君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
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同人に傾いているので入室注意★

「海を見たかい」 二十二話 逃避行 西へ (最終回)

2012-07-28 03:11:21 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える 大学二年      秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪? ミソカとツゴモリ
視えないが力は強かった祖父        秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女    春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる      大川孝之
高校の同級生 カイが好きらしい…     三沢結花
三鷹の親戚 京都の九条本家当主の妻    九条晴美
秋月の本家 三鷹家の若き当主       三鷹誠記
三鷹家の前当主 秋月幸次郎の実兄     三鷹幸一




 「逃避行 西へ」


「北村大地と悠太ですぅ」

 と乗船名簿に書き込み、孝之は予約してあった紙を渡した。
 それはさっき、米沢で借りたレンタカーを長野方面へ送っておいてと頼んだ春野の知人達の名前だった。

「弟さん、大丈夫ですか?」
 フェリーターミナルの待合でイスに座って、よくある派手な柄のついたダボッとした紫のジャンバーを着て、帽子を目深にかぶり、どこで怪我をしたのか腕を吊って、肩で息をしている俺を見て受付が聞いた。
「ああ、弟は、船が嫌いなんですよぉ。でもね、乗れば平気になっちゃうんすよ。よく飛行機とかであるでしょ?あれの船版っすよ」
 と、口から出任せを言っている。
 孝之もそういうのが上手くなっているんだな。と俺は思った。
 見るからに俺達二人はどこかイカレタ兄弟だった。

 受付の男は、あまり関りたくないという表情でチケットを渡した。



 フェリーに乗り込み部屋へ入ってしまえば、もう歩いて見せる必要は無くなる。


 三鷹絡みのモノ達は、俺達の血を追って東京へ行っているといいが…。


 肩の傷は縫合してもらったが、部分麻酔で意識がある分、効きが悪かった。
 短時間でも眠って体力を温存させて行かないと、京都まで持たない。
 だけど、何かあった時の為に、俺は完全に眠り込んでしまう訳にはいかなかった。

 休憩を入れて三時間の車での移動中は、なるべく俺は気配を消して横になるようにしていた。
 眠ってもすぐに小さな振動で起きてしまうので、当初の計画の車での長距離の移動は諦めた。
 飛行機や電車は個室が無い。

 なるべく人に見られず移動したかった。
 それで、俺達はフェリーを選んだ。



 フェリーの部屋に入ると、カイはベッドに倒れこむように横になった。

 肩の骨にあたって横の流れた刀。
 動かさないように固定された左腕、ぐるぐるに巻かれた包帯。



 春野の知人の医者は何も言わなかったけれど…
 左腕はもう使い物にならないかもしれないな。


 これが俺達の命の代償。

 あの時、三鷹が振りかぶるのではなく、突きだったら…。
 俺達兄妹はあそこで死んでいただろう。

 三鷹誠記。
 俺があいつを撃った時、あいつが笑ったのを見た気がした。


「やはり…俺に殺して欲しかったのか…」

 なら、殺してやればよかったのかもしれない。
 いや、そんな事は出来ない。
 …してはいけない。
 思考が変な方向へいく…。

「熱が出てきたようだ…」



 米沢でもらった鎮痛剤を俺は飲んだ。
 薬が効いてくるまでの間、孝之と話した。

 これで、敦賀まで寝て行けそうだ。



 ベッドに横になっている俺を孝之が覗き込んだ。
 
「大丈夫か?」
「ああ、何とか落ち着きそうだ」

「カイ。俺が聞いたのは怪我だけじゃなくて…」
「…ん」
「秋月の事はあれでいいのか?」
「明日花の事か…」
「置いてくるだけで良かったのか?」
「じいちゃんが全部ちゃんとやってくれるさ」
「話はしてあるのか?
「ううん。独鈷をもらってからは、何一つ話していない」
「そうか、三鷹にハッキングされてるかもしれないんだったな…」


「だけど、お前が死んだ事にするってのは…相談もなしでは、やり過ぎじゃないのか?」
「相談して、反対されてもやるなら、同じだよ…」
「そうだけど…家族だろ?」

「俺を、秋月海を死なせるって事は、前から決まっていたじゃないか…」

「春野にも言えないままだし…」
「九条が出した条件なら仕方ない。俺の葬式で彼女達には本気で泣いてもらわないといけないし…。でも、口止めはしたけど…俺達が生きている事は世話になった春野の友人達が見ている訳だから…春野はわかってくれる」
「結花さんは?」
「春野と同じ…いつか会えればいいさ」
「お前はそれでいいのか?」
「ああ」

「孝之こそ、タマリちゃんに会いたいだろ?当分、京都住まいになるんだから、呼んで案内してやれよ」
「え、あ。泊まりでか?」
「京都日帰り?それじゃ修学旅行と同じじゃないか…そんなのつまんないよぉって言われるぞ」
「おい、カイ。真理さんはそんな事言わないぞ」
「そか?俺にはいつもこんな口調だぞ」
「そ、そうなのか?」
「タマリは良い意味でお前に緊張してるんだよ」
「良い意味で緊張する?」
「いつか、この男とは一線を越えるかもしれないって思って緊張してるんだよ」
「一線…」

「俺にちょっかい出すのは遊びだよ」
「遊んだのか?お前」
「そのまま取るなよ。タマリに限らず…」
「そ、そんなに遊んでいるのか?そういやお前、アレ持ってるヤツだったよな」

「……バカか、お前。俺と何年いるんだよ」
「だけど、お前って得体が知れない所あるし…」

「孝之。だからさ、俺に近づく女は俺の中に、安心感と危なさを見るんだよ」
「安心と危なさ?」
「俺は好きな女がいるから、その辺、最初は安心して寄ってくるんだ」
「好きな女がいるなんて、わかるのか?」
「みたいだね。女に興味ない態度とかで本命がいるなと思うんじゃないかな?」
「それなら、お前に声かけても意味ないんじゃないのか?」
「だから、最初だけだよ。女の扱いとか慣れてる方が話やすいだろ。ただ、それだけ」
「それで?」
「それで、俺に彼女が居ないとわかると、そんな女を追わないでここに私が居るじゃないってライバル心が芽生える…」
「そ、それで?」
「雌になって、俺を雄として見るようになってくるんだ」
「……」
「けどそれは、火遊びみたいな物で一瞬で消えるさ…」
「そんなのが女にはあるのか?」

「人より抜きん出ていたいのは誰でもあるだろ?それに女の部分が加わっただけさ。初めてはこの男に教えてもらおう。気持ちよく出来そう。ってそんな感じの事だ」
「お、おまえ……お前はそういう意味でモテていたのか?」
「……」
「しかし、お前は女の子をそんな風に見てたのか?何か俺、ショックだ」
「もちろん、そういう目で見てない子もいるよ。純粋に好きだって言ってくる子もいるし」
「わかるのか?」
「見てりゃ、それなりにわかってくる」
「…場数の問題かぁ…。俺には一生見分けられねぇ。気がする」


「でもさ、そういうのも、大人になれば変わってくる。今だけさ」
「…そうだな」

 大人になれば…。



「そういえば、俺はいいけど、お前は二十歳だもんな。今回の事どうなるんだろう?」
「どうなるかな…。不法侵入はしてないよな?器物破損は、めいっぱいしたけど、あの土蜘蛛にしか使っていないし。お前の伯父さんは俺の前には出て来なかった。後は、空を飛ぶのは何に引っかかるんだ?制空権?でも、そこまで高く飛んじゃいないよな…まさか、警察や自衛隊に飛びますからって言えないし…なぁ…」

「お前は多分大丈夫だよ。俺はそれに加えて、死体遺棄と銃刀法違反と殺人罪か、殺人未遂かな?…」
 
 改めて、言葉にすると、やはり随分ヤバイ事をしてきているのが孝之にもわかってきた。
 それはカイも同じだった。


「もう、秋月海は死んだんだけどな。霜月海としての戸籍はもう受け取った。東京のメゾンも今は九条の物だけど、いつかは、霜月海へ移すし、名前と経歴が変わるだけさ…。今から俺は札幌育ちになるだけだ…」


 俺達のしてきた事は本当にこれで良かったのか?

 人の法で言うなら、これは正しい事ではない。


 俺達は間違っている。


 けれど、人の法にまかせて、沢山の人間を死なせてゆく「三鷹誠記」を、ただ眺めていれば良かったのだろうか?

 狂ってゆく彼を見ていればよかったのだろうか?



「最初っから「俺」が「彼」の前に現れた事が間違いだったのだろうか?あの時、彼は俺達を見逃さずに、何故、殺そうとしたのだろう」

「それは、明日花ちゃんを好きになっていたからじゃないか?」

「それなら、三鷹のとこと秋月は、そうとう運が悪いな」
「幸次郎さんと伯父さんの事か?」
「俺が米沢で明日花の部屋に入った時、ばあちゃんが居たんだ」
「もしかしたら、幸一さんはまだ好きだったというのか?」
「多分、そうだろう…。十五の時、俺を殺しきれなかったのも、ばあちゃん譲りの髪と目があるからだと俺は思っている」
「そうか…」
「ああ」
「だけど、誠記は明日花ちゃんを気に入っていたなら、秋月に戻して正式に結婚を申し込めばいいのにな」
「そこが、春野を諦め切れていない現れだろう」
「何年も式を張り付けているくらいだからな…」
「その春野が俺の側にいる」
「複雑だな…」
「単純だよ。三鷹なら明日花を本妻にして、春野を妾にすればいいんだ。だが、それが出来なかった…」
「自分の母親がそういう境遇だもんな。そういう事をしたら不幸になると思っているんだろうな」
「あいつは親が好きなんだ」

「お前はどうなんだ?」
「…俺は、妹を売り飛ばした罪を世間に公表して。自分だけこうして逃げている。そんな息子が親を好きとは言えないだろ?」
「家族が間違ったら諭すのも家族だろ?」
「……」

 
「でもさ、さっき、お前が言った事を考えた事があるんだ。誠記とお前は、最初っから会ってはいけない者同士だったんじゃないかって。二人は違う方向を見て生まれた。それが、血縁の関係で出会ってしまった。そこからお前達はお互いがお互いの持っていない部分、それは二人共が欲しがっても手に入らない部分を欲しがった。年齢の違いで先に手を出したのは、誠記だった。そこが彼の不幸だ」
「……それで?」
「最初は、本気じゃなかったのかもしれないな。だけど、妹を取ってもお前の両親はお前に言わないし、お前も気がつかなかったから」
「少しは覚えているんだ。でも、あの頃、母さんはずっと入院をしてて家に居なかった。でも、お兄ちゃんになるんだからしっかりしないと、とは言われてた気がする」
「で、あいつは妹を返すタイミングを失ったまま、大人になり。春野を好きになったりしながら、順調に当主の道を進んでいた」

「そこに、また俺が現れた」

「十五になったお前は我皇が興味を持つような能力者になっていた。それで、あいつは慌てて家に連れてきた」
「そうか、もしかしたら、あの時、明日花を俺に返そうとか思っていたのかもしれないな」
「と、なると、伯父さんがお前を殺そうとしたのがわからないな」
「あれは…伯父さんは本当に心身喪失状態になってて、単純にそうなっただけかもしれない。俺はあの時、首を絞められて死にかけた。独鈷から黄龍が俺に勝手に入ってきて伯父を撥ね退けたんだ。それを誠記が見ていた。黄龍が抜けた俺は正気に戻った。そして俺は誠記に生まれてきたことを後悔させてやると言われたんだ」
「つまり、誠記の中にあったお前へのライバル心に、お前が知らずに火を点けたのが、その後の問題へと続いた訳だな」
「その後、じいちゃんに言われて、俺は逃げるように東京に来た。そこで、春野に出会って、彼の式を剥がした」
「三鷹はあわてて当主交代をした。これで、お前にも幸次郎にも勝ったと思っていたのに、お前はどんどん力をつけていって…」

「とうとう、九条が俺を獲得に動き出した」
「それで、現状を把握するか、直接ダメージを与える為に、京都に父を向かわせて自分もこっそりついてきた」
「俺はあいつの式を撥ね返し、家を破壊する程の力を見せた」

 やっぱり、あの力はほとんどお前の力だったんだ。
 でなきゃ、会う前に家を壊してもなんて言わないよなと孝之は思った。


「複雑だな…」

「なぁ、さっきのお前の話の結論は何だ?俺と誠記が違う方を向いて生まれたってのは何だよ」

「あれは、お前が人間不信になりかけた頃に思ったんだ。我皇を手に入れてミソカとツゴモリを段々と使わなくなっただろ?あの時、お前は必死になって三鷹を追っていた。我皇を手に入れてやっと反撃できるかもしれないとなれば嬉しいだろうけれど、お前はどんどんと三鷹に近づいて行ったんだ」
「人の汚れや穢れを俺は見ようとしていたんだよ…。そうしなければあいつを理解出来ないと…そうでなければ強くなれないと思っていた」
「それはあいつがそう思うようにと仕向けたんだよな。だけど、実際のお前は依代で…」
「俺の、人間の部分は汚れても、神を入れる器の部分までは汚れなかった…」
「お前さ…、新宿で死のうとしたろ?」
「?」
「してないか?それか自分ではそう思った事すら気付かなかったか…だな」
「孝之…、お前には俺がどう見えていたんだ?」
 俺は恐る恐る聞いた。

「そうだなぁ、人間不信と言うより、自分不信かな?自分に自信が無くなったって言うのでもなくて、変わっていく自分が怖くなったような…それでお前は独鈷も持たずに新宿へ向かった。あそこに穴がある事も、行ったら出られなくなるかもしれないのに入っていった。それで、出られなくても、穴に落ちて死んでも良いと思っていたんじゃないかと思ったんだ。死んでもあいつらを助けたいと思ったんじゃないかって…一緒に落ちてでも救おうと無意識にしてたんじゃないかと…」
「……お前心理学者になれよ」
「でさ、俺はあの誠記とお前の…何ていうか、根本的な違いを見た気がしたんだ」
「……」

「だから、最初っからの違いだよ。白と黒みたいな。誠記を黒としたら、お前が白。二人が相手を欲しがっても二人は全然グレーにはなれないんだよ」

「それは、生まれの所為なのか?」
「生まれもあるだろうが…。ミソカの言ったように、運命だと言ったらそれは悲惨過ぎるよな?神が与えた試練と言われても、それで死んでいる人がいるんだからイヤだよな。キツイ言い方かも知れないが、お前が自分で選んで歩いて来た道じゃないか?誠記もそう、俺や春野さんもそう。幸次郎さんも、皆だ」

「俺が選んだ?」
「そしたら、自分で自分の責任を背負って生きるしかないだろ?」


「運命と嘆いて逃げるのはダメなのか?」
「していいんじゃないか?」


「神の試練だと神を恨んでもいいのか?」
「いいんじゃないか?」

「…じゃ、どうしろって言うんだ…」


「そこも、カイ。お前が選べばいいんだよ。俺の言った事が当たってるなんて俺は思っていない。ただ俺がそう感じただけだ」
「……」

「お前が運命だったと思うならそうだろう…。神の所為だと思うならそれでいい…」

「……」

「だけど…お前は自分で背負ってゆく覚悟をしてんだろ?お前が事件の前に秋月から籍を抜き、死んだ事にしたのは、ご両親がしてしまった事はもう取り返しがつかないけれど、自分がした事は全部自分で持っていくつもりだからだろ?」
「……」
「お前が親を嫌いだと思えないんだよな…」

「嫌いだよ…」
「そうか?」
「いくら命令されたからって、生まれたばかりの妹を売り渡すなんて、しちゃいけないだろ?」
「まぁな…でもそういう事をしなきゃ生きれない人もいるだろ?」
「……」
「それは、お前を守る為だったんだろ?」
「そこが…そこが。イヤなんだよ。そこが大っ嫌いなんだよ!誰が守ってくれって頼んだ?俺なんか捨ててくれれば良かったんだ。そしたらこんな事には…な…らなかった…んだ」

「それでも…好きなんだろ?」

「大っ嫌いだよ!あんな人達…縁がなくなって…」
「……」
「…せいせいする…」

 俺は泣いていた。



 俺は米沢のきれいな景色を思い出した。

 もう帰れない。故郷。

 あの山も、あの道も、あの事件も、何もかもが俺とは関係が無くなる。



 後から後から涙が出てきて止まらなかった。

「カイ…。泣くなよ」
 そういう孝之も泣いていた。


「泣くぐらい…いいだろ…さっきお前が言ったじゃないか。運命の所為にして嘆いたっていいって」

 


 俺達は、数時間前に見た。

 あの場所へもう帰れない。
 もう彼らと会う事もない。

 あの米沢の空を飛んでいる時、明日花が少しだけ目を覚まし、俺を見て…。
「お兄ちゃん…」
 と呼んでくれた。
 もう、あれだけで全てが流れてゆくような気がした。
 本当に救えて良かったと……。


 だが、いつかは、誰かが俺達を裁く日が来るだろう。











 俺はこれから「三鷹」にならなければならない。

 いくら、優秀な寄代でもそんな物は人間世界では通用しない。


 俺の生きていた世界は幻想でしかないのか?

 そんな物に、俺達は苦しめられてきたのか?






 そんな事はない。

 俺達は懸命に生きてきた。




 そして、これからも


 生きてゆく。








 










 船は西へ向かって進んだ。














        終











  (後書き)

  お疲れさまでした。真城灯火です。
  十九歳というギリギリの年齢が好きで、ここで終わりにしました。
  このラストから一話に戻ると大人になった彼と会えます。
  米沢から東京に出てきた霊感少年「秋月海」が秋月でなくなるまでをペースを上げて書いてみました。大人になった彼が言うには三鷹とはもう一戦、あるようですが、、。
  その前に、まだ少し秋月海を書きたいので、短編ですが子供時代のと二百年前の三鷹との確執も書けたらなぁ。と思っています。

  それでは、つたない文章と最後までお付き合いありがとうございました。

  今は、すごくイラストが描きたいので挿絵をつけるかもしれません。
  日本刀萌え中なんです^^
  イラスト・二次(BL)担当の薪有紀にバトンタッチしたいと思います。






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