リーメンシュナイダーを歩く 

ドイツ後期ゴシックの彫刻家リーメンシュナイダーたちの作品を訪ねて歩いた記録をドイツの友人との交流を交えて書いていく。

237. 悲しい知らせが届きました。

2020年10月27日 | 日記

▶今回はペーター・シュミットの思い出の写真集となります。

 


マインフランケン - ヴュルツブルク美術・文化史州立博物館(撮影当時はマインフランケン博物館)にて
 初めて出会った1999年8月11日に「悲しむマリア」像の前で。三津夫撮影
  ※写真の日付は8月10日となっていますが、旅の記録で日時を確かめてあります。

 

▶ペーターの訃報

 2020年10月25日の朝、1通のメールが届きました。ヴュルツブルクに住むペーター・シュミットの息子さん(彼もまたペーターさんです)からで、お父さんのペーターが10月3日に脳内出血でヴュルツブルク大学病院に運ばれ、治療の甲斐なく22日の夜中から23日の朝の間に亡くなったというのです。ショックでした。昨年、足の手術をした病院にお見舞いに行き、「痛みが取れたよ」と満面の笑みを見せたペーターと別れてから1年2か月。コロナでしばらくドイツには行けそうもないとは思っていましたが、ペーターに会えないとわかったときには心にぽっかりと穴があいたような気持ちでした。

 唯一の救いは、恐らく痛みや哀しみに強く煩わされることなく静かに逝けたのではないかと思えることです。私の母も7年前に脳梗塞で入院し、1か月ちょっと意識が戻らないまま静かに病院で過ごし、眠るように逝きました。人によっては最後まで痛みに苦しんで亡くなることもあるそうです。周りで見守る家族は大変辛かったとその方から伺いました。息子のペーターには、今度ヴュルツブルクに行けるようになったらお墓参りをさせてくださいねとお悔やみの返事を書きました。4巻目の写真集ができあがったら、今まで写してきたシュミット家の写真をもう一度まとめて、マンションに一人残されたイングリッドにお礼と共に送るつもりです。

 




2014
年9月17日のペーターとイングリッド
 上はペーター宅にて 下はお寿司屋さんにて

 

▶ペーターとの出会い

 ペーターとの出会いは、1999年にミュンヘンでリーメンシュナイダーの作品と初めて出あって「リーメンシュナイダーの追いかけ人(びと)」になると決意した日から6日後の8月11日のことでした。ミュンヘンからヴュルツブルクに回り、世界で一番たくさんリーメンシュナイダーの作品を展示しているマインフランケン博物館を訪ねたときのことです。初めて入ったリーメンシュナイダーの部屋には他に参観者もなく、私たち二人だけの貸し切り状態でした。どの作品もじっくり見ていたのですが、私は木に縛り付けられ、矢で打たれているにもかかわらず遠い目をしている聖セバスチアンの像の前で佇んでしまいました。以前にも書きましたが、縄で縛られたセバスチアンの手の血管が浮き上がり、まるで生きているかのように見えたからでした。すると背の高い監視員のおじさまがドイツ語で私に話しかけてきて、何やら「矢で撃たれた跡がここにもここにもあるんですよ」と説明してくれているようです。当時私はNOVAのドイツ語コースでドイツ語会話を学び始めて4ヶ月しか経っていなかったので、簡単なドイツ語しかわかりませんでしたが、私たちの熱心に鑑賞している様子が彼を動かして話しかけてくれたのではないかと感じました。まだドイツ人に私から話しかける勇気はなかった頃のことです。それでもリーメンシュナイダーの作品を大切に思う気持ちが通じ合って、親しみを覚えました。そのとき、三津夫が写してくれた写真がトップの写真です。「悲しむマリア」の前でにこやかなペーターと私…。21年前の写真ですから若かったなぁとしみじみ思います。この日は名前を伺う勇気もないまま失礼したのでした。

 翌年、今度は娘の奈々子も一緒にドイツを回り、そのおりにもう一度マインフランケン博物館を訪ねたときに、また前の年に写真を一緒に撮ったおじさまが歩いているのを見かけました。ほんの少しドイツ語も上達していたのか、度胸がついたのか、私は思わず彼に話しかけ、この前写した写真があるのでお送りしたいからお名前とご住所を教えていただけないかと言ったのです。それからしばらくの間は博物館の住所でペーターに手紙を送りました。その次に行ったときに確かご自宅の住所も書いてくれるようになって、友人としてのやりとりや、お宅に伺ってのおしゃべりを交わすようになったのです。お連れ合いのイングリッドとも会って話をするようになりました。その後はドイツに行けばほぼヴュルツブルクを訪ねてはペーターとも会ってあちこち車で連れて行ってくださるようになりました。バスや電車を乗り継いでの教会巡りは結構大変なので、とても助かりましたし、本を作るとマインフランケン博物館に来る日本人に彼の方から私の写真集を見せて話しかけたりするようになったのです。ペーターから紹介されたと、見知らぬ方からお手紙も来るようになりました。でも私のことを「大学で教えているんだよ」と勘違いして宣伝してくれたりしたのにはちょっと困りましたが。多分数え切れないぐらい一緒に会ったり、あちらこちらを案内していただいたり、食事に行ったりしています。私のドイツの友だちの中では3番目に長い付き合いでした。大切な友人、ペーター・シュミットに心からの感謝を送ります。今まで本当にありがとうございました。

 これからは軽くなった足で、またどこかリーメンシュナイダーと出会える場所に案内してくださいね。


2019年7月17日のペーターとイングリッド  
 一緒に旅した京子さんが写してくれたこの写真が最後となりました。

※このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015-2020  Midori FUKUDA

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236. 中川岳さんのご紹介

2020年10月20日 | 日記

▶第四巻『完・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』に載せなかった画像から。

 


ウルム大聖堂 聖堂内陣席の彫刻より 
   ミヒェル・エーアハルト 1469~1474

 

▶中川岳さんのご紹介

 中川岳さんは、私の第一回福田緑写真展「祈りの彫刻 リーメンシュナイダーを歩く」の動画に音楽を提供してくださった若いチェンバロ奏者です。昨年写真展に来てくださった国分寺のUさんから中川さんのコンサートに誘われて、心洗われる演奏を聴いてからファンになりました。チェンバロの音色は私の憂鬱な思いや雑念にとらわれる心を洗い流してくれるような響きを持っています。この音色に出会わせてくれたUさんには心から感謝しています。そのUさんから今朝届いた嬉しいニュースです。10月18日に開かれたコンサートの音楽と中川さんのインタビューが10月26日まで期間限定で聴けるそうですので、ここで急ぎご紹介しておきます

https://www.nhk.or.jp/radio/player/ondemand.html?p=5674_01_41892


 また、今後の演奏については以下のサイトで見られるそうです。

https://gakurecital.wixsite.com/home

 Uさんからは画像付きで送られてきますが、私にはその技がまだ使えません。どうしたら画像付きの紹介ができるのか、今度Uさんに教えてもらうつもりです。

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235. リーメンシュナイダー写真集 第四巻の色校正に行ってきました。

2020年10月17日 | 日記

▶第四巻『完・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』に載せなかった画像から。

 


ウルム大聖堂 聖堂内陣席の彫刻より 
  ミヒェル・エーアハルト 1469~1474

 

▶第四巻『完・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』の色校正に行ってきました。

 10月13日の火曜日に丸善プラネットの白石好男さんと富士美術印刷さんに出向き、色校正をしてきました。加藤陽子さん、大塚欣也さんとの話しあいも絵葉書作成時を含めて5~6回になるでしょうか。大分私のことばで意図するところを理解していただけるようになったので、家に届いた校正紙に書き込んだメモに対応してくださった結果のプルーフを拝見しても、「ここはちょっと変えて欲しい」と思ったのは2箇所だけでした。文言の修正箇所も打ち出してくださっていたので、白石さんは全体構成を重点的に、私は前回送ったときのメモを重点的にチェックし、記憶している限りでは全部修正されていることがわかりました。ただ、修正箇所が多かった作品一覧等は全部覚えてはいなかったので、PDFを家に送ってもらうようお願いして帰宅しました。帰り道、この半年間の重く、しんどかった気分が晴れた空に溶けていくような開放感を味わいました。コロナにかかったら、そして重症になって命を落とすことになったら、この本はどうなるのだろうと思うと、校正が済むまでは何とか踏ん張らなければと感じていました。でも、コロナに対応する医療も進みましたし、もう何があってもイメージしたような本ができあがるという確信が持てて肩の荷が下りました。

 帰宅後、送っていただいたPDFと自分のファイルとを全部つき合わせて修正されていることが確認できました。あとは印刷、製本が終わってできあがった本が届くのを待つばかりです。念のため11月15日まで発行日を遅らせましたが、もしかしたら今月末には予定通りにできあがるのかもしれません。届きましたらまた皆さまにご報告します。

 


市内の畑で咲いていたコスモス。

※このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015-2020  Midori FUKUDA

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235. リーメンシュナイダー写真集 第四巻の色校正に入りました。

2020年10月07日 | 日記

▶第四巻『完・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』に載せなかった画像から。

 

 


ウルム大聖堂 聖堂内陣席の彫刻より 
  ミヒェル・エーアハルト 1469~1474

 

▶第四巻『完・祈りの彫刻 リーメンシュナイダーと同時代の作家たち』の色校正

 いよいよ最終段階です。本に使う用紙で画像をプリントアウトしたプルーフ色校正が届いたのは先週の10月2日(金曜日)のことでした。この日は幸い良い天気。雨の日や曇りでは色の見え方が違うことを今まで嫌というほど体験してきました。夜の灯りでも違いますし、各ご家庭での照明によっても違います。でも最近はずっとお天気の良い昼間の時間帯に見較べることにしているので金曜日の午後、光のある間に色を確かめ終えました。

 色校正では色合いだけでなく、ここをクリアに見て欲しいのに少しぼやけてしまっていたりすると残念なので「ここをもう少しはっきり出して欲しい」とか、「ここの部分はもう少し明るさが欲しい」とか、「全体が明るすぎるからもう少し暗くして欲しい」など、私のオリジナルの画像を見ながら細かいことを注文していきます。私が富士美術印刷の担当者だったら「またうるさいことをいろいろ言われちゃったなぁ」と絶対おもうだろうなと思いながらも、でも書く手は止まりません。私のパソコンでの色合いよりは全体が明るいけど、でも見て欲しい内容はきちんと出ていると思うものはそれで「OK」としていますが、宗教彫刻には時を経た重みというものがあるのですよね。多くの人の願いや祈りがこもっているというのでしょうか。それが軽くなりすぎるときには、全体の明るさをもう少し落としてもらいたいと思ってしまうのです。かといって眠る聖人の顔が暗くなりすぎても表情がわからなくなりますので、その塩梅が難しいところです。

 こうして注文する側は半日で作業を終えられますが、応じる側は大変です。そのため急いで送り返さなければと、残る文章のチェックも大急ぎで行いました。もう文言の直しはわずかなのですが、それでもまだ「あ、ここが違っていた!」などと、この期に及んでも気づいたりする箇所があり、私が2箇所気づいてファイルで先に送り返すと、校正の公文理子さんから、その周りにも残っていたミスが改めてチェックされてきたり、整合性がとれなくなるその他の場所の修正箇所まで戻ってきます。冷や汗の連続です。なかなか「修正無し!」ということにはならないものですね。校正者の「整合性」をとる能力には頭が下がります。こちらを直したのならこっちも直さなければおかしいとパッと頭が回るのですね。本の内容の隅から隅まで知り尽くしているからできることです。私以上によくわかっていらっしゃる。このやりとりを一緒に見ながらデザイナーの石井眞知子さんが即修正してくださっているようです。お二人の連携も素晴らしいスピードです。


 そんな次第で、3日の土曜日には校正紙を送り返す手続きをし、ホッとしたところです。今週に入って富士美術印刷さんが大忙しで注文に応じた手直しをしてくださっています。そして、来週にはその直した箇所を実際に見に富士美術印刷さんまで出掛けて最終チェックをしてくる予定です。それでも「こことここだけは…」という箇所が出てくるかもしれません。いえ、「福田さんのことだから必ず出てくる」
とチームリーダーの白石好男さんも富士美術印刷の担当者加藤陽子さんも大塚欣一さんも思っているに違いありません。そんなことから10月末発行と今までお知らせしてきましたが、そのために急いでしまうということがないように、少しゆとりをもって11月15日発行とするよう、丸善プラネットで取り計らってくれました。従って第四巻は11月になってから本屋さんに並びますのでよろしくお願いいたします。

 まだ本ができ上がっていないのに、すでにAmazonでも楽天でも本書が既に紹介されているのは大変ありがたいことです。

※このブログに掲載したすべての写真のコピーをお断りします。© 2015-2020  Midori FUKUDA

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