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「海を見たかい」 八話 悪夢の一夜 高校一年の事件の全貌

2012-07-21 13:42:42 | 海を見たかい 秋月海 編 (真城灯火)

  「悪夢の一夜」 高校一年夏の事件の全貌


「秋月くん。お姉ちゃんを助けて」


 三沢結花の妹、三沢美緒が俺の家に飛び込んで来たのは、高校一年の夏休み。
 八月の始まりだった。

 八月の地元の行事の関係で二日が登校日になっていた。あの日。

 三沢姉妹は小学校時代に通っていた習字塾での知り合いだった。
 学校は違ったが、彼女達の家が俺の家を通り過ぎた先にあるのでよく一緒に帰っていた。
 俺は六年になる頃に塾を辞めていたのでその後は会っていなかった。
 約四年振りとなる。


 八月二日 午後六時過ぎ

 まだ明るいこの時間に家にいた美緒は姉から「今日は遅くなるからね」とのメールを受けた。この何の変哲も無いメールに胸騒ぎを覚えた美緒は姉を探し回った。
 一歳違いの中学生の彼女が一時間かけて集めた情報は「姉が同じ高校の男子から肝試しに誘われた事と四人でどこかに消えた事」だった。
 それだけなら、俺の所に来る必要はない。
「最近、結花の霊感が強くなってきている」
 と言った。
 俺は北小界隈で、小さい頃に霊感少年と呼ばれた時期があった。
 美緒はそれを覚えていたのだろう。
 だけど、俺の霊感が弱くなったように、結花も不安定な年齢だから、そういうのが強くなったり弱くなったりもするだろう。と俺は思ったのだが、美緒はとても怯えていた。
 漠然とだが、何かが起きるかもしれないという予感はあった。

「お姉ちゃんを探して!」
 美緒が叫んだ。


  同日 午後七時過ぎ

 俺達は結花が誰と約束をしたのかを突き止めた。
 同じ学校の、大川孝之、佐伯颯太、渡辺千沙だった。
 大川と佐伯の家の親は何も知らなかった。
 渡辺の母が学校で用事があるから遅くなると言っていたと教えてくれた。
「俺も行くはずだったのですが、どうも急に場所が変わったみたいで合流出来ないんです」と、嘘をついて三人の携帯番号を教えてもらった。
 その携帯を鳴らしながら考える。

 高校で肝試し?
 俺の高校は一昨年に移転した新築校舎だ。そんな所で肝試しもないだろう…。
 では、旧校舎は?どこにある?
 ここから二駅先にあった。
 相変わらず三人の携帯は繋がらなかった。
 俺は自転車で向かう事にした。
 美緒はもう真っ青だった。
「お前は三沢に戻れ」
「イヤ」
 彼女は引き下がらなかった。
 その日は、地元の行事の関係で祖父、父ともに留守だった。
 俺はじいちゃんの部屋から装具を無断で持ち出し旧校舎に向かった。


  同日 午後八時十五分 旧校舎前

 静まり返った学校は不気味だった。
 近くの家の明かりはあるが校舎だけ暗く沈んでいて、余計に怖さをおぼえた。
 校門にカメラが設置されている。
 門は開いていた。
 ここから入ったのか?
「誰もいないみたいに静かだね」
 と美緒が言う。
 それでも俺達はここに彼らが居ると感じていた。
 俺は結花の携帯へ電話をかけてみた。
 返事はない。
 二人で何度か鳴らした時、
「…はい…」
 と、声した。
「三沢か?」
「お姉ちゃん。どこにいるの?私、怖くて怖くて仕方無いよ」
 と、美緒が俺の携帯で話している。
 試しに俺の携帯で美緒にかけさせてみて正解だった。

 俺は門を開けて中に入った。
「美緒、居場所を聞いて」
「こっちだって」
 と美緒が電話にひかれるように横を通り過ぎる。
 三沢姉妹には霊感がある以上に兄弟の繋がりが強いと思えた。

 校舎に近づくにつれてゾクゾクする悪寒が上がってくる。
 俺はここがある一定以上の状態になっている事に気が付いていた。

 何かが集まっている。

 美緒が案内する校舎の通用口に着いた。
 俺は美緒から携帯を受け取り、彼女を引っ張ってきて一旦、門へ引き返した。


  同日 午後八時三十分頃

 街灯はあるが、暗い学校前に美緒を置き去りにするのは問題があった。
「さっき通ったコンビニまで戻って、着いたらすぐに家に電話して、親に警察を呼ぶように言って。出来れば俺の家にも電話をして欲しい。俺はこのまま結花との電話を繋げておきたい。怖かったら店員さんに警察を呼ぶように言ってもいいから、お願いだから、ここから早く離れて」
「秋月くん…は?」
「俺は皆を連れ出す」
 と、大川達のの電話番号のメモを美緒に渡して、彼女の自転車が見えなくなるまで見送った。


 ポケットの中の塩が発熱している気がする。
 そこには、塩と一緒にじいちゃんの装具、独鈷があった。

 さっきまでは美緒が居たから、怖がっていないように指示していたけれど、
 ここには。
 俺が今まで感じてきた物とは格段に違うモノがいる気配があった。
 怖かった。
 身体全体が冷たくカチカチになったような感覚がする。
 夏なのに息が白く見える気がした。
 俺はポケットの中の独鈷を握り締めた。

「…見つけて。連れ出すだけだ」
 
 校舎から出しさえすれば、後は警察に任せようと思っていた。

「結花…聞こえるか?秋月海だ」
 しばらくして返事があった。
「カイくん…美緒は?…」
「危ないから帰らせた、今頃は家に電話をしているだろう」
「……よかった…」
「大川は?佐伯や渡辺は?電話に出ないんだ。何があった?」
「あの子ったら来ないでって言ったのにどんどん来るんだもの」
「大丈夫だ。ここから離れた。ちゃんと見送った。また来るとしたらご両親と一緒だ」
「大川くんは…皆は…わからない…ここから見えない…」
 結花と会話をしながら、俺はさっきの通用口まで進んだ。
 通用口は開いてなかった。
 開かない?
 彼らは閉じ込められているのか?

 開かないなら…窓を壊そう。
 俺は裏手に回った。
 学校の窓ガラスは大きい上に丈夫だ。
 遠くからの投石で破った。
 破片を払い落とし鍵を開けて校舎に入った。

 
  同日 午後八時五十分 一階の廊下

「無事か?三沢」
 と俺は携帯と校舎に叫んだ。
「…秋月くん。2階の…階段に…」
 と結花から返事がある。
 俺はそれを聞きながら走った。
 二階への階段を駆け上がる。
 結花はそこに居た。
「三沢!」
 ここは息をするのも苦しいくらいに濃厚な霊気があった。
 彼女はこんな所で電話を繋いでいたのか?
 それは、多分、美緒と結花の繋がりだろう。
「何があった?何を見た?」
「何か黒い、それが見えたから私はここから先に行けなくなって…、皆は先まで言って戻って来るって言ったのに、来ないの。悲鳴だけ聞こえて…怖くて…怖くて」
「わかった。結花さんはこれを、しっかり持って、待ってて」
 俺は彼女の懐紙に入った塩を渡す。
 これで少しは楽になるだろう。
 俺はそのまま大川たちを探しに行こうとした。
「どこ行くの?行かないで、怖い」
 と結花は泣き出してしまった。

 この得体のしれない状況で一人で居たんだ。
 さっさと連れ出してあげたかった。
「皆も大変な事になってるかもしれないから…探したいんだ。連れてくるから待ってて」
「イヤ。怖い。一人にしないで」
 俺はあたりを注意深くみてから、独鈷を彼女に持たせた。
「じゃ、これを持ってて。すごく大切な物だから、守ってくれる。俺を信じて待ってて」
 結花は独鈷を受け取ると安心したようだった。
「大川達が見つからなかったら、君を連れてここを出るから。携帯は切らないでいて」
 そう言って俺は階段を離れ、月明かりしかない廊下を進んだ。
 
 二階の端、L字に曲がったもう一つの階段まで来た。
 その階段の一階へ行く踊り場に佐伯と渡辺が倒れていた。
 声をかけても返事はなかったが、身体を揺らすとかすかに返事をした。
 彼らの服に、佐伯はポケットに渡辺はポシェットに塩を忍ばせると、俺は再び二階へ戻った。
「これで佐伯たちは取りあえず、無事だろう。後は大川…」

 突き当たりの教室のドアが開いていた。
 そこには大川がいた。
 二人と同じように意識はない。
「大川、大川孝之!返事をしろ」
「……カイ?…」
「目を覚ませ。しっかりしろ。ここを出るぞ」
 俺は大川の腕を掴んで立たせようとした。

 その時、背中にぞっとする感覚が走った。
「…!」
 俺達二人は部屋の端まで飛ばされていた。
 部屋には何も無かったので幸い怪我はしていないが、ドアにあいつがいるのはマズイ。
 俺はヤツの下に、清めの塩が落ちてるのを見た。
「結花、独鈷で俺を呼んで。そこまで行くから」
 と携帯に叫ぶと、発火石を塩に向かって投げる。
 青白い浄化の炎が燃え上がる。
「大川」
 俺は大川の手を掴んで、全速力で結花の元へ走った。
 月が雲に隠れていたが、廊下の端だ。
 まっすぐに行けばいい。

 あと少しで階段だ。

 だが、俺達はそこで何かに捕まった。

 目の前に何かがいる。

「カイ?何あれ?」
 と見えないはずの大川が言う。

「我皇……?」

 な、なんでそんな大物が。
 動けないどころじゃない…。

 生きてここから出られないかもしれない…。

 独鈷が俺を呼んでいる。

 結花。


 上から圧力がかかり俺達は廊下で這い蹲った。

「な、何故。俺達は何もしていない。我皇…何故こんな事を…」

「お前の知った事ではない。わしはここで休んでおっただけだ」

「人の子を脅して何が楽しいのです。あなた程の者が」

「わしがした事ではないがな。だが、今日は虫の居所が悪いのだ。遊んでゆかぬか?」

 俺は話しながら護身用にと塩を大川に持たせる。
「俺は結花のとこまで行く。これを持ってて」

「…我皇。俺は秋月海だ。「三鷹」の関係者だ。わからないが、俺ならお前の相手が出来るかもしれない。俺を残して他の三人は見逃してしてくれないか」

「三鷹。あのどうしようもない一族か?」
「ああ、そうだ。秋を司っている」
「ふん、ならば、三鷹にお前の首を持って行ったらさぞかし楽しいだろうなぁ…」
 我皇の手が俺に向かって伸びてくる。
「カイ!」
 大川が起き上がり叫んで突進してきた。
 そして、我皇に向かって塩を投げつけた。

「大川、だめだ。塩じゃ効かない」

「我皇は俺を殺そうとはしていないんだ」
 そう俺が叫んだ。瞬間、我皇を中心にして左右に窓ガラスが吹き飛んでいった。
 廊下の端まで音を立ててガラスが壊れてゆく。
 大川はそのまま廊下に倒れこんでいた。
「孝之!」

 ガラスが割れた音に反応したのか、結花の悲鳴が聞こえる。
「結花!」
 俺は我皇の横を抜けて、結花の元に走った。
 廊下を曲がり階段に着く。
 彼女の手から独鈷を受け取り、彼女を背にして両手で独鈷を持ち上げる。

 廊下をこちらに来る何かの気配がする。
 それは結花にもわかったようだ。
 彼女は俺のシャツの後ろを震えながら掴んでいた。


「我皇。あなたを怒らせるつもりは無かった。が、こうなっては、もうどうしようもない」

「生意気な小僧め。首を取るだけでは足らぬわ」

「俺のすべてで対抗してやる。こっちに来い」
 

 そのまま、廊下を曲がってくる我皇。

 馬のような長い顔、細く長い手足、黒い死神のようにボロボロに裂けた飾りの付いた服。
 そして白く長い髪、金色の大きな目、裂けた口と牙。

 これが昔、中国で皇帝だった者の成れの果てだった。
 策略に負けて殺された皇帝は、自分の恨みをある壺に残した。
 それが、のちの世に高価な物として日本渡って来た。
 その壺は、三鷹の手によって祓われ、壺は政府に、我皇は三鷹の物となった。

 それが何故、こんな所に居るのか?

 俺は皆を死守する覚悟だった。
 俺の中の力を独鈷に込める。

 我皇からの霊圧で手が震える。
 風が巻き起こる。
 細かいガラス片も飛んでいたが、気にしてはいられない。

「俺が盾になるから、俺の影にいて」
 と俺は結花に声をかける。


「ワシと力比べだと?全く持って無駄な事を」

「俺は…」
 独鈷を握りなおす。

「俺は皆を守る」

 俺と我皇が対峙して何分経っただろう。
 五分だったような、
 一時間だったような、
 二時間だったような、
 いや、一分だったのかもしれない、
 何分経ったかはわからないが、俺は独鈷を握り締め

「俺は死んでもいいから、皆を守れる力を」

 と叫んでいた。


 独鈷が金色に光った。

「ここで死んでは、幸次郎が悲しみます」
 と、声が聞こえた。


 辺り一帯が金色になった。
 我皇が消えてゆく。

 俺達はそこで気を失った。


 外では人の声がしていた。
 パトカーも来ているようだ。赤い光りが見える。
 それが俺のそこでの最後の記憶だった。



  同日 午後九時四十五分 救出される


 俺はそのまま入院をして退院出来たのは九月半ばだった。
 学校に通えるようになったのは十月に入ってからだった。

 この肝試しは、大川は三沢に、佐伯は渡辺に告白する為に誘ったものだった。
 三沢はこの旧校舎が不気味だと気が付いていたが、渡辺を見捨てる事が出来ずに入ったとの事だった。
 二階で何か見てしまった彼女だけが先に進めなくなり、彼らの悲鳴を聞いたのだ。
 事件の事を、佐伯や渡辺は何が起きたのか全くわかっておらず、大川は何も言わなかった。
 三沢だけが話していたが、もちろん信じる者はいなかった。
 やがて、彼女も話さなくなり、その話に尾ひれだけが付いてまわっていた。


「肝試しをしたら、秋月が来た所為で、本物が出て。それで怪我人が出たそうだ。あいつに関わるとろくな事がない」


 学校を原因不明の熱で休んだ事で、単位が危うくなり、尾ひれが付いた噂も広まり、俺は志望校を変えて東京の大学を受ける事になった。


 俺が入院中に三沢が何度か病室を訪れていたが、両親が居ると会わせてもらえずにいつも帰っていた。
 が、じいちゃんが居る時に来た一度だけ会えた事があった。
 俺は重体だったので意識はなかったが、彼女が俺にこう言ったのは何故か覚えていた。

「秋月くん。好きです。早く元気になって下さい」

 後にコレが俺の楔となってしまうのだが、そう言われた時は嬉しかった。


 俺も彼女が好きだったんだ。

 俺は彼女を助ける事が出来て良かったと思っていた。







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