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☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<用語>
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)
太陽系木星軌道上の衛星都市メティスのビルレスト 二人がいた建物の名前
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
☆あらすじ☆
一章「黄昏の海」
地球へ辿り着いたミュウ。人類との会見後グランドマザーの許に降りたジョミーとキースは、マザーの策略で殺されそうになる。ジョミーの最後の力でイグドラシルから地上に戻った二人。
大戦から二年。ミュウは新たな移住惑星に移り住む事となった。その旅立ちを見送ったジョミーはキースと共に「月」へと向かった。そこにはソルジャー・ブルーの身体が保管されていた。
その事実をジョミーは何故かミュウ達に明かせずにいた。
二章「湖底の城」
木星でキースの警護をして暮らすジョミーに「カナリア」の少年が会いに来た。彼らには渡航出来るIDは無い。事の不審さにジョミーとキースはある計画を練った。だがそれは思いも寄らない展開へと進んだ。事件解決後、ジョミーはメティスを出てスメールへ渡った。
三章「星の祈り」
ミュウの移住先、惑星メサイアへと向かうジョミーとフィシス。この空域にジョミーは辛い思い出があった。木星のメティスを出て二年振りに会ったキースにジョミーが告げた言葉とは…。キースは再び権力の道へと登り始じめる。やがて、姿を現す敵とメギド。
※四章・「心のままに」は最終章に向かって、心残りの無いようにと、あれこれと詰め込んでいます。
※今回も流血もBLもあります。
※後半に暴力シーンがあります。嫌いな方はその回を飛ばして下さい。パスしても繋がります。
※読みやすいように最初のブログUP時とは順番を変えています。時間は飛びますが、時代は順に追っていけるようにしました。
※「君への想い」はジョミーの人類女性との恋愛話です。飛ばしても問題は有りません。
『君がいる幸せ』 四章「心のままに」一話
Epilogue Bridge 過去編「君への想い」 (一話読切)
SD599年(ナスカ崩壊後)
ナスカを焼かれ、仲間を失い、ブルーを失った。
嘆きの中、僕達は始まりの星アルテメシアへ向かった。
アルテメシア。
それは僕が育った星。
青く美しい地球を似せて作られた星。
僕らは再びこの地に戻って来た。
ミュウはここを力で制圧した。
僕を育ててくれた両親が、今はスウェナの娘のレティシアを育ててると聞いて僕はスウェナと見に行く事になった。
僕はここの人々を懐かしく思った。
でも、やはり、人間達の感情が作り物のように見えてしまっていた。
それは何故なんだろう。
人が信じられないというような単純なものではなく…、僕の中で何かが変わってしまったような孤独を感じていた。
もう戻れないという現実がそこにはあった。
懐かしい景色に入り込めない疎外感。
その溝を埋める事はもうきっと出来ないと思っていた。
そして、失った物が大き過ぎて、僕はもう人を愛せないと思っていた。
僕はこの星の人々の生活を見てみたいと思った。
僕が髪や目の色を変え人類の中に紛れ込むようになったのはここへ帰って来てからだ。
そして、僕はこの町でカリナに良く似た女性に出会った。
彼女は小さなケーキ屋を営んでいた。
町外れの公園前にある小さな店。
僕はそこに通うようになった。
僕達がいつまでここに居るのかわからないので行ける時は毎日でも行くようにしていた。
通いだして三日ほど経った。
「食べるのにも限度がある…」
ケーキは嫌いじゃないけど、そうも毎日食べ続けたいものでもなくて、かといって皆に行先を知らせずに出てきているのに買って帰る訳にもいかなかった。
だから、僕はぼーっと店を見ながら「せめてパン屋だったら、よかったのに…」と呟いた。
「ならクッキーにすれば?甘くないのもあるわよ」
僕が座っていたベンチの後ろで声がした。
それは彼女だった。
声もカリナに似ている気がする。
「お店に来て、雨が降りそう」
店に向かいながら僕を呼ぶ。
彼女の後を追って走っていると雨が降ってきた。
「店から見えたから呼びに行ったのだけど、間に合わなかったわね…」
と彼女は微笑んだ。
そして、彼女は暖かいココアをいれてくれた。
「甘さ控えめよ」
彼女の名前はリザという名前だった。
僕は「サム」と名乗った。
本格的に降ってきた雨のせいか客が来ない店で僕たちはいろいろな話をした。
リザは僕に簡単なクッキーの焼き方を教えてくれた。
優しい時間が静かに流れていった。
「この店はね。本当は彼と二人でやるはずだったのよ」
彼は辺境オリオンへ物資の輸送にいったきりだという。
オリオンは僕らが通ってきた道だった。
僕らが彼の事に関係しているとは思いたくはないが、何かあったのは確かだろう。
僕はこれ以上彼女の所に来ないほうが良いと思った。
身を引くなんて言えるものじゃない、僕が傷つきたくないだけだとわかっていた。
ナスカで僕の腕の中で死んでいったカリナ。
そのカリナに似た人に僕は何を求めているのだろう。
「せめて、リザが幸せならば…。それでいい」
だけど、情けないけど、もう行くまいと思ったのに…僕は二日もするとまた来てしまっていた…。
その日、店からアタラクシアの兵士が出て来た。
僕は公園の植え込みに身を隠した。
彼らは乱暴に彼女を車に乗せるとどこかへ走り去った。
僕の意識はそこまま車を追った。
軍事施設へ運ばれたようだった。
すぐさまそこに跳び彼女を探した。
僕は施設の外から中をサーチする。
一緒に暮らす筈だった彼に反逆罪の疑いがあり、ここに戻ってくる可能性があるので彼女の見の安全の為の保護との事だった。
だが、それは口実で、彼の居場所を聞き出す為の拘束だった。
僕達ミュウがかけられるような精神解析用の機械に座らされる彼女。
彼女の悲鳴が僕の頭の中で響いた。
僕は施設の発電所を破壊し、送電を切ると基地内に潜入し、ぐったりしている彼女を助け出した。
助けたが、店にも彼女の家にもシャングリラにも戻れない。
僕は昔僕が住んでいた家に向かった。
その家は今は誰も居ない事は確認済みだった。
やがて彼女が目を覚ました。
明かりをつけることが出来ないので、震える彼女に僕の着ていた上着を羽織らせ抱き寄せた。
「なぜ、あなたが?どうして…何が起きたの…」
「怖い目にあったね。でももう大丈夫だから…」
「で、でも、私、軍に…何故あんな目に」
「これは、きっと…何かの間違い。間違いでこんな事になったんだよ」
「うん…」
と小さくうなずくリザ。
彼女は今の状況が飲み込めていないようだった。
「大丈夫だから、すぐにちゃんとわかって、君も元通りになれる」
それはどうなんだろう?
彼の事だけなく、僕も絡むとなると、彼女の記憶は操作される事になるだろう。
それは元通りと言えるのか?
今、ここは僕たちが制圧している筈なのに、軍部がまだ独自で動いていた。
自警団とかの名目で、混乱に乗じて「正義」を振りかざすだけ…。
僕らはそれとどこが違うのだろうか…。
「ねぇ、サム。反逆罪ってどういう罪?」
僕はリザの声にハッとなった。
「…それは…」
「捕まったらどうなるの?」
「それは、彼の事を聞きたいの?」
「うん」
「それは、きっと。それも間違いだよ。まだこの世界でマザーに逆らうヤツはいない」
「でも、捕まったらどうなるの?」
「捕まれば、その無実が証明できるチャンスになると思うよ…」
と僕は答えた。
本当に反逆したとなれば、即処刑だろう。
マザーに逆らう事、それは大罪だ。
「でも、ミュウはマザーは間違っていると言ってるわ」
とリザが言う。
彼女の肩を抱いていた僕の体に緊張が走った。
「リザ。良く聞いて。それは、こういう事なんだ。人は自分で生きていける力があるのにマザーはそれを奪っている。それを変えようとミュウは言ってるんだ。だけど、この先はきっと、言うだけじゃ済まない。大きな戦争になるだろう」
「サム…」
「あ、でも、ここはきっと大丈夫だよ。僕は、君と彼が幸せになる姿を見たかったな」
「あなたが?私と彼の?」
「そう。君の幸せを願うよ」
僕はリザを見て言った。
彼女はそれを聞いて急に顔を手で覆って泣き出した。
「ど、どうしたの?」
「ごめんなさい」
「何に謝っているんだ?」
「私、私は彼が店の資金調達の為にオリオンに行ったと言ったけど、それは嘘なの。彼は私を置いてここを出て行ったの…」
「…そうだったのか…」
「ごめんなさい」
「でもそれじゃ君は。彼の居所は知らないんだよね」
「ええ、知らないわ」
「じゃあ、君は居所は知らないって言わないで、あの機械にかけられたって事?」
「…でも…たとえ居場所を言っても同じだったと思うの。私の所へ戻ってくるって疑われているのとか、私が知っていると思われているのが、嬉しい気がしたの。私みたいのでも彼を追う足止めになれるのならって…。バカよね…」
「彼を庇おうと思ったのか…一歩間違えば君は精神崩壊をしてしまう危険な事なのに…」
「怖かった。すごく怖かったわ。だけど、私が出来るのはもう…これくらいしか…無いから」
「リザ…」
「でも、あなたはどうして私を助けに来てくれたの?ここの兵士に捕まったらあなたも無事ではないのに」
僕は彼女の肩から手を離し、自分の膝を抱えた。
「僕はどうしても君を助けたかったんだ。助けずにはいられなかった。僕は、君にある人を重ねているんだ。だから、君が危ない目にあっているのを見ていられなかった。だから…君に幸せになって欲しいんだ」
と目を伏せた。
「その人が好きだったのね」
「うん。とても優しくて、暖かくて、好きだった」
「彼女だったの?」
「ううん。カリナは、彼女は他の人を好きになって、幸せになったんだ。嬉しかった。僕はその姿をずっと見ていたかった」
「…どうしたの?」
「亡くなった。僕の腕の中で…僕は助けられなかったんだ…」
と自分の手を見る。
まだあの時の感覚が残っているようだ。
何も、何一つ、出来なかった空しさが蘇る。
「…僕は…何も出来なかったんだ…」
そう言うと涙がこみ上げてきた。
それを手のひらでぬぐい顔を上げる。
僕の頬にリザの暖かい手が触れた。
「何も出来ない事はないわ。あなたは私を救ってくれた」
そう言ってリザは僕の頬にキスをした。
僕はリザを抱きしめていた。
僕からお返しのキスをする。
それを彼女は受け入れてくれた。
僕らはお互いが世界で一人ぼっちなんだとそう思い。
そう感じて。
その寂しさを埋めるように抱き合った。
何度も求め合い。
満たされない思いをお互いの体で埋めあった。
「ソルジャー・シン。人類の町はどうでした?」
僕はアタラクシアに戻ってからしばらくスウェナと行動をすると言っていた。
「懐かしかったよ」
と答える。
艦橋に向かいリオを呼んだ。
人払いをした部屋にリオが入ってくる。
僕はリザの事を彼に話し、リザの彼の消息を調べた。
彼は疑われているだけのようだった。
これならすぐにでも見つけ出せるだろう。
僕はリザを救い出す時に基地のコンピュターにアクセスして彼女の記録をすべて抹消し、兵士の記憶も消してきていた。
これは、そうする事は、マザーと同じ事を僕はしていると思いつつ、実行した。
「リザは眠らせてきた」
(はい)
「一緒に行って、彼女の記憶を…彼女の中の僕の記憶を全て消してくれないか」
(ジョミー、消してしまっていいのですか?)
「彼女には幸せになって欲しいんだ」
(それは、辛くないですか?それは二人とも辛いですよ)
リオに僕は彼女を好きになったとかを一切言っていないが、彼にはわかっているようだった。
僕らは、彼女の記憶を消しに戻った。
僕は眠っている彼女に最後のキスをした。
「出来る事なら奪ってしまいたいよ。出来るのなら…。でも、僕はミュウだから…。彼を君の元に帰るようにしてあげる。そして最後まで名乗れなくて…ごめん」
そう、いくら僕が元は人間だったと言ってもシャングリラに人間を乗せる訳にはいかない。
いつ果てるともわからない戦いの道に進みゆくのならば、なおさらだった。
「ありがとう。僕はまた前に進める」
「リオ。施設のコンピューターに入った時に一つわかった事がある。ここのテラズナンバーを破壊する。きっと道は開ける」
僕らはもう振り向かずに歩き出した。
ここから、僕らの本当の戦いが始まった。
君への想い 終
<用語>
惑星メサイア ミュウが移住した惑星
ジュピター キース警護時のジョミーのコードネーム(シャトル所有)
太陽系木星軌道上の衛星都市メティスのビルレスト 二人がいた建物の名前
育英都市スメール フィシスとカナリア達が住む都市
惑星ノア 大戦時ミュウが陥落させた人類の首都星 今は人類に返還している
軍事基地ペセトラ 人類の軍事拠点 戦後十二人の代表で議会制になる
☆あらすじ☆
一章「黄昏の海」
地球へ辿り着いたミュウ。人類との会見後グランドマザーの許に降りたジョミーとキースは、マザーの策略で殺されそうになる。ジョミーの最後の力でイグドラシルから地上に戻った二人。
大戦から二年。ミュウは新たな移住惑星に移り住む事となった。その旅立ちを見送ったジョミーはキースと共に「月」へと向かった。そこにはソルジャー・ブルーの身体が保管されていた。
その事実をジョミーは何故かミュウ達に明かせずにいた。
二章「湖底の城」
木星でキースの警護をして暮らすジョミーに「カナリア」の少年が会いに来た。彼らには渡航出来るIDは無い。事の不審さにジョミーとキースはある計画を練った。だがそれは思いも寄らない展開へと進んだ。事件解決後、ジョミーはメティスを出てスメールへ渡った。
三章「星の祈り」
ミュウの移住先、惑星メサイアへと向かうジョミーとフィシス。この空域にジョミーは辛い思い出があった。木星のメティスを出て二年振りに会ったキースにジョミーが告げた言葉とは…。キースは再び権力の道へと登り始じめる。やがて、姿を現す敵とメギド。
※四章・「心のままに」は最終章に向かって、心残りの無いようにと、あれこれと詰め込んでいます。
※今回も流血もBLもあります。
※後半に暴力シーンがあります。嫌いな方はその回を飛ばして下さい。パスしても繋がります。
※読みやすいように最初のブログUP時とは順番を変えています。時間は飛びますが、時代は順に追っていけるようにしました。
※「君への想い」はジョミーの人類女性との恋愛話です。飛ばしても問題は有りません。
『君がいる幸せ』 四章「心のままに」一話
Epilogue Bridge 過去編「君への想い」 (一話読切)
SD599年(ナスカ崩壊後)
ナスカを焼かれ、仲間を失い、ブルーを失った。
嘆きの中、僕達は始まりの星アルテメシアへ向かった。
アルテメシア。
それは僕が育った星。
青く美しい地球を似せて作られた星。
僕らは再びこの地に戻って来た。
ミュウはここを力で制圧した。
僕を育ててくれた両親が、今はスウェナの娘のレティシアを育ててると聞いて僕はスウェナと見に行く事になった。
僕はここの人々を懐かしく思った。
でも、やはり、人間達の感情が作り物のように見えてしまっていた。
それは何故なんだろう。
人が信じられないというような単純なものではなく…、僕の中で何かが変わってしまったような孤独を感じていた。
もう戻れないという現実がそこにはあった。
懐かしい景色に入り込めない疎外感。
その溝を埋める事はもうきっと出来ないと思っていた。
そして、失った物が大き過ぎて、僕はもう人を愛せないと思っていた。
僕はこの星の人々の生活を見てみたいと思った。
僕が髪や目の色を変え人類の中に紛れ込むようになったのはここへ帰って来てからだ。
そして、僕はこの町でカリナに良く似た女性に出会った。
彼女は小さなケーキ屋を営んでいた。
町外れの公園前にある小さな店。
僕はそこに通うようになった。
僕達がいつまでここに居るのかわからないので行ける時は毎日でも行くようにしていた。
通いだして三日ほど経った。
「食べるのにも限度がある…」
ケーキは嫌いじゃないけど、そうも毎日食べ続けたいものでもなくて、かといって皆に行先を知らせずに出てきているのに買って帰る訳にもいかなかった。
だから、僕はぼーっと店を見ながら「せめてパン屋だったら、よかったのに…」と呟いた。
「ならクッキーにすれば?甘くないのもあるわよ」
僕が座っていたベンチの後ろで声がした。
それは彼女だった。
声もカリナに似ている気がする。
「お店に来て、雨が降りそう」
店に向かいながら僕を呼ぶ。
彼女の後を追って走っていると雨が降ってきた。
「店から見えたから呼びに行ったのだけど、間に合わなかったわね…」
と彼女は微笑んだ。
そして、彼女は暖かいココアをいれてくれた。
「甘さ控えめよ」
彼女の名前はリザという名前だった。
僕は「サム」と名乗った。
本格的に降ってきた雨のせいか客が来ない店で僕たちはいろいろな話をした。
リザは僕に簡単なクッキーの焼き方を教えてくれた。
優しい時間が静かに流れていった。
「この店はね。本当は彼と二人でやるはずだったのよ」
彼は辺境オリオンへ物資の輸送にいったきりだという。
オリオンは僕らが通ってきた道だった。
僕らが彼の事に関係しているとは思いたくはないが、何かあったのは確かだろう。
僕はこれ以上彼女の所に来ないほうが良いと思った。
身を引くなんて言えるものじゃない、僕が傷つきたくないだけだとわかっていた。
ナスカで僕の腕の中で死んでいったカリナ。
そのカリナに似た人に僕は何を求めているのだろう。
「せめて、リザが幸せならば…。それでいい」
だけど、情けないけど、もう行くまいと思ったのに…僕は二日もするとまた来てしまっていた…。
その日、店からアタラクシアの兵士が出て来た。
僕は公園の植え込みに身を隠した。
彼らは乱暴に彼女を車に乗せるとどこかへ走り去った。
僕の意識はそこまま車を追った。
軍事施設へ運ばれたようだった。
すぐさまそこに跳び彼女を探した。
僕は施設の外から中をサーチする。
一緒に暮らす筈だった彼に反逆罪の疑いがあり、ここに戻ってくる可能性があるので彼女の見の安全の為の保護との事だった。
だが、それは口実で、彼の居場所を聞き出す為の拘束だった。
僕達ミュウがかけられるような精神解析用の機械に座らされる彼女。
彼女の悲鳴が僕の頭の中で響いた。
僕は施設の発電所を破壊し、送電を切ると基地内に潜入し、ぐったりしている彼女を助け出した。
助けたが、店にも彼女の家にもシャングリラにも戻れない。
僕は昔僕が住んでいた家に向かった。
その家は今は誰も居ない事は確認済みだった。
やがて彼女が目を覚ました。
明かりをつけることが出来ないので、震える彼女に僕の着ていた上着を羽織らせ抱き寄せた。
「なぜ、あなたが?どうして…何が起きたの…」
「怖い目にあったね。でももう大丈夫だから…」
「で、でも、私、軍に…何故あんな目に」
「これは、きっと…何かの間違い。間違いでこんな事になったんだよ」
「うん…」
と小さくうなずくリザ。
彼女は今の状況が飲み込めていないようだった。
「大丈夫だから、すぐにちゃんとわかって、君も元通りになれる」
それはどうなんだろう?
彼の事だけなく、僕も絡むとなると、彼女の記憶は操作される事になるだろう。
それは元通りと言えるのか?
今、ここは僕たちが制圧している筈なのに、軍部がまだ独自で動いていた。
自警団とかの名目で、混乱に乗じて「正義」を振りかざすだけ…。
僕らはそれとどこが違うのだろうか…。
「ねぇ、サム。反逆罪ってどういう罪?」
僕はリザの声にハッとなった。
「…それは…」
「捕まったらどうなるの?」
「それは、彼の事を聞きたいの?」
「うん」
「それは、きっと。それも間違いだよ。まだこの世界でマザーに逆らうヤツはいない」
「でも、捕まったらどうなるの?」
「捕まれば、その無実が証明できるチャンスになると思うよ…」
と僕は答えた。
本当に反逆したとなれば、即処刑だろう。
マザーに逆らう事、それは大罪だ。
「でも、ミュウはマザーは間違っていると言ってるわ」
とリザが言う。
彼女の肩を抱いていた僕の体に緊張が走った。
「リザ。良く聞いて。それは、こういう事なんだ。人は自分で生きていける力があるのにマザーはそれを奪っている。それを変えようとミュウは言ってるんだ。だけど、この先はきっと、言うだけじゃ済まない。大きな戦争になるだろう」
「サム…」
「あ、でも、ここはきっと大丈夫だよ。僕は、君と彼が幸せになる姿を見たかったな」
「あなたが?私と彼の?」
「そう。君の幸せを願うよ」
僕はリザを見て言った。
彼女はそれを聞いて急に顔を手で覆って泣き出した。
「ど、どうしたの?」
「ごめんなさい」
「何に謝っているんだ?」
「私、私は彼が店の資金調達の為にオリオンに行ったと言ったけど、それは嘘なの。彼は私を置いてここを出て行ったの…」
「…そうだったのか…」
「ごめんなさい」
「でもそれじゃ君は。彼の居所は知らないんだよね」
「ええ、知らないわ」
「じゃあ、君は居所は知らないって言わないで、あの機械にかけられたって事?」
「…でも…たとえ居場所を言っても同じだったと思うの。私の所へ戻ってくるって疑われているのとか、私が知っていると思われているのが、嬉しい気がしたの。私みたいのでも彼を追う足止めになれるのならって…。バカよね…」
「彼を庇おうと思ったのか…一歩間違えば君は精神崩壊をしてしまう危険な事なのに…」
「怖かった。すごく怖かったわ。だけど、私が出来るのはもう…これくらいしか…無いから」
「リザ…」
「でも、あなたはどうして私を助けに来てくれたの?ここの兵士に捕まったらあなたも無事ではないのに」
僕は彼女の肩から手を離し、自分の膝を抱えた。
「僕はどうしても君を助けたかったんだ。助けずにはいられなかった。僕は、君にある人を重ねているんだ。だから、君が危ない目にあっているのを見ていられなかった。だから…君に幸せになって欲しいんだ」
と目を伏せた。
「その人が好きだったのね」
「うん。とても優しくて、暖かくて、好きだった」
「彼女だったの?」
「ううん。カリナは、彼女は他の人を好きになって、幸せになったんだ。嬉しかった。僕はその姿をずっと見ていたかった」
「…どうしたの?」
「亡くなった。僕の腕の中で…僕は助けられなかったんだ…」
と自分の手を見る。
まだあの時の感覚が残っているようだ。
何も、何一つ、出来なかった空しさが蘇る。
「…僕は…何も出来なかったんだ…」
そう言うと涙がこみ上げてきた。
それを手のひらでぬぐい顔を上げる。
僕の頬にリザの暖かい手が触れた。
「何も出来ない事はないわ。あなたは私を救ってくれた」
そう言ってリザは僕の頬にキスをした。
僕はリザを抱きしめていた。
僕からお返しのキスをする。
それを彼女は受け入れてくれた。
僕らはお互いが世界で一人ぼっちなんだとそう思い。
そう感じて。
その寂しさを埋めるように抱き合った。
何度も求め合い。
満たされない思いをお互いの体で埋めあった。
「ソルジャー・シン。人類の町はどうでした?」
僕はアタラクシアに戻ってからしばらくスウェナと行動をすると言っていた。
「懐かしかったよ」
と答える。
艦橋に向かいリオを呼んだ。
人払いをした部屋にリオが入ってくる。
僕はリザの事を彼に話し、リザの彼の消息を調べた。
彼は疑われているだけのようだった。
これならすぐにでも見つけ出せるだろう。
僕はリザを救い出す時に基地のコンピュターにアクセスして彼女の記録をすべて抹消し、兵士の記憶も消してきていた。
これは、そうする事は、マザーと同じ事を僕はしていると思いつつ、実行した。
「リザは眠らせてきた」
(はい)
「一緒に行って、彼女の記憶を…彼女の中の僕の記憶を全て消してくれないか」
(ジョミー、消してしまっていいのですか?)
「彼女には幸せになって欲しいんだ」
(それは、辛くないですか?それは二人とも辛いですよ)
リオに僕は彼女を好きになったとかを一切言っていないが、彼にはわかっているようだった。
僕らは、彼女の記憶を消しに戻った。
僕は眠っている彼女に最後のキスをした。
「出来る事なら奪ってしまいたいよ。出来るのなら…。でも、僕はミュウだから…。彼を君の元に帰るようにしてあげる。そして最後まで名乗れなくて…ごめん」
そう、いくら僕が元は人間だったと言ってもシャングリラに人間を乗せる訳にはいかない。
いつ果てるともわからない戦いの道に進みゆくのならば、なおさらだった。
「ありがとう。僕はまた前に進める」
「リオ。施設のコンピューターに入った時に一つわかった事がある。ここのテラズナンバーを破壊する。きっと道は開ける」
僕らはもう振り向かずに歩き出した。
ここから、僕らの本当の戦いが始まった。
君への想い 終