リーメンシュナイダーを歩く 

ドイツ後期ゴシックの彫刻家リーメンシュナイダーたちの作品を訪ねて歩いた記録をドイツの友人との交流を交えて書いていく。

116. 「追いかけ人(びと)」18年間を振り返る No.5

2017年09月23日 | 日記


              

              ニュルンベルク郊外のクラインシュヴァルツェンローエ、諸聖人教会

      

思い込みと目隠しをはずして

   前回のブログで載せた表の拝観率について、今日は書いておこうと思います。

  私は、追いかけ人になりたての頃、拝観率100%を目指して突っ走っていました。教会にも美術館にも多くの彫刻や作品があります。祭壇にもいろいろあって、多い教会では10を超える祭壇があるのです。その中で、ヴュルツブルクのマインフランケン博物館が発行したカタログや他の本に載っていた写真を元に、この作品はないか、この嘆きの群像はないか、このレリーフはないかと探し回るのですから、結構大変なことです。教会に入ると、まるで目隠しをした馬のように、リーメンシュナイダー関係の作品がありそうな場所を目指すわけです。その際、全部の作品を丁寧に見て回るゆとりがありません。何しろ小さな村や町に行くときに、車がない私は電車やバスに乗って行くわけですし、戻ってくるバスに乗るまでに20~30分しか撮影できない場合も間々あるのです。トップ写真のように人通りの少ない場所の教会を出て帰りのバスを逃したら、どこかの家に泊めてくださいと頼み込まなければなりません。必死です。それが習い性となってしまって、ゆとりのあるところでも目隠しの馬になってしまうのでした。

 ところが2011年のことです。バンベルクの大聖堂を見学していたときに、夫や友だちが「あそこにもリーメンシュナイダーみたいな作品があるよ」と教えてくれたのです。恥ずかしいことに私はその祭壇を完全に見落としていました。真ん中の彫刻が彼の作品とは雰囲気が違っていたからです。ところがその左端に目を向けると、リーメンシュナイダーの聖セバスチアンが立っているではありませんか。色鮮やかで雰囲気が違っていたとしてもそれは言い訳にしかなりません。あわてて教会のパンフレットを見てみると、確かにリーメンシュナイダー工房作と書いてありました。ショックでした。

 このように、時にはまさしく彼の作品であったり、時には弟子の作品であったり、関係のない作家の作品であったりするのですが、私はリーメンシュナイダーにこだわるあまりに回りの作品を見ようとしていない自分に気がつきました。せっかく一生に一度しか訪れないかもしれない場所なのですから、その場所の雰囲気全体と、他の祭壇や絵や彫刻を見ないのは大変もったいないことです。「ここにはこれがある」というはやる気持ちが、いつの間にか「ここではこれだけ見ればいい」という思い込みになってしまっている。よく見ると他の作品も素朴であったり、深いたたずまいを感じたりするのです。リーメンシュナイダーしか見ないという態度はどんなに僭越だったかということにようやく思いが至りました。追いかけ人となってから12年ほどは目隠しをした馬のようにまっしぐらでしたが、ここ数年は心がけて目隠しを取り、思い込みをなくして謙虚な気持ちでリーメンシュナイダー以外の作家たちの作品にも目を向けるようにしました。

 また、最初の頃はリーメンシュナイダーか工房の作品にしか目が向いていなかったのですが、よくよくカタログを見直してみたら、せっかく訪ねている美術館に弟子の作品もあったり、周辺作家の素朴な味わいの作品があったりするのに見ていなかったことに気がつき、「今度ベルリンのボーデ博物館に行ったらこれも探してみよう」とか、シュヴェービッシュ・ハルのミヒャエル教会の磔刑像を撮影してこようと思うようになりました。この磔刑像はリーメンシュナイダーより少し前の時代に活躍していたミッヒェル・エアハルトが作っていたことが最近になってわかったのでした。

 こんな次第で、いつまでたっても100%見終えることは無理とわかってきたので、現在の目標は、

★リーメンシュナイダー関係の作品で、(個人蔵で拝観がむずかしい作品を除き)公開展示されている作品はできるだけ訪ねて拝観する。

★その際、その場所にある作品も時間の許す限り丁寧に見て心の財産にする。

と変わりました。未拝観のリーメンシュナイダー関係の作品はドイツ国内であと14点ほど、国外では4点ほど残っています。ただ、この半数ほどは訪ねて探し回っても見つからなかった作品ですので、恐らく全部を見ることはできないでしょう。それでも体が動き、世界が戦争に巻き込まれない限り、訪ねて歩きたいと思っています。

※ このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015 Midori FUKUDA

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