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「海を見たかい」 七話 電波ネコ

2012-07-21 01:43:29 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)


 「猫・ねこ・電波ネコ」


「HP開設。初仕事」
 と、
 春野が可愛いネコや花がTOP画面にある俺達の「何でも屋」のHPを作った。
 大学一年の春のうららかな日曜日、俺の部屋に、大川孝之と春野美津子が来ていた。

 彼らは一週間程前、俺の部屋の前で出会い意気投合したらしい…。
 それで、悪霊祓いを含む、何でも屋をやろうと言う事になったと俺は事後報告を受けた。
 心霊関係の依頼なら春野がネットワークを持っているとの事で、それなりに集まっていたが、そういうのは簡単には受けられない。
 俺が一つ一つ電話をして状況を聞いてからでないと動けなかった。
 だから、大川達が動けそうな依頼は、ご近所さんのネコ探しだった。

「そっちは俺は手伝えないぞ」
 と言ったものの、ミソカ達を使った方が確実に早いのは目に見えていた。

 探しているのは、薄茶色のトラ柄の雄ネコ。
 まずは、聞き込みから二人は開始した。
 目撃証言はあっても違う猫だったり、いつも見る訳ではなかったり、無駄に日が過ぎていた。
 三日が過ぎた。
 俺は彼らに鈴を渡した。
 春野はミソカの姿を見る事が出来たが、話せなかった。
 大川は見る事は出来なかったが、何となく気配はわかるのだそうだ。

 春野が情報を収集して居る場所で見張っているとネコは来た。
 上空でミソカが逃げないように威嚇している。
 何とか大川がネコを捕まえ無事に初仕事は終了した。


 その日、俺は学校で同じサークルになった女子と会っていた。
「見えないネコが家に住み着いているみたい」
 と彼女は言った。
 そのネコは声だけなのだと。
 彼女の名は久保田真理。
 通称タマリ。
 ごく普通の女子学生だ。

 一つ変わった所は、これは春野の唯の勘だが、彼女が大川狙いなんじゃないかと言う事だった。
 確かにそれは変わっている。
 …いや、別に大川狙いでも、依頼はオカルトだ。
 俺はネコ探しで奔走している二人を置いてタマリの家へ向かった。
 公団住宅での、両親と弟の四人暮らしだった。
 ご両親は留守で、中学生の弟は部活で不在とタマリは言った。

「別に何も感じないけど…おかしいな…」
 と、俺はごちた。
 俺は電話を受けた時に感じた違和感をここでは感じなかった。
 ペット禁止のアパートで、泣き声を上げるネコの霊。
 住人にはさぞかし迷惑だろうと思った。
 俺は大川から「薄茶色のネコ無事発見、捕獲」の報告を受けた。
 その電話の中で走るノイズ…。

「ネコの声だ…」

 そう思った俺の声にもう一人声がかぶさる。
「ネコいるの?」
 と、大川の電話からミソカの声がした。
「??なんで電話してるんだ」
「ワタシ、ハルノとしゃべりたくて、電話なら話せたのよ。びっくりしたわ」
 そうそう。と春野の明るい声がする。
「でも、これタカユキの電話だろ?」
「電話なら基本同じみたい」

 なにが基本なんだよ…。
 まぁ、目には見えないが写真には写ると同じ原理なんだろうが、電話する式神なんて…。
 聞いた事がない、変過ぎる…。

「で、何?そっちもネコよね?」
 とミソカが言った時、また電話からネコの鳴き声がした。
 大川と話す俺を見て目をキラキラさせているタマリを見て、俺は大川にこっちに来るようにと言ってネコの鳴き声がした方向を探った。
 さっき電話から聞こえたが、探してもそれらしい気配が全くない。

 俺は不可解過ぎて、自分の力を疑ってしまう程だった。
 二人で別々に探していたので、俺はタマリに電話をしてみた。
「タマリ、ネコの声はするか?」
「ううん。全然」
 と、言った時、ネコの声がした。
「にゃーーん…」
 と。
「ネコ!」と二人同時に言った。

「もしかして、見えないネコの声がしたのって、今みたいに電話中じゃなかった?」
「うん。そう。電話中だった。だからうるさいなぁって探しに出たのにどこにもいないの」
「これは…」

 俺が見ても見えないもの?

 ここにもそこにもある電波のネコ。

 不可視のネコ。


 やがて、俺は大川達と合流した。
 俺はミソカに電波のネコの捜索を頼んだ。

「そこの電柱のてっぺんにいるよ。ネコ」

 俺は視てみたが、ぼんやりとしか見えなかった。

 電波のネコ。
 何故形がネコなのか、何故ここにいるのか。
 さっぱりわからなかったが、
 とにかく捕獲は出来ないと思えるので、排除する事にした。

「ミソカ。下に降ろせる?」
「出来そうにないわ」
「なら、下から電気当ててみる」
 俺は前に使った携帯から瞬間的に電気を発生させる方法を試してみた。
 携帯画面に「雷帝」を出して、念じた。
 バチッという音がして微量の電気が電柱を上っていった。
「にゃ」
 という声がしてネコの姿が揺らいで消えた。

 だが、すぐ隣の電柱にまたいるとミソカがいう。
「キリがなさそうね」
 と春野が言う。
 たしかにそうだ。ここを祓っても他に行かれたら同じだ。
 考え込んでいると、
「ねぇ、カイくん。ネコの写真撮れると思う?私たちも見てみたい」
「俺にもはっきり見えている訳じゃない」
「試しに一枚撮ってみて」
 とデジカメを渡された。
 俺は仕方なく、二~三枚撮ってみた。
 後ろでは、ちゃんと念じて撮るんだよ。と春野が言っていた。
「はい、はい」
 三枚中、一枚が半透明なネコっぽいモノのシルエットが映った。
「おおーー」と
 春野が歓声を上げる。
 大川とタマリの二人が嬉しそうにデジカメを見ていた。
 これが、依頼の度に写真を撮るように言われるきっかけだった。


「さて、どうしたものか…」
 とミソカが言う。
「さっきより大きな電気を使えば消えると思うが…」
「ツゴモリと替わろうか?」
「いや…」
 俺はネコが移動した電柱を伝っている電線を眺めた。
「それをやると、ここ一帯の電気が落ちるぜ」
 俺がそう言うと
「さっきの写真みたいにピンポイントで電撃できないか?」
 と大川が言ってきた。
 念を飛ばす?
 人に呪詛返しをするみたいに…飛ばすのか…。
「そんなのやった事がない…」
 うーんと俺が悩んでいると
「もし、電気が落ちちゃってもワタシが復旧させるから、やってみて。カイ」
 ミソカが言った。

「わかった」
 俺は電柱のネコを見上げ、俺の目線とネコの間に「雷帝」を出した携帯を入れる。
「ミソカ。行くよ」
 と声をかけ、ネコに念を飛ばした。

 さっきと同じようにネコは短い「にゃ」という声を上げた。
 そして消えた。
 他に移って行ってはいないようだ。
 やはり電気は一瞬途切れたが、ミソカが上手く復旧させた。
 
 俺達の初仕事の「ネコ探し」と「ネコ退治」は無事終わった。
 タマリの家を後にした俺達はメゾン「ソレイユ」に戻った。


 翌日、大川が出て行く音で目が覚めた俺は携帯のメールを確認した。
 春野から一通きていた。
 そうそう、最近、大川はここから学校に通っている。
 どうも自分のアパートより快適らしい。
 あんまり居るようなら家賃を取ってやろうかと思う。

 春野のメールは
「初仕事の事UPしました。見ておいてね」だった。
 俺は早速一階に下りて、ノートパソコンを開けてみた。
 そこには、あの電波ネコの写真と
「スクープ!都市伝説」とあった。
 新しく都市伝説というページが追加されたようだ。

「そんなもの…扱いたくない…」

 どうやら、まだまだ俺の苦労は続くようだ。



 しかし、あのネコは何だったのだろう?

 電子の中で生まれては簡単に削除されていくものが形になったのだろうか?
 見えないモノたちの供養もする時代がきたのだろうか…?






「あなたの家で、会社で、見えないネコが鳴いていませんか?」










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