リーメンシュナイダーを歩く 

ドイツ後期ゴシックの彫刻家リーメンシュナイダーたちの作品を訪ねて歩いた記録をドイツの友人との交流を交えて書いていく。

231. リーメンシュナイダー写真集 第四巻の裏表紙を紹介します。

2020年09月21日 | 自己紹介

▶本の「顔」がこれでできあがりました。

 


写真集第四巻『完・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』の裏表紙
   モーリス・ダンスの踊り手「新郎」
 エラスムス・グラッサー  1480  ミュンヘン、ミュンヘン市立博物館
 撮影:マティアス・ヴェニガー博士(バイエルン国立博物館)
  

▶今日は本の裏表紙を紹介します。

 本というのは表紙がとても大事です。いつも出版するときにはどの写真を表紙にするのか連れ合いの三津夫とあれこれ相談をします。私の載せたい写真と三津夫が載せたい写真はくい違うことも多いのですが、自費出版そのものは夫婦の共同プロジェクト。あれこれ話し合い、譲り合って最後は一致したもので決めてきました。そして、最初はここに載せた「新郎」を表に、三津夫の大のお気に入り、「ある男の胸像」を裏表紙にと考えたのでした。
 この「新郎」の写真はバイエルン国立博物館マティアス・ヴェニガーさんが撮影したシリーズの1枚です。私は中世ドイツの静かな彫刻の中で、こんなに動きのある楽しげな彫刻が彫られていたことに深く感銘を受けたものですから、是非第四巻では紹介したいと思い、ヴェニガーさんと所属するミュンヘン市立博物館の承諾を得て、シリーズの写真を掲載することにしました。そして本の顔となる表の表紙にも選んだのでした。

 ただデザインを進めている途中で、昨年の日本自費出版文化賞 特別賞受賞の際、受賞記録の冊子に「写真はドイツのカメラマンによるものだが」と書かれているのを見て忙しくて『祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く』しか読まれていないのかなと感じたこと、知り合いの方からも「この表紙では撮影が緑さんとわからないですよ」といわれたこともあったことを思い出し、今回は表紙に「福田 緑  著・撮影」と明記していただくことにしたのでした。そうでないと2冊目からはほぼ私が自分で写した写真を集め、一部撮影禁止だった作品と私がうまく写せなかったけど是非載せたい写真については提供された写真を掲載したということがわかっていただけないのだと感じていたのでした。

 ところが、いざできあがったデザインを見てみると、ヴェニガーさんが写した「新郎」に「福田 緑  著・撮影」の文字が重なった場合、彼の写真なのに私が写したと勘違いされることも出てくると改めて気が付きました。そのため、表の表紙はブログ230に載せた静かな雰囲気の「ある男の胸像」、裏の表紙はマティアス・ヴェニガー博士撮影の「新郎」としたのでした。私は現在のコロナ禍を元気に飛び出すようなこの「新郎」の写真が気に入っているのですが、裏表紙で皆さんが本を閉じたときに、目にしていただければその思いも伝わるかと考え直した次第です。

 

▶ここで「まえがき」を2回に分けて紹介しておきます。

 
まえがき(1)

 1999年8月。ミュンヘンのバイエルン国立博物館のほの暗い小さな部屋で、初めてティルマン・リーメンシュナイダーの彫刻「天使に支えられる聖マグダレーナ」を見た。その瞬間、心に光の矢が刺さったような気がした。この作品が放つ敬虔な祈りの力に深く感動し、彫刻を見て初めて涙した日からはや20年が過ぎた。

 2005年4月1日。33年間勤めた教師としての衣を脱ぎ捨てた私は、「リーメンシュナイダーの追いかけ人(びと)」として彼の作品をまっしぐらに追いかける日々をスタートした。翌年、ドイツ南部の静かな町、シュヴェービッシュ・ハルのゲーテ・インスティテュートで半年間ドイツ語を学ぶ。リーメンシュナイダーの写真集が日本には一冊もなかったので、この素晴らしい彫刻家の作品を写真集として日本で紹介したいという気持ちが徐々に膨らみ、退職後の大きな目標となっていたのだ。そのためにはある程度資料を読み取ることのできるドイツ語力が必要だった。
 留学中に出会った今は亡きアマチュア写真家、ヨハネス・ペッチュ氏から素晴らしい写真の提供を受け、「リーメンシュナイダーの写真集を作りたい」という私の背中を押していただいた。さらに、娘の福田奈々子が、私が本に載せたいと思う作品を一眼レフで撮影してくれた。ヨハネスのカラー写真と奈々子の白黒写真のおかげで、カメラをろくにいじったことのない私が写真集を作るという夢が実現へと近づく。そして、ドイツ語が不十分だった私を助けてくれたのは大学でドイツ語を専攻した平野泉さんだった。彼女はふしぎなご縁から彗星のように私の目の前に現れたのだが、それについてはここでは省略する。

 2008年12月。日本ではほとんど話題にものぼらないリーメンシュナイダーという中世ドイツの彫刻家の写真集『祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く』を丸善プラネット株式会社(以下、丸善プラネット)から自費出版。その後、やはり自分自身の手でリーメンシュナイダーの作品を撮影したいと一眼レフを買い、一眼レフカメラ初心者講習に通う。そして、「この村にまだ日本人は来たことがありません」と牧師さんから言われたドイツの小さな村や、往復できるバス便が1日1本しかない小さな町までカメラと三脚を担いで訪ね歩く。

 2013年1月。第二巻目の写真集『続・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く』を丸善プラネットから自費出版。幸運に恵まれて3月には朝日新聞の書評欄に取り上げられ、何とかリーメンシュナイダーの彫刻を広く日本人に知ってもらいたいという夢が叶う。これで私の務めは終わったと思ったが、連れ合いの福田三津夫に「小さな教会で特別に鍵を開けて見せていただいた聖母子像や、一般人が入れない修道院で写させてもらった磔刑像を、このまま世に出さないでいいのかな。同時代の作家たちの魅力も日本の人たちにもっと知らせたいんだよ」と強く勧められ、さらに写真集作りに励むこととなる。

 2018年8月。第三巻目の『新・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』を出版。三津夫が願っていた同時代の作家たちの紹介もできて、ようやく肩の荷が下りたと思った瞬間だった。

 2019年7月。オーストラリアのエアーズロック空港で出会ってから22年のお付き合いとなるシルヴィアがドイツで結婚式を挙げることになり、招待を受けたのがきっかけで16回目のドイツへの旅に出る。この旅でさらに同時代の作家たちの魅力ある作品に触れ、とうとうもう一冊だけ写真集を出版することを決意。

 2020年1月。こうした経過を辿ってようやく第四巻目のリーメンシュナイダー写真集『完・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』の編集に取りかかった。
                                     

 リーメンシュナイダーと同時代に活躍していた彫刻家たちについては三津夫の方がはるかに詳しく、熱い思いを長年持ち続けて研究してきた。ここ数年に亘るドイツ、およびチロル地方への旅行で撮りためた写真を、第三巻目に引き続き本書にまとめることにした。

 本書第4巻の第Ⅰ部には、リーメンシュナイダー作品の細部を追いかけた写真をテーマ別に編集した。ほとんどが既刊の写真集に載せた作品ではあるが、初出の写真、または同じ写真であってもカラーや切り口を変えた写真で構成した。
 そして第Ⅱ部には同時代の作家たちによる作品の個性的な面白さ、楽しさ、美しさを追求した写真を掲載した。特筆すべきは、バイエルン国立博物館で1550年以前の絵画・彫刻を担当されているマティアス・ヴェニガー博士(Dr. Matthias Weniger)が「刊行に寄せて」を書いてくださったことだ。さらに「モーリス・ダンスの踊り手」(エラスムス・グラッサーErasmus Grasser作)の写真を提供していただけたことである。長年の研究生活の中で数冊の分厚いカタログを出版し、写真家としても名をはせておられるヴェニガー博士からこのような魅力あふれる写真の掲載を許されたことを大変光栄に思っている。また、このグラッサー彫刻の所有者、ミュンヘン市立博物館からも快く掲載許可をいただけたことに深く感謝している。
 ニコラウス・ゲルハールト・フォン・ライデンの彫刻は三津夫の大のお気に入りだが、フランスのストラスブールにあるルーヴル・ノートルダム博物館に掲載許可をいただく手続きをするというのは気が重かった。それでも撮影した写真の掲載許可をドイツ語で申請したのだったが、コロナ禍と重なり、なかなかお返事がいただけずにいた。そこで、リービークハウスで中世彫刻を担当していらっしゃるシュテファン・ロラー博士(Dr. Stefan Roller)に仲介をお願いしたところ、快く引き受けてくださった。ロラー博士はヴェニガー博士のご友人で2019年の旅で初めてお目にかかったのだが、その際ゲルハールトの分厚いカタログをいただいた。博士はルーヴル・ノートルダム博物館と共同でこのカタログを作った方だったのだ。ロラー博士のおかげで念願叶って男性の頭部彫刻3点を本書に掲載することができ、大変嬉しく思っている。(2に続く)

※このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015 Midori FUKUDA

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2 コメント

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リーメンシュナイダー讃!! (根谷崎武彦)
2022-06-22 09:11:43
度重なるヨーロッパ個人旅行で主としてドイツ語圏の教会巡礼を心がけています。すでに85歳になろうという昨今、さすがに気軽に出かけることは叶いませんがブルクfでブルクの大聖堂で対面した大司教像には深い感銘を受けました。「祈りの彫刻」は市立図書館で植田重雄先生の「Riemenschneiderの世界」とともに借出して2週間の借出し期間内に耽読に日々でした。親の時代からのキリスト者としては教会巡りは楽しい修養のひとこまです。
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ありがとうございます。 (福田 緑)
2022-06-22 14:30:23
教会巡りがお好きな方にこのような感想をいただき、大変嬉しく思います。ここ2~3年は新型コロナパンデミックで、旅行をしたくても出来ない不自由感が募りました。この間に大事な友人2人が亡くなり、9月からの17回目のドイツ旅でお墓参りをして来る予定です。直接コロナで亡くなったのではありませんが、高齢の友人が多いので気がかりです。根谷崎武彦様もどうかお体に気をつけて、もう一度ぐらいドイツの教会巡りをされ、ヴュルツブルク大聖堂で司教ルドルフ・フォン・シェーレンベルクの渋いお顔をご覧になってくださいませ。
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