先週の火曜日のことです。やる気スイッチが切れてしまい、二週続けて東亜学院を休んでしまった私も、いよいよ重い腰を上げて、早朝講座に出席するために家を出ました。9月初めから前期と後期の間の休みが一か月ほどあったので、かれこれ40日ほどいつもの電車に乗っていませんでした。
これをお読みになっていらっしゃる方は、随分前に書いた、いやがらせお爺さんのことを覚えていらっしゃるでしょうか。二年越しに駅のホームで絡み続けるお爺さん(気持ち的には「くそじじい」)に、いい加減堪忍袋の緒が切れて、大声で怒鳴りつけ、すごすごと尻尾を任せたあのお爺さんです。
彼は概ね5時15分発に乗ることが分かっているので、私も好き好んで顔を合わせる必要もないだろうと、今は5時37分発に乗っています。この日もその電車に乗り、発車して間もなくのことでした。私の右側に二人分以上の空席ができており、そこに遠くの方から誰かがやって来ました。
私はいつものように中国語のテキストをコピーしたものを暗記している最中でしたので、気配だけ感じていたのですが、なぜかその人が、座りかけてまたくるりと後ろを向くと、だいぶ離れた空席目指して去って行きました。両ひざが開きかつ脚が伸び切らず、背中が丸まった、ニホンザルのような歩き方で、よたよたと歩いて行く後姿は、明らかに肉体に衰えが来た老人のものでした。
「?」と思った私は、その老人の服装の特徴から、ある人物をすぐに思い浮かべました。それは、さんざん私に絡み続けた、あの老人その人だったのです。しかし、老衰したその後ろ姿には、かつて私を威圧しようとしていた(本人はしているつもりだった)当時の力強さがまるで欠けていました。
元はと言えば、私の隣に初めて座ったときに、無理やり大股を広げて座ろうとし、私に圧力をかけてきたことに私が応じなかったことから始まったトラブルでした。その後も彼は大股開きを続け、隣に座っていたた女子高生が迷惑そうに斜めになっていたことを思い出します。
この日彼が座っている姿を見てみると、あれほどまでに強力に左右の人間を押しのけて股を開いていた脚には少しの力も感じられず、前方にだらしなく伸びていました。意地でも蟹股に座ろうにも、脚には既にそれだけの力が残されていないことを自覚しているようでした。
自分の衰えを自覚しているからか、あるいは私にまた怒鳴りつけられるかもしれないと危惧したからなのでしょうか、彼は私の存在に気付いたために、自分が最も座りたかった席を放棄して、遠くの席を選び直したのでした。私の方は、過去はどうあれ、無害であれば頓着しないのですが、身にやましいところのあるお爺さんは、離れた席まで避難するしかなかったようでした。
これをお読みになっていらっしゃる方は、随分前に書いた、いやがらせお爺さんのことを覚えていらっしゃるでしょうか。二年越しに駅のホームで絡み続けるお爺さん(気持ち的には「くそじじい」)に、いい加減堪忍袋の緒が切れて、大声で怒鳴りつけ、すごすごと尻尾を任せたあのお爺さんです。
彼は概ね5時15分発に乗ることが分かっているので、私も好き好んで顔を合わせる必要もないだろうと、今は5時37分発に乗っています。この日もその電車に乗り、発車して間もなくのことでした。私の右側に二人分以上の空席ができており、そこに遠くの方から誰かがやって来ました。
私はいつものように中国語のテキストをコピーしたものを暗記している最中でしたので、気配だけ感じていたのですが、なぜかその人が、座りかけてまたくるりと後ろを向くと、だいぶ離れた空席目指して去って行きました。両ひざが開きかつ脚が伸び切らず、背中が丸まった、ニホンザルのような歩き方で、よたよたと歩いて行く後姿は、明らかに肉体に衰えが来た老人のものでした。
「?」と思った私は、その老人の服装の特徴から、ある人物をすぐに思い浮かべました。それは、さんざん私に絡み続けた、あの老人その人だったのです。しかし、老衰したその後ろ姿には、かつて私を威圧しようとしていた(本人はしているつもりだった)当時の力強さがまるで欠けていました。
元はと言えば、私の隣に初めて座ったときに、無理やり大股を広げて座ろうとし、私に圧力をかけてきたことに私が応じなかったことから始まったトラブルでした。その後も彼は大股開きを続け、隣に座っていたた女子高生が迷惑そうに斜めになっていたことを思い出します。
この日彼が座っている姿を見てみると、あれほどまでに強力に左右の人間を押しのけて股を開いていた脚には少しの力も感じられず、前方にだらしなく伸びていました。意地でも蟹股に座ろうにも、脚には既にそれだけの力が残されていないことを自覚しているようでした。
自分の衰えを自覚しているからか、あるいは私にまた怒鳴りつけられるかもしれないと危惧したからなのでしょうか、彼は私の存在に気付いたために、自分が最も座りたかった席を放棄して、遠くの席を選び直したのでした。私の方は、過去はどうあれ、無害であれば頓着しないのですが、身にやましいところのあるお爺さんは、離れた席まで避難するしかなかったようでした。