新・旅日記 No.9 2009年冬の旅
真冬の博物館、独り占め
この頃、私はまだネット検索がそれほど得意ではありませんでした。今なら出かける前にこの博物館の開館日や開館時間をきちんと調べておくのが当たり前なのですが、ここに多くのリーメンシュナイダー作品があることだけは知っていて訪ねたのでした。何しろ、ドイツの冬です。寒いのです。何とかクロナハ駅で地図を見て、それでもよくわからずにインフォメーションセンターで行き方を教わって、歩き出しました。後半は結構な上り坂を登ってようやくローゼンベルク要塞フランケンギャラリーにたどりついたのでした。でも博物館らしき建物が見えません。受付のドアを開けて博物館はどこですかと聞くと、受付の恰幅の良いおじ様が困った顔で言うのです。
「博物館は3月まで閉館しているんだよ。」
「え~? 閉館しているのですか? 日本からリーメンシュナイダーの作品を見に来たんですけど…。」
とガックリしながら言うと、そのおじ様は、
「ちょっと待ってなさい。」というと、くるりと背を向けてやおら電話をかけ始めました。早口で何か話しているので内容はよく掴めません。でも、最後の「ダンケ」で何だか朗報のような気がし始めました。
「OK、私について来なさい。」
と、コートをサッと羽織ってドアから出ていきます。少しまた坂を上り、工事中の建物の入り口を開けると、ドアの向こうにいる男性に、
「さっき話した人です。よろしく」
と言い、パチパチと電気を付け、全館の暖房を入れ、
「どうぞ。好きなだけゆっくり見なさい。」
と 言ってさっさと戻っていきました。日本ではあり得ない対応ですよね。涙が出るほどの感激でした。監視員が一人、さりげなくつかず離れず私のすることを見ながらついてきましたが、リーメンシュナイダー関係の作品は12点もあり、心ゆくま でゆっくり見させてもらいました。
地名からもわかるように、この地はルーカス・クラナハが生まれた町で、彼のスケッチも展示されていました。
帰りがけにおじ様にお礼を言い、入館料を払っていなかったので、いくらかと尋ねると「Nein! (要らないよ)」と断られてしまいました。替わりに何枚かの絵はがきを買い、ローゼンベルク要塞をあとにしました。心がほっこりして、一生忘れられない親切な博物館となりました。
<坂の上にそびえ立つローゼンベルク要塞>
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