星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

fortune cookies(5)

2008-10-05 21:50:25 | fortune cookies
 美沙子姉さんが私の家に滞在していた数日の間に日曜日が多分あったのだろう。学校が休みのある日、姉さんは「今日は里江ちゃんと一緒にクッキーを作ろうか。」と提案してくれた。クリスマスが近かったせいかもしれない。私は張り切ってエプロンを出してきて準備した。その日は朝から冷え込んでいて、北側にあった台所は午前中特に寒く朝からダルマストーブを点けていた。姉さんはクッキー作りに必要な器具を台所のあちこちの扉を開けて探し出したが、まず秤が見当たらなかった。ゴム製のヘラとかクッキー型とかも見当たらなかった。母はお菓子作りの類はいっさいしない人だったし、洋風の料理もほとんどしなかった。
「そんなにきっちり計らなくても多分大丈夫。」
 姉さんはそう言いながら、母が何かに使えるかもしれないと取ってあったイチゴの入っていたプラスティックの空きパックを使って、器用に粉と砂糖の分量を量っていた。粉ふるい器も無かったのでザルで粉をふるった。ゴムべらはないが普通のスプーンで粉と卵を混ぜた。私がやらせてやらせてと連発するので、姉さんは卵を割ったりとか粉をふるったりとかの作業を適宜私にやるように言ってくれた。母は台所を汚されるのを嫌って食事の後片付けはさせても料理の手伝いなどは一切させてくれなかった。私は自分が少し背伸びをしているような気がしてとても嬉しくなった。姉さんは生地の半分にココアを混ぜブラウンの生地を作り、それとプレーンの生地を海苔巻のようにぐるぐると巻いて輪切りにし、渦巻き柄の生地を作った。
「すごいー。美沙子姉ちゃん何でも出来るんだねー。」
 普通の食事もまるでお母さんのようにてきぱきと作ってしまうのですごいなと思っていたが、お菓子作りまで出来てしまうのを見て私はますます憧れの眼差しで姉さんを見つめていた。

「里江ちゃんも何か好きな形で作ってみる?」
 まだ生地は半分ほど残っていた。
「うん、作る作るー。」
 私は二つ返事で答えた。
「そうだ、フォーチューンクッキー作ってみようか。」
「フォーチューンクッキー?なあにそれ?」
 私は聞き覚えのない名前に興味を持った。
「あのね、クッキーの中にね、占いのようなおみくじのような紙が入っていてね、食べる時にそれが出てきてね、なんか素敵な言葉が書いてあるのよ、それを読むの。」
 そんなものは聞いたことがなかった。おみくじが中に入っているクッキーなんて。
「姉ちゃん食べたことある?」
「ないよ。」
「じゃ何で知ってるの?」
「うーん、映画かなんかで見たのかなあ。分かんないけど。アメリカにある中華料理屋さんで食事すると出てくるみたいなのよ。ちょっとそういうの作ってみたいよね。」
 私にはうまく想像できなかった。アメリカの中華料理屋さんに何でクッキーがあるんだろ?おみくじって外国にもあるのかな。英語で何かが書いてある?それとも中国語で?
 美沙子姉さんはいつも母がてんぷらを揚げたときにお皿に敷く紙を細く小さくハサミで切って、それを10本くらい用意した。
「これに何かいいこと書こう。何か嬉しくなることね。」
 
私と姉さんはそれぞれ背中を向けて紙に小さい文字で書きだした。私は、占いのようなもの、という姉さんの言葉を思い出し、何となくいつも読んでいる少女マンガの雑誌の占いページに載っているような文面を思い浮かべ書いた。今日のラッキーカラーはブルー、とか憧れのあの子に偶然出会えるかも、とかそんな類のものだ。
「じゃあ小さく畳んで生地に入れよう。」
 私たちは生地に紙を入れ丸め、オーブントースターに入れた。オーブンなど家には無かったが、姉さんは多分これでも大丈夫だろうとのことだった。私はクッキーが焼けるまでオーブントースターの脇を離れなかった。だんだんと甘い匂いが台所の中に漂ってきた。早く焼けないかな、と焼きあがるまでに何度も何度も言ってしまった。

 クッキーが出来上がると、姉さんはやけどするから、と言ってすぐには味見させてくれなかった。私はおみくじの入ったクッキーが気になって仕方なかった。あまりに私がまだかまだかと催促するので一つだけじゃあ開けてみようと言って開けてみた。二人でこれ、と選ぶとせーのと言って同時に中の紙を出してみた。
「今度の席替えで好きな子の隣になれるかも。」私は読み上げた。
「あなたは優しくて背の高い人と23歳で結婚できるでしょう。」姉さんも読み上げた。
 私は姉さんと顔を合わせるとなんだか恥ずかしくなって笑ってしまった。姉さんは私の浅はかな文面を「わー、23歳で結婚できるんだあ。そうなんだー。」と喜んだふりをしてくれた。

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コメント
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反応

2008-10-05 19:47:34 | つぶやき
自分が悪いって分かっているんだけれど、さみしい。
さみしいって思っちゃいけないことも分かっているけれど、
やっぱりさみしい。
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