君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
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「海を見たかい」 十六話 京都 九条家

2012-07-24 16:03:51 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

(人物紹介)
人以外のモノが見える大学二年         秋月海
ひょんな事から海の式神となった双子妖怪?   ミソカとツゴモリ
視えないが力は強かった祖父          秋月コウジロウ
いきなりナンパ?してきた霊媒体質女      春野美津子
高校の同級生 大学も同じになる        大川孝之
高校の同級生 海の事を好きらしい…      三沢結花
秋月の本家 三鷹家の若き当主         三鷹誠記



  「京都 九条家」 

 春が来た。
 ミソカとツゴモリの桜が咲いた。
 春野と出会い、孝之や結花と再会してから一年が過ぎた。

 三月初めに横浜に行ってからの一ヶ月間、行方不明だった事もあってカイ達は「何でも屋」を休んでいた。

 そして、今は四月十八日。
 京都の九条家からカイにメールが届いてから三日、断る理由も無かったが、カイは、その招待を受けれずにいた。
「ご友人と一緒に京都においで下さい」というごく普通のものだったが、新宿の事件が終わってメゾンに戻った日にメールが届いた事が不審だった。
 きっと、何かある。皆がそう思っていた。


 この九条家と「三鷹」とは意見の相違で離れて随分になる。
 九条の親戚筋を総称して「松月」と言うが、松月の中で一番大きいのが九条家だ。
 京都と奈良に広大な敷地を持つ名家だった。

 それが何故、名指しで自分を呼ぶのか?
 俺の中にある「三鷹」を潰そうとしているのがバレてしまったのではないかと緊張していた。
 それならそれで構わないと思う反面、まだその時期ではないと言う気持ちもあった。
 出来れば、俺達二人の確執なら、俺と三鷹個人だけで解決したい。と思っていた。
 だが、三鷹はそうは思っていない事はわかっていた。


 今は、九条の誘いに乗ってみるしか無い。
 俺は一度は断った誘いを受ける事にしたと返信した。

 メールを出した翌日には新幹線の切符が届いた。
「吉野の桜なら、まだ咲いているんだよな」
 孝之が言った。
「早く行かないと葉桜になっちまうぜ。ミソカ達の故郷なんだろ。見せてやりたいじゃないか」
「……」  
「宿泊は九条家を使えばいいってあるし」
 孝之はもう行く気になっているようだ。
 
「どんな家なの?」
「俺は京都には行った事がない」
「貴船に近いみたいね」
 と、春野が住所から場所を探していた。
「京都には行った事はあるが、九条家には行ったことがない」
 と俺は言いなおした。


  週末の京都駅前

 俺達は迎えの車を断り、電車で貴船を目指した。
 くねくねと曲がる線路。
 そんな、どこかのどかな風景の中に九条家はあった。

 大きな門の前で出迎えてくれたのは、ゆるやかなウェーブの黒髪の美少女だった。
 清楚な白いワンピースを着こなしている。
 年は同じくらいかまだ高校生か、それくらいだった。

「ようこそ。おいでやす。九条きりかといいます」
「はじめまして、秋月海です。ご招待ありがとうございます」

 寺のような旅館のような前庭を通り、表玄関から中に入り、中庭を見ながら長い廊下を行き、離れに通された。
 離れは、二十畳もあるだろうか大きな部屋で、縁側があり開け放たれたガラス窓の向こうには日本庭園が見えた。
 春野と孝之は縁側でその美しさに歓声を上げていた。
 俺もその景色に見入っていると、横にきりかがやってきてこう言った。

「その髪の色、少し茶色入ってんのは柚さんの遺伝やろなぁ」
 秋月柚。祖母の名だ。
「柚さん…、祖母ですか?」
「海さんは覚えてない思いますけど」
 と微笑み、お茶の用意しますね、と行こうとするのを俺は止めた。
「いえ、祖母の記憶はありますよ。東京の桜の下で…」
「あ、それは間違いですよ。幸雄さんが生まれて間もなく亡くならはってん」
「え?」
 何故、はっきり覚えているのに、ずっと自分の記憶だと思っていたのに…。
「あれは祖母の幽霊だったって事ですか?」
「さぁ、うちにはわかりまへん。うちが知っているのは教えてもろた事だけです」
 旅館の仲居さんのような女中さんが来てお茶の用意をして出て行った。
 俺達はテーブルについた。
「祖母は、九条で育ったんですか?」
「吉野で育ちはったんよ」

 ここまで話した時に九条の当主の妻、九条晴美が挨拶に来た。
 九条家は女系家族だ。だから、実質、彼女が当主となる。
 きりかと俺の会話を継いで晴美さんは祖母の事を教えてくれた。
「幸次郎さんと柚さんはこの京都で出会って、その頃、お二人はお互いに色々問題を抱えてましてな。それでも、皆の反対を押しきって二人は東京に出て家をかまえましてん。なかなか子供が出来なくてやっと授かったのが幸雄さん、お父さんですね」
「……」
「それより、ミソカさん達を出してええですよ。出たがっていはりますよって」
 と晴美は優しく言った。
「…やはり視えるのですね」
「有名な我皇さんに会えないのが残念ですわ」
 我皇は一人東京に居る結花の所に残して来ていた。
「そこまで…」
 俺は鈴をテーブルに出し、ミソカ達を出したが、緊張は解かないで訪ねた。
「そこまで知っていて、何故、俺達をここに招待したのですか?」
「柚はんのお孫さんの顔を見たくなって…と答えても信じてもらえないやろか」
「貴女と祖母はどういう関係なのですか?」
「うちは柚さんに憧れてましてん」
 と微笑んだ。

「ですが、カイさん。あなたは派手にやり過ぎているんです。今、話したくらいの事なら少し調べればわかる事です」
「…それは…」
「三鷹誠記。彼が、あなたを目の敵だと思ってしまうのもわかりますわ」
 そう言って晴美はカイの傍に来ると優しく手を取った。
「大丈夫。うちらは味方…心配いりません」
 きりかも笑っている。
 彼女たちの言葉は嘘じゃない事が伝わってくる。

「ありがとうございます。でも、三鷹が俺を目の敵にっていうのはどういう事なのですか?」
「それは、追々、吉野に向かう間に話しましょう」
 そう彼女が言うと、お車の用意が出来ました。と女中さんが呼びに来た。


 黒塗りの車の一台目には孝之と春野ときりかが乗り、二台目には俺と晴美さんが乗った。
 車は京都と奈良を観光しつつ吉野を目指した。

 晴美さんが最初に言った俺達が派手に動き過ぎるのは、「何でも屋」の事だった。
 新宿事件が終わってすぐに俺達を呼んだのは、あの事件を書かせない為。
 九条の情報網は広く、興味を引くものだった。
「カイさんにはわかりますやろ?京都にも奈良にも黒い穴はあります。それは普通の人は知らんでもええ事なんです。人と欲望は切り離せませんよって…それは誰にも救えないんです」
「…無謀な事だったのでしょうか?俺がした事は…」
「助けを求める霊を救いたいと思う気持ちは悪いとは思いません。けれど、それが救いになるかどうかはやはり彼ら次第」
「その言葉、俺はじいちゃんにも言われました。我皇と対峙した時に、俺は我皇すら救おうとしただろう?って。情けをかけて戦える相手かどうか見極めろと。それが救いになるのか?と」

「それは、覇王の悩みですね」
「覇王の…?」
「我々、松月がつけた秋月幸次郎さんのあだ名です」
「じいちゃんの事を教えてもらえませんか?」
 晴美さんは柚さんとの出会いからで良ければ、と前置きして話してくれた。
「あれは、三鷹と九条が離れてしばらくした頃、幸次郎さんが突然、貴船の九条家を訪ねて来はりましてな、丁度、その頃、家で預かっていた柚さんと出会ったと聞いています。東の人間が単独で「松月」を訪ねる事だけでも規則違反なのに、柚さんと京都の町を歩きたいと言い出しまして、幸次郎さんは「三鷹」にはならないと家を出たお人ですから…」
「え?」
「カイさんは聞いてないんどすか?幸次郎さんは「三鷹」候補だったのですよ」
「でも、じいちゃんは、視えない人間はなれないからって…」
「昔はそういう決まりでしたが…最近の三鷹の血は濃くなり過ぎて、その反対に能力は弱くなっているのです。ですから、視えなくても強い幸次郎さんなら良い子孫が望めるだろうと言われていたのです」
「それをじいちゃんは断って家を出た。じいちゃんはきっとそういう風に決められて結婚をしたくなかったんだと…」
「ええ、きっとそうですね。それなのに九条に来て、柚さんを見初めてしまったのですわ」
「でも、規則違反って、三鷹の人間は勝手に九条に来てはいけないとはどういう事ですか?皆、俺達みたいに招待されないと会えないのですか?親戚なのに?」
「ええ、だれも強い能力を望みますから、間違った交流を避ける為、松月とは招待無しでは会えないですし、その招待は断れないんですよ」
「断れない?」
「断れません。カイさんは一度断りましたね」
「あ、はい。すみません…知らなくて…」
「九条では、さすが自由人の孫。って評判になったのですよ」
 晴美は笑った。

「幸次郎さんが松月の事を話さないのは、それは、きっとカイさんが自分で知っていった方が良いと思っているからなのでしょうね。それを冷たいと思わないで下さいね」
「はい。俺はじいちゃんを信じています。お願いします。教えて下さい」
「わかりました。それでは、まずは、「松月」と「三鷹」の関係ですが、元々は同じ京都の一族でした。鎌倉時代後半に三鷹家が東に行く事を決め二つに分かれました。その後は、三鷹が政治に絡むようになり次第に松月より大きくなりました。それから、二百年近くに月日が流れて、東に行った者達だけでは血のバランスが保てなくなり京都の松月から妻を迎えるようになったのです。それが京都にも財力を落とす事となり、その後は、三鷹当主に良い子が産まれなかった時の為の予備のような扱いになってゆきました。それはまるで、江戸の将軍が「三鷹」で、「松月」が大奥のような…。大奥の方が良い扱いを受けていますね…。妻というのは名目で、三鷹に行って子供だけ産んで返されたという人が出てきて、我々は「三鷹」への協力をしなくなった。それが百年くらい前、意見の違いの始まりです」

「では、三鷹を断ったじいちゃんと、祖母が出会ってしまったと言うのは…祖母は「三鷹の妻候補」だったという事ですね」

 その言葉に晴美はカイの中に流れる三鷹の血を見た気がした。
 それは、男系になってしまった「三鷹」に、財力目当てで「女」をあてがってきた「松月」を蔑んでいるように、聞こえた。
 あの大きな九条の家は三鷹の力だけで建てたのではないが、関係が全く無いとはいえない。

「…え、ええ、そうです。柚はんは…三鷹に行く為の礼儀作法を習う為に九条家におりました」
「意見の相違で離れていたのに、まだそんな事を…?」
「カイさん。そうしなければ…三鷹が絶えてしまうでしょう…」
「別にそれで良かったんじゃないですか?」
「…あなたの家だって…三鷹が建てたのに…」
「俺の家?…米沢の?」
「あ、いいえ、家は違うわ。三鷹から…その、銀行から融資を…受けたようなものよ」

「晴美さん。俺を…怖がらないで下さい。俺は三鷹ではありません。俺はただの秋月海です。ただの幸次郎の孫です」
「ごめんなさい…」

 晴美は自分に流れる「松月」の血を感じていた。
 いつから、こんな三鷹に支配をされているのだろうか?
 でも、それを今の三鷹当主から感じた事が無かった。

「そうね。あなたは覇王の孫だったわね…」
 とひと息ついた。
「落ち着きましたか?」
 見るとカイが自分の手に手を重ねている。
 私はそんな事にも気が付かなかったのかしら…?と見ていると
「す、すみません」
 と慌ててカイが手を引っ込めた。
「なんか、顔の色が悪くなった気がしたので、心配で…つい…」
 と謝っている。
 カイを幸次郎の孫としてしか見ていなかった晴美だが、何気ない会話で自分を怖がらせたこの子こそが覇王なのではないだろうか?と思った瞬間だった。
「ありがとう。もう大丈夫よ。それで、聞きたいのは、柚さんの事でいいのかしら?」
「はい。お願いします」
 とカイが笑った。

「柚さんは、前の当主の花嫁候補の一人だったの、花嫁候補とは聞こえが良いけど、三鷹当主は当時結婚していて、その奥さんと離婚するって事で、松月に話がきたのよ。その時の候補は九条で三人預かって居たのだけど、吉野の山脇家の出で、おとなしいけど能力は高かった柚さんが、選ばれるなら彼女だろうって言われていたの、彼女は花が好きで良く庭で歌っていた。そんな時、幸次郎さんと出会って、二人はお互いに好きになったのよ。二人は結婚を決めて東京に行った。もちろん、山脇家も、預かっていた家、九条家も反対で、当の三鷹からもずい分いろいろされたみたいだったわ。それでも二人は自分達を貫いた。三鷹はその頃から秋月を目の敵のように思っているのよ」
「横取りした事になるけど、三鷹として柚さんを迎えるより、ずっとじいちゃんらしいな」とカイが笑う。
「そうですね。でも、松月の人間は幸次郎さんは視えていたのではと思っています」
「かもしれないですね。だけど、俺はそういう経緯があるなら、じいちゃんに、三鷹の当主になってて欲しかったな。そうすれば、こんな事は起きていないし…これからも何も起きない…」
「カイさん…」

 この先に起こる事が視えているかのような遠い目をしたカイ。
 カイの能力は確実に上がっているように見える。
 九条にカイを招いた時から三鷹を敵に回す事は決まっていたのだが、それは間違っていなかったと思う晴美だった。


 やがて、車は吉野へと到着した。

 あちこちと回って来たのでもう薄暗くなってきていたが、桜はライトアップされていてとても綺麗だった。

 大川と春野とカイが桜を眺めていた。


 そんな光景を後ろから見ていると、きりかが傍に来てこう言った。
「ママ。ママから冷たい空気が消えているわ」
「え、そう?」
「自分でもわかってるんでしょ?車でカイくんと二人。何を話したの?ううん。何があったの?」
「別に何もないわよ」
「あーあ、私もそっちに乗れば良かった」
「ふふ、良い事なら、実はあったわよ。教えてあげないけど」
「えーー、ママったら、いけず」
「良いじゃない。まだカイくんはあなたのモノじゃないんだから、少しくらい」
「えー、良くないわ。少しでもあげない」
「頑張りなさい。彼かなり難しいわよ」
「うん。東京の女なんかに負けないんだから」

 カイに気を惹かれる女の子は多いだろう。

 だけど、彼を本当に落とすのはとても大変だろうと思う晴美だった。









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