君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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「海を見たかい」 二十話 決戦の地 米沢

2012-07-27 02:08:58 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える 大学2年      秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪? ミソカとツゴモリ
視えないが力は強かった祖父        秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女    春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる      大川孝之
高校の同級生 カイが好きらしい…     三沢結花
三鷹の親戚 京都の九条本家当主の妻    九条晴美
秋月の本家 三鷹家の若き当主       三鷹誠記
三鷹家の前当主 秋月幸次郎の実兄     三鷹幸一


  「決戦の地 米沢」


 京都の九条家の事件から半年近くが過ぎた。

 俺達の後ろには九条家を中心として「松月」がついた。
 この半年の間、動かせる権力を全て使い、三鷹を政治的に孤立させていった。

 三鷹の弱体化は目に見えるようだった。
 毎日各地で何十人もの信者が逃げていると聞く。
 ネット内でも、色々騒がれていた。


 それに対し、三鷹の現当主は何もしなかった。

 俺達は彼の覚悟を見た気がした。


 こうして表面化した事で益々俺達と三鷹の対決は避けられなくなっていった。



 まだ暑い九月の終わり、俺達は東京に居た。

「そろそろマスコミも明日花ちゃんの事に気付き始めているようだし、このままこの勢いで責めていったら返してくれるんじゃないか?」
 と孝之が言った。

「…なら、決戦の時が来たって事だな…」
 とカイが答える。

「何でだよ。誰も危険な目に合わなくていけるじゃないか?」
「戦うって言うか、私も危ない事はして欲しくないけど…それは避けられないと思うわ」
「春野さんまで。どうしてだよ」
「…警察も行政も動かさない…俺達でやるんだ」
「カイ。だって、そうだろ?俺達が三鷹に行ってこそっと連れて帰って来れるなんて誰も思っていないだろう?」
「だけど、今、マスコミが騒ぎ出したら明日花ちゃんはどうなるの?今まで、家族の誰とも会えないような所で十年生きてきて、やっと、家族に会えたと思ったら今度はマスコミに追われて、ずっと逃げて生きていかなきゃならなくなるのよ」
「そ、それは仕方が無いじゃないか」
「薄情な男ね!知らなかったわ」
 と、春野は孝之を睨んでいた。

「冬が来る前に何とかしないと思っていたから丁度いい…」
「カイ。俺はお前を心配して…」
「俺の心配?それは違うだろ?お前は…」
 カイが言いかけた言葉を春野が遮った。
「それ以上言っちゃだめ…。お互いがお互いを破滅させるわよ」
「そうだな…」
 とカイが頷く。

「…っと、カイ。ごめん。もう今更だったよな。何の為に俺が式をちゃんと使えるように練習してたかわからなくなっちまうな」
「そうだよ。タカくんも頑張ってたもんね」

 最近、前にも増してしゃべらなくなってきたカイを、春野がフォローするようになってきていた。
 二人のこんな言い合いも増えた。
 それは、カイも孝之もその日が近いと感じているからに他ならなかった。


「だけど、そう簡単にいくとは思えない」
 と孝之が言った。
「向こうはどうしようと言うのかしら?まさか、明日花ちゃんを人質にしてるから大丈夫って思っているのかな」
「……」
「カイ。どうする?」
「群馬の本家には、マスコミがもう張り付いているから、米沢の三鷹家で会合をしたいと、松月からの招待状を出してもらう。これで、本家よりは勝算が上がる」
「米沢で?九条に…京都に呼ばないの?」
「京都だと、三鷹誠記しか来ないだろう?今、米沢の三鷹に明日花は居るんだ」
「居る場所がわかるなら、今すぐ助けに行こうぜ」
 と孝之が言う。
「招待状を出して、お前が京都にいると三鷹を呼んで、その隙に奪回するんだ」
「それは、出来ない。俺無しでは無理だ」
「それじゃ、お前が京都に居ると嘘を言って…」
「すぐにバレる嘘を付いても意味はない。それをしたら三鷹はもう2度と招待を受けなくなるぞ」
「なんで、松月の招待は絶対なんだろ?」
「…半年前までならな…」

「じゃあ、お前抜きで俺達で、九条にも来てもらって…」
「九条は呼べない」
「何故?」
「それが彼らとの契約だ」
「奪回すればすべて済むんだぞ」

「彼らは戦闘向きじゃないんだ。使えない者は無理だ」
「そんな事いっても」
「…強力な結界が…あるんだ」
「そんな物、我皇が居れば、どうとでも出来るだろう?」
「向こうに死人が出てもいいならな…」
「……」
「何人犠牲が出るかわからない。簡単に奪えるなら、こんな時間をかけないで俺が行ってた」
「だが、カイ。それなら、時間をかけてもかけなくても同じなんじゃないか?」
「…死人を出しても構わないと俺が思えるまでの時間だ」
「お前…だから信者を減らすのに躍起になってたって事なのか?」
「それ以外に方法が無いだろ?」
「だから。警察にだな」
「罪も無い警官まで殺す趣味は俺には無い」
「だけど、それが仕事だろ?」
「こんなヤクザ同士の小競り合いみたいな喧嘩に巻き込まれて死ぬのが仕事?」
「カイ!」
「ま、待って。やめて」
 とまた春野が止めに入った。

 ちょっと頭を冷やして来ると言って孝之は出て行った。
 きっと、タマリに電話してるわよ。と春野が言った。
 俺もそうだろうなと思っていた。


「俺って、孝之に頼ってるよなぁ…」
 ぼそりとカイが言い出した。
「そだね」
 春野は頷いた。
「意外だったもんな。九条でツゴモリを渡したら、本当にちゃんと抑えれてさ…気持ちで動くっていう事なんだろうな…」
「視えない人だったのに、ホント凄い進歩よね」
「うん。進歩って言うか、あいつ結構努力家だからさ、何にでも、がむしゃらにやって、そこが面倒な時もあるけど、結局はこうしてモノにしてっちゃうんだよな」
「変に真面目なとこあるし」
「だね」
 と俺達は笑った。

「だけど、本当に良いのかな?あいつを巻き込んで…」
「心配だから連れて行かないって言ってみれば?」
「……」
「言えないんでしょ?」

「じゃ、怖いから一緒に来てって言ったら?」
「……」
「それも言えないわよね?」

「だったら、もうこのままで良いのよ」
「…それで良いのかな?」

「だけど、今更、そんな事を本気で聞いたら殴られるわよ」
「あっは。そうだね」
「そうよ」


「春野さんも、側に居てくれて本当に助かっているよ」
「え?そう。何、私にまで今更な事を言ってるのよ」

「だけど、春野は三鷹に行く俺達を出来れば止めたいと思っているだろ?」
「そりゃあ、何かあったらイヤだから、止めたいわよ。だけど、妹さんを助けれるのはカイくんしかないじゃない」
「ん、明日花の事じゃなくて。三鷹と喧嘩するのを止めたいと思ったでしょ?」
「まぁね。一応知り合い同士だもの」
「彼が本当に俺に敵として対峙して欲しいと思うなら、春野や孝之に危害が与えられれば…俺は本気になるのに。彼はそれをしない。脅してきたのに、やってこない。いくら俺が式を守りにつけていたって、やり方はある。俺がやったみたいに送り返してやればいいんだ」
「…そうね。何をしたいのかが、わからないわね」


「だけど、一つだけ言えるのは、まだ春野さんを好きなんだよ。きっと」
「……だったら、ちゃんと会いに来て欲しいわ」

「…そうだね…」
「だけど、この時にも明日花ちゃんはどうしているのかしら…」

「きっと…大丈夫。俺は信じている」








 その後、すぐにカイは九条へ指示を送った。

「九条家にはここからは、外堀を埋めてもらうだけでいいです。もうこれ以上の介入しないで下さい」
「わかりました」
 九条晴美が答えた。

「米沢でも、三鷹の息のかかった人間は多い。市内を抜けて逃げる算段もしなとな」
 孝之が言いながら地図を見ている。
 彼は半年の間に車の免許を取得していた。
「私は何をすればいいの?」
「春野さんは、例のネットワークを使って、それを動かして頼みたい事がある。だからいつでも人を動かせるようにしていて欲しい。春野は結花さんと九条に行って待ってて」
「わかったわ」
「それと、当日、米沢の孝之の家族と結花の家族にはとりあえず、秋月の家に来ていて欲しい。あそこは守護されているし、じいちゃんが何とかしてくれる」
「守られているの?」
「ああ、小さな神社くらいの力はあると思う」
「それって、幸次郎さんが家を出なかった本当の理由かしら?」
「守りきれなかった明日花の帰る場所を守っているって事だね」
 カイがそう言うのを、春野はじっと見つめた。
 その視線を感じてカイはあわてて言葉を付け加えた。

「明日花と俺の帰る家を守ってくれているんだ」

 そう言われた。
 ううん。
 そう言わせた。
 だけど、カイくんはもう戻る気が無いのじゃないかと春野は思った。







 やがて、十月。

「松月」が「三鷹」に指定した日が訪れる。


「ミソカ、ツゴモリ、我皇の全部を使うんだな」
「ミソカは明日花を探しに行かせる。ツゴモリはお前に渡す。我皇は俺と」
 とカイは孝之に指示した。

 当日の朝早く、三鷹誠記は米沢の三鷹家に現れた。

 彼が屋敷に入ったのを確認してから俺達も三鷹の門を叩いた。



 前の時と同じように「三鷹当主」に会う為には正装に着替えなければならなかった。
 今度はカイは孝之の着付けをしなかった。
 俺達の持って来た護符やら塩やらの装備品が向こうへ取られるかと思ったが、そのまま渡された。
 もちろん、カイの独鈷もそのままだ。

 門から順に奥に進む程、結界が強くなってゆく気がした。

 屋敷の形は真ん中に白い玉砂利の中庭があり、それをぐるっと囲むように長い廊下がある。どこかの神社みたいな造りだった。
 廊下を行った先に白い壁の横に長い建物が拡がっていた。

 大きな部屋で待っていると、しばらくして三鷹誠記が現れた。
 そして、テーブルもない部屋の向こう側に座った。 



「久しぶりだな。秋月晦」


「お久しぶりです」



「今日は招待をありがとう。ま、ここも、我が家みたいなものだから、私が御もてなしをさせてもらうがな」
 と笑った。

 カイより少し低い威圧的な雰囲気がする声だった。
 これが、三鷹当主。


「三鷹誠記さん。何も、おかまいなく…」

「なにを焦っている。久しぶりに戻って来たんだ。別に急がなくていいだろう」

「俺はここで預かってもらっている。妹を引き取りに来ただけです。ですので、すぐに帰りますから」
「ふーん、そうか」

「どうぞ、何もお気になさらずに」

 三鷹誠記が立ち上がり縁側に出る。
 外には屋敷の裏山が見えた。
 ここは小高い山の中腹、きっと反対側に行ったら米沢市内が見渡せるのだろう。

「晦。君の頼りにしているミソカとツゴモリがこの中に入って来れないのを気付いているかい?」
「…知っています。ここは…不浄だから…」
 カイを見ると、額に汗が滲んでいた。

「怨念が君には辛いだろうね。それじゃ、失礼するよ」
 と誠記は隣の部屋に消えた。


「カイ。追わないのか?」
 孝之は腰をうかしている。

「まだ…動けないんだ」
「何?」

「だから、言ったろ。ここは不浄だと…。誠記が立ち上がるまで気がつかなかった。この床下に人が…死んでいるんだ。まだ、間が無い。だから、ツゴモリたちはここまで入ってこれない。俺は…、断ち切るから待って…。そしたら動けるようになる」
「切るってお前、無理やり祓うのは嫌いだろう」
「…そう。でもそうするしかないだろ」
 とカイは真言を唱えだした。
 手にした護符が燃える。

 どこかで呻く様な声がした。
 一人や二人じゃなかった。

 孝之は青ざめた。
 三鷹誠記がやったのか?

「追うぞ」
 カイが走りだした。
 孝之はそれに従った。



「ツゴモリ、ミソカが使えない。俺の我皇をお前に渡す」
 走りながらカイが言った。

「カイ。それじゃ、お前の守りが弱くなる」

「いや、俺よりお前が心配だ。我皇は幸一伯父と確執がある。伯父さんの式と戦う事になるから、心しろ」
「伯父さんの式?京都じゃ持ってなかったじゃないか、あいつ、使えるのか?」

「使えるさ。大伯父は陰陽師だ。曲がりなりにも三鷹の当主だったんだからな」


 何度目かの部屋を通り過ぎようとした時、横から大きな蜘蛛が出て来た。
 俺達は左右に分かれた。

「土蜘蛛か…伯父貴の式だ」
 カイが予測した通りだ。

「我皇、孝之を守れ!そして、勝ってみせろ!」
 走りながらカイが我皇に指示を飛ばす。
「承知」
 我皇が答える。

「カイ!」
 孝之は我皇の側から離れられない。

 先を行くカイを見送る事しか出来なかった。









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