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わが母の記

2012年05月13日 | わ行 映画
橋田寿賀子か、原田眞人か!と思うくらいの多弁な台詞は、役者泣かせなんだろうなあ~と思いつつ、縦横無尽なカメラワークに、敬服。さすがは、原田眞人。映画って、こういう風に撮るんですよ!と、これでもかっと見せられた感じ。いつもながら隙のない、気合入りまくりながら、それをさらっと見せる。まずまず、冒頭かららしさを感じた。

さて、自分が井上靖の著作は、何を読んだことがあるかなあ~と思い返した見たが、「天平の甍」とか「敦煌」とか、歴史ものばかりで、歴史小説作家と言う印象がとっても強い。私小説や、エッセーなどをさっぱり読んでなかったことにいまさら気付いた。どんな人であったのか、どんな子供時代を送っていたのか、かなりユニークな子供時代を送っていたと言うことを、初めて知ったという情けない次第。改めて興味がわいた。

少年・洪作は小学生の頃の多感な時代に、母のもとを離れ、祖父の愛人(この辺の人間関係が、ちょいとわからなかったのだが。。)と暮らしたという。それも本家の土蔵の中で。呼び方が、【土蔵のばあちゃん】。洪作にとって、母から自分は捨てられたんだと言う強い呪縛がいつまでも付きまとう。

洪作は父を看取ったあと、母の老いを痛切に感じる。妹夫婦のところで暮らす母のボケが日に日に強くなっていく。同じこと何度も繰り返し、彼女が若い頃に背負った瑕が今覆いかぶさってくる。

老いた母と、わだかまりを持つ息子との確執、その一方で、昭和の頑固親父と娘たちとのある意味成長物語にもなっている。そこに必要だったのは父親自身の意識が大きく変わったこと。その理由こそが、母に対して長年抱いていたこだわりが解消出来たことであっということ。母は母だった。息子の身を案じ、静かに愛し続けてきたことを知る。

その瞬間のカタルシス。ここぞ映画、これぞ映画の醍醐味だった。

希林ばあさんのお見事沙は言うに及ばずなのだが、何が凄いって、佇まいが凄い。年取って枯れていったときというのは、身が縮んで小さくなるもんだが、見事にちっちゃく、枯れてる。若いときから長年ばあちゃんをやってる年季の入り具合の凄さ!参った。

その昔、本を出版した当人が、検印を押すみたいな話はまったくのトリビア。まったく違和感のない50年代から70年代の風景。ああいった時代感を見せるのは、原田監督、本当にうまい。丁寧に作られたこだわりの作品と言うのは、見た甲斐がある。

◎◎◎◎

「わが母の記」

監督 原田眞人
出演 役所広司 樹木希林 宮崎あおい


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4 コメント

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ていねいにていねいに (KON)
2012-05-15 15:36:05
とてもきれいなカメラワーク。
小津さんを意識したようなゆったりした会話。
美しいお酒や食事風景。
全てがていねいにていねいに進んでいく感じが好きです。
樹木さんの見事なおばあさんぶりは言葉にならず。縮むも伸びる自由自在。
そして役所さんの間の取り方のうまさ。
お父さんと娘の余裕ある会話の妙にも酔いしれました。
昔の日本っていいなあ。なんてゆったりした気分を満喫できました。
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>KONさま (sakurai)
2012-05-15 23:02:53
ほんとに丁寧でしたね。台詞の一つ一つ、一つにシーンにどんだけのカメラワークなんだ!と言うくらいの念の入れよう。
徹底的に念を入れる作りは分かってましたが、今回は静かな話しなだけに、一層それを感じました。
昭和の頑固おやじは、うちの親父をちょっと思いだしましたね。
有無を言わさず、ガンと言って譲らない。
それには何の根拠も裏付けもないのですが、それが通るのが親父でしたわ。
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感動巨編 (mezzotint)
2012-05-22 21:41:51
sakuraiさま

のようなものを期待していたんですが、
淡々としたテンポの作品でした。
久しぶりにこういうのも良いですね。

役所さんも良かったけど、やっぱ希林さん
ですね。こういう役は自分だからまわって
くると話していたのを見ました。
確かに彼女しかいないかもしれませんね。
あの時代の家族の連帯感のようなものも
上手く表現されていましたね。
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>mezzotintさま (sakurai)
2012-05-24 09:00:44
淡々としながらも、着々をいろんなものが構築、蓄積されていって、どか――んとくる!!と言う風に私は感じました。
この監督さんはことさら感動!ってもんを押しつける作りじゃないのですが、外堀から埋めて行って、丁寧にじわじわくる・・・・と言うのを堪能しました。

希林さんの人柄は、いろんなめんでいつも敬服してます。
あんなばあちゃんになりたいなあと常々目標であります。
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