梅様のその日暮らし日記

その日その日感じた事や世間で話題の事について自分なりの感想や考えを書いていきます。

「イ・サン」を見る

2014-09-24 15:01:07 | 日記
   「イ・サン」というのは「チャングムの誓い」などを作ったテレビドラマの監督が、「トンイ」に続いて制作した時代劇ドラマです。これを見ていて私は、この監督は自分の成功に酔って、大いなる勘違いをしていると感じました。韓国ドラマについて批評するのはもうやめようと思っていたのですが、あまりのひどさに我慢ができなくなってしまいました。なにしろ、韓国ドラマを扱っている年代別に整理して、あのドラマの前にこのドラマを見るべきだとか、このドラマはあのドラマに続けてみると韓国の歴史がよくわかるなどと熱心に説いている信者のおばさまたちがいる以上、ダメな部分はダメと確認しておきたくなったのです。

   私の手元に、「チャングム、イ・サンの監督が語る韓流時代劇の魅力」という本があります。彼は一体どんな意識で一連の歴史ドラマを制作したのかが知りたくて購入した本なのですが、この本の終わり近くにこういう文章があります。

   「私の決めた第一の原則は、暴力を美化するドラマは絶対に作らないということ、第二は時代劇演出家として歴史を歪曲しないということである。」

   「最低限、青少年の歴史の勉強の一助になるよう心がけ、間違った歴史を描いて混乱させることがあってはならないと思っている。」

   言葉は立派なのですが、実際に彼が制作したドラマを見ると、本当の歴史とはあまりにもかけ離れているのです。何しろこれをネタに「韓流時代劇と朝鮮の真実」という本が日本で書かれ、1,400円也で販売されているくらいです。この本は300ページ近くもあるのですから、韓国時代劇がいかに荒唐無稽であるかは明らかです。ただ、私はこの本とは関係なく、「イ・サン」というドラマを見て感じた事だけを独自に書きます。

   イ・サンという人物は、国王の後継者であった父親が米櫃に閉じ込められて餓死させられるという悲惨な境遇から、幾度もの暗殺の危機を乗り越えて国王になり、多くの改革を進めた開明的な国王でした。こういう国王は韓国においては極めて貴重な少数派なのです。しかしこのドラマでは、いや、このドラマでも、やはりメイン・テーマは国王を含む三角関係になってしまっています。この三角関係の部分は、現実の歴史上の出来事ではありません。従って物語の設定から既に歴史を「創作」してしまっています。

   また、イ・サンの祖父に当たる先代の国王が66歳の時に娶った後添えの皇后(結婚当時16歳)が、幾度となくイ・サンの命を付け狙い、軍隊を動かしてクーデターを起こすのですが、これも歴史上の出来事ではありません。

   しまいには、大金で雇われた無敵の殺し屋がイ・サンの命を狙って宮殿内の寝室にまで侵入して来ますが、腕に覚えのある護衛の兵士たちをすべて一刀の元に切り捨てるほどの腕前の殺し屋が、イ・サンとの直接対決に敗れ、死んでしまいます。国王は武芸の達人などには絶対になりません。ご都合主義にもほどがあります。

   これほどまでに歴史をゆがめて描いているドラマであるにも拘らず、この筋書きを本当の出来事と信じている人たちは、日本にも韓国にも沢山いるようです。ほんの少し考えてみればわかることなのに、どうしてこんな荒唐無稽を信じることができるのか、逆に不思議に思います。「トンイ」の続きだから、と言って、素朴に信じ込んでいるのかもしれません。(イ・サンの祖母がトンイにあたります。)

   最後に細かいあらさがしをしておきます。登場する人物は庶民も含めてカラフルな服装をしていますが、基本は生地の色の白一色です。この監督は専門家に確認したが李朝時代の庶民は割と色彩豊かな服を着ていたと主張しています。しかし、現在残されている昔の写真を見ると、一面真っ白な人々ばかりです。(ただし薄汚れてきれいな服とは言えませんが。)朝鮮に進駐してきたロシア兵たちは朝鮮人を称して「白鳥」と言っていたのですから、染められた生地で縫われた服装をしていたはずがありません。

   街中に商店街があり、品物が満ち溢れていますが、当時は背中に背負って行商する程度の商業しか発達していません。したがって商店街などあり得ません。まして、「書店」や「文房具店」があるように描かれているのは笑止千万です。文字を読めない人ばかりなのに、「書店」や「文房具店」」を開く意味がありません。

   途中何度か医者が登場しますが、官僚である両班に当たる人物が、医者に対して敬語を使っています。医者は民間では階級に所属します。宮廷内でも「中人」の身分で、両班とは比較にならない、身分的にはっきりと下になります。敬語など使うはずがありません。

   戦闘シーンも笑わせます。韓国の史劇の戦闘シーンは、現実離れしていることは前にも書きましたが、「イ・サン」では正に韓国史劇の面目躍如といったところです。刀や槍や弓矢を使った戦闘であるにも拘らず、蹴りが入ることはいつも通りなのですが、定番である前蹴りやプロレス流のジャンプしてのドロップ・キックの他、テコンドーの踵落とし、挙句の果てにはプロレス技のフランケン・シュタイナーという大技まで飛び出しています。何事にも限度というものがあると思うのですが、もしかして本当に受けを狙っているのではないかと疑ってしまいます。この分ならウエスタン・ラリアートが登場する日も近いでしょう。いや、私の知らないところですでに登場しているのかもしれません。

   これほどまでに「大盛り」な時代劇。これを称して歴史を歪曲していないという監督。韓国の史劇を見るときには、「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」を見るときと同じ気持ちで見る必要があります。日本の大河ドラマを見るときと同じ気持ちで見たりしては絶対にいけません。ましてや韓国の時代劇から何かを学ぼうなどとは決して思わないほうが良いでしょう。
   

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