君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
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「海を見たかい」 十八話 遠雷

2012-07-25 12:38:55 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える 大学2年      秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪? ミソカとツゴモリ
能力は強いが見えない祖父         秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女    春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる      大川孝之
高校の同級生 カイが好きらしい…     三沢結花
三鷹の親戚 京都の九条本家当主の妻    九条晴美
秋月の本家 三鷹家の若き当主       三鷹誠記
三鷹家の前当主 秋月幸次郎の実兄     三鷹幸一




  「遠雷」 


 三鷹家の前当主、三鷹幸一は、飄々とした祖父幸次郎と違ってどっしりとした印象で、体格もそんな感じだった。

「僕は誠記さんの敵になんてなれませんよ」
 とカイはゆっくりと言った。
「そう思うなら、何故、お前はここにいるのだ?」
「それは…」

 カイは用意されたお茶をひと口飲んでから、
「それはですね。ここには、九条に招待されたから来ただけですよ」
 笑って言った。

「我々、東の人間は、ここの招待は断れないんでしたよね」
「……」
「それで、大伯父もここに来られたのでしょう?」
「私は、お前が居るからと呼ばれたのだ」
「ええ、そうおっしゃられましたね」
「無駄話をしに来たのではない」
「そうですか?僕なんか、昨日は吉野まで行かされましたよ。全く何も無い所で、時間を潰すのにとても苦労しました」
「……」
「まぁ、桜は綺麗だったのですけどね…それだけじゃあ…つまらないですよね」
「秋月 晦。お前は私を怒らそうとしているな」

 三鷹のその言葉を聞いたカイの目の色が微妙に変わる。

「え?いいえ。そんな事なんてしていません」
「まあ、いい」
「何か気に触るような事を僕は言ったのですね」
 とカイはうなだれた。
「お前は、お前の祖母と幸次郎。そして私との経緯を聞いているのだろう。それでは私は怒らない。私を何だと思っているのだ」

 カイは小さく息をつき、
「なら…誠記さんの事を出せば、俺に本当の事を言ってくれるのですか?」

 カイの声のトーンが変わる。

「そうだな…。お前は、あいつを超えられるのか?」
「…無理でしょうね…」
「そうか…」
 そう言った幸一はカイにこっちへ来いと呼んだ。
「……」
 カイは無言でそれに従った。

「私はな、お前の本当が見たいんだ。我皇の時や、私が殺そうとしたみたいにだ」
 そう言うと幸一は隠し持っていた護身用の小さな銃でいきなりカイを撃った。

 静かな邸宅に銃声が響いた。

「…!!」
「カイくん!」

 九条晴美が部屋へ飛び込んで来た。
 俺も思わず駆け寄ろうとした。

「こっちに来るな!大丈夫だからツゴモリを抑えてろ」
 と振り向かずにカイが叫んだ。

 見ると、ツゴモリが剣を抜いて、三鷹幸一に向かって行こうとしていた。
 こいつを止めないと、三鷹を殺してしまうかもしれない。
 俺は必死でツゴモリを抑えた。

「まだ…これからなんだ…」

 カイは撃たれた左わき腹を押さえてまだかろうじて、そこに立っていた。

「大伯父。十五の時も、今も俺は死んでいません。だから…もう自分を許してあげて下さい。あなたが…そんな風だから…俺は…俺達は…」
 そう言いながら、茫然自失状態になっている幸一に近づく。
 両手で印を結び、呪を唱えた後で、幸一の両腕を掴んだ。
「うわぁぁぁー」
 と幸一が声をあげる。
 その手から銃が下の畳に落ちた。

 やがて、自失状態から戻った三鷹が目の前のカイを見て驚いていた。

「カイくん。これは、私は…私はまた君を…?」
「ええ…幸一伯父さん…残念ながら…。でも、的は外してくれたでしょ?」
 そこまで言うとカイは膝をついてしまった。
 押さえた指をつたって畳に血が落ちている。
 幸一はカイを支えようと手を差し出したが、カイはそれを手で制した。

 幸一を見上げてカイが言う。
「伯父さん。今しか…誠記があなたから離れた今しかないです。九条もいます。だから、全てを話してください。そして、どうか、楽になってください」

 カイの真剣な言葉が三鷹幸一の心を開く。

「そうだな…私ももう楽になりたくて…助けて欲しくて、ここへ来た。誠記はお前の力を知るチャンスだと言って、私に銃を持たせた。そう、私は当主の器じゃないんだ。当主は弟の幸次郎が相応しいとずっと思っていた。あの人も弟を選んだ。だから、せめて次の世代は俺からと思った。ただそれだけだった。幸次郎の子供が力が無いと知って嬉しかった。誠記が生まれて、私は本当に嬉しかったんだ」
「ええ、わかっています。幸一伯父さん」
「だけど、その時には私はもう狂っていたんだ。きっとそう…」
「…何をしたのですか?」
「私は、誠記の本当の恐ろしさに気付かなかった。あいつは三鷹そのものなんだ。今までの罪を全部背負わされたような。恐ろしい子供だった」
 そう言うと幸一はガタガタと震えだした。
 「伯父さん。今は大丈夫です。俺は死んでない。大丈夫、彼はまだ現れない」
「ああ、ああ、そうだな」
 と幸一は跪くように目の前にいるカイを見つめた。
「カイくん。君には本当に…」
「俺に謝らなくていいです。伯父さん。あなたは俺達に何をしたのですか?」

「生まれたばかりの子供を、明日花を誠記の嫁にともらった」

 明日花?それは誰だ?ツゴモリは知っているかのような顔だった。
 ツゴモリが知っているなら…それは…秋月家の人間という事になる。
 …明日花はカイの妹か…?

「それは…何故…そうしたのですか?」
「誠記が君を殺すのを防ぎたかった…。お前が初めて三鷹に来た時に、私は誠記の怖さを見た。お前もそれで泣き出しただろう?あの時、お前を引き取らずに帰す代わりに、誠記は明日花をもらうと契約させたんだ」
「…つっ…」
 カイが呻いた。
「幸一伯父さん。それなのに何故、俺の遺伝子なんか欲しがったのですか?」
「それは…誠記が病気で子供を望めない体になってしまったからだ…」

「…それでは、妹に俺の子を産ませるつもりですか?」
「すまない。カイくん」
「……幸一伯父さん…」

 カイは顔を上げ幸一に言う。

「…そんな言葉じゃ…許せる訳ないでしょう?何を、甘えているんですか?あなたはここ十年くらい、ずっと、誠記に操られているのを、じいちゃんは気付いていました。だけど、明日花が三鷹にいる以上、何も出来ない。だから、じいちゃんは家であんな幽閉されたような生活をしているんだ」
「……」
「俺は、あなたに殺されそうになった時、あなたの中の誠記の存在に気付いた。だから、あなたは俺に誠記を殺さないと。と言ったんだろう…?実の息子の殺害を誰に託しているんですか…!」
「…すまない…私には力が無くて、何も出来なかったんだ…」
「力?何ですか。そんなモノ。人には人の法という物があるでしょう?彼は人の法に外れている。それを正すのが親ってものじゃないんですか?それが親の責任でしょう?何を逃げているんです」
「本当に…すまない…」

「でも、今の俺の言葉は、あなたには届かないでしょうね。あなたは俺に力があるから言えるんだと思っている。どこまで、人は卑屈なんだ。いつもいつも、自分の利益ばかりで…もう、我慢出来ない」

 と言うと、カイは床に落ちている銃を拾い銃口を幸一に向けた。

「カイくん…」
「それは、何から何まで逃げたあなたのせいじゃないですか!」
「…そうだよ。私のせいだ…」
 そう言って幸一は、へなへなと座り込んだ。
 反対にカイが立ち上がって血染めの手で銃を構える。
 そして窓の方を見て叫んだ。

「三鷹誠記。戻って来ているだろう。明日花は必ず奪いにいく。そこで大人しく待っていろ」

 バン!と空気が振動したような感じがした。
 カイは、また幸一に向き直り銃を構えなおした。

「大伯父の望みどおりに大事な息子さんは俺が殺してあげます。だから、もう、安心して死んでください!」

「カイ!」

 俺の叫びと銃声が重なった。


 その瞬間、カイ達を中心にしてまるで雷が落ちたような地響きが起きた。
 窓ガラスが飛び散る。
 風が嵐のように吹き荒れた。
 太い柱が折れて、畳が燃える。
 まるで、爆撃でも受けたようだった。

 ツゴモリが俺を庇った。
 カイと三鷹幸一の回りは黄色く輝いていた。
 俺はこの光りをどこかで見た記憶があった。
 


 砂ぼこりが治まった先に二人は倒れていた。
 今度こそ俺はカイに駆け寄った。

「おい。生きてるか?」
 俺がカイを助け起こすとカイは
「…生きてるよ」
 と小さな声で答えた。
「幸一さんも大丈夫。撃たれてないわ。気を失っているだけ」
 と九条晴美が言った。
 そして、そのまま救急車の手配をした。


「撃ったかと思ったぜ」
「撃とうと思ったよ。撃ったのは畳に置いた俺のスマホ。雷帝を…」
「だけど、携帯の電力じゃここまでにはならないんじゃなかったのか?」
「これは、俺の霊力を追加したから…。それに…、あいつが来てたから…さすがに、あいつは強い」
 そこまで言うとカイは
「目が回ってきた…血ィ出しすぎた」
 俺の腕の中に崩れてきた。
「そうだ、お前、撃たれたんだよな。大丈夫か?」
「伯父貴も外そうとしたから、掠っただけ…でも、俺が怒ったから血が出ちゃって…だけど…親を殺すって、はったりが誠記に効くとは…思ってなかったな…」
「何だそれ、それじゃ、三鷹誠記もここに来てたって事なのか?」
「ああ、九条の結界ギリギリに来ていた。最後はさすがに突っ込んで来たけど…」

「それじゃ、お前が京都駅で怖がっていたのは、三鷹誠記本人…?」

「…あいつ以外の何を俺が怖がると思ってるんだよ。あいつは三鷹そのものだぞ」



 降り始めた雨が壊れた天井から落ちる。



 遠くから救急車と消防車のサイレンが近づいている。

 そして遠ざかってゆく雷の音がしていた。











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