゃないって事なのか?
 前に俺はあいつが格好つけてると思っていた。
 最近はそうじゃなくて、結構本気で色んな事を言っているんだと気付いた。
 なら…、あれは本気なのか?
 あの時は、三鷹誠記と三鷹幸一を比べて幸一の方が普通だと言う意味だと思った。

「戦う?そうなるとは限らないだろう?何でそんな…」
 と聞いた俺の質問にカイは
「十五の時、俺はあいつに殺されかけているんだ」
 と答えた。
 だけど、それが戦う事の答えじゃない。
 はぐらかしたのか?

 カイは横浜で自分を怖くないかと春野に聞いたらしい…。
 霊とかが見える自分を怖くないかと、見える春野に聞く訳がない。

 自分を怖いと思わせる何かが加わったって事だ。


 あの独鈷。
 あれにはきっと何かがある。

 俺は春野にメールを送った。













「…今の、俺には人の言葉が真っ直ぐに入ってこないんです…」

「カイくん…どうしてそれを私に言うの?」

「九条晴美さん。あなたには俺を知っておいてもらった方がいいと思って…」
「どうして?」
「俺は、三鷹へ向かう前に、きりかさんにプロポーズをしようと思っているんです。でも、だからって、彼女に俺の弱さを受け止められるとは思えない…」
「…そうね」
「あなたには俺の悩みがわかってもらえる気がする」
「でも…わかってあげるだけよ。それ以上はないわ」
「わかっています。俺もそこまで節操無しじゃない…」
「……」

「晴美さん。俺が今までどうやって三鷹の情報を手に入れてたと思います?」
「え?」
「秋月家は極力外されていたのに…ですよ…」
「…わからないわ」
「十五の時に、俺の精子を採取したのは女医だったんです」
「…カイくん…」


 彼が術を使う様を見たらきっと普段のイメージとは違うのだろうな、とは思っていた晴美だったが、彼は、自分の想像以上…。
 幸次郎と柚が自分達の子供と、その孫まで守るために隠してきた本当の力。

 三鷹の血も引継ぎ、その祖先まで遡っても…彼ほどの者はそうはいないだろう。









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