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論文)根の光屈性にオーキシン不均等分布は関与しない

2018-05-04 09:02:35 | 読んだ論文備忘録

Asymmetric Auxin Distribution is Not Required to Establish Root Phototropism in Arabidopsis
Kimura et al. Plant & Cell Physiology (2018) 59:828-840.

doi:10.1093/pcp/pcy018

シロイヌナズナを含む多くの植物の根は、負の光屈性を示す。根の重力屈性に関しては、コロドニー・ウェント説に基づいたオーキシンの不均等分布による屈曲が支持されているが、根の光屈性におけるオーキシンの作用については明らかとなっていない。新潟大学酒井らは、オーキシン応答レポーター遺伝子DR5rev::GFP を導入したシロイヌナズナ黄化芽生えの根に横から青色光を照射して8時間後にGFP蛍光の分布を見た。その結果、光照射した側にオーキシン蓄積することが示された。次に、オーキシンバイオセンサーDII-VENUSを用いて同様の試験を行なった。根の屈曲は青色光照射2時間後には見られるが、この時点でDII-VENUSシグナルの強度は陰側と照射側で同等であり、照射側でのシグナル減少は4時間後から検出され、不均等分布は8時間後まで見られた。よって、光屈性刺激は根の照射側でのオーキシン蓄積をもたらすことが示唆される。根の重量応答の際にはオーキシンは下側に蓄積して細胞伸長を抑制している。しかしながら、光屈性の場合は照射側でDII-VENUSシグナルの減少(オーキシンの蓄積)が見られた。このことから、光屈性によって生じた根の屈曲が重力刺激となり、下側(屈曲した側)にオーキシンが蓄積したのではないかと考えた。もしそうであるならば、重力非感受性変異体の根では光刺激に応答したオーキシンの不均等分布は起こらないはずである。そこで、重力を感知する平衡石として機能するデンプン蓄積アミロプラストを形成しないphosphoglucomutase-1pgm-1 )変異体の根での光刺激後のDII-VENUSシグナルを見たところ、不均等分布が見られなかった。したがって、光屈曲の程度とDII-VENUSシグナルの勾配に相関はないことが示唆され、光刺激によって屈曲した根の下側でのオーキシン蓄積は重力屈性によって生じたものであると考えられる。次に、オーキシンの不均等分布に関与しているPINオーキシントランスポーターの機能喪失変異体について光刺激に対する応答性を見たところ、いずれのpin 変異体の根も正常な光屈性を示し、むしろ重力屈性が抑制されることで光屈性が強まった。また、別のオーキシントランスポーターであるAUX1やABCB19の機能喪失変異体においても根の光屈性は見られた。オーキシン輸送阻害剤を処理することによっても根の光屈性は強まり、重力屈性は抑制された。これらの結果から、オーキシントランスポーターによるオーキシンの不均等分布はシロイヌナズナ根の光屈性に関与しておらず、コロドニー・ウェント説は根の光屈性には当てはまらないものと思われる。そこで、オーキシン自身が根の光屈性に関与しているかを調査した。オーキシン生合成変異体のyucca3 yucca5 yucca7 yucca8 yucca9 五重変異体(yucQ )の根は光屈性が強まり、重力屈性が弱まった。また、オーキシン生合成阻害剤yucasinの処理によって根の重力屈性は阻害され、光屈性は強まった。したがって、オーキシンは根の重力屈性にとっては重要だが光屈性には関与していないことが示唆される。過去知見においてオーキシン応答因子NPH4/ARF7が胚軸と根の光屈性に関与していることが報告されている。そこで、根の重力屈性に冗長的作用しているARF7ARF19 の機能喪失変異体arf7 arf19 二重変異体について調査したところ、光屈性の応答性が野生型よりも遅くなっていることがわかった。ARF7ARF19 の単独変異体ではそのような光屈性異常は見られないことから、ARF7とARF19は冗長的に根の光屈性に関与していることが示唆される。次にARFの活性に関与しているAux/IAAタンパク質について調査した。シロイヌナズナには29のAux/IAA 遺伝子があり、これらのうちの幾つかの優性変異体(iaa1/axr5-1iaa14/slr-1iaa17/axr3-3iaa18/crane-2iaa19/msg2-1 )について光屈性を調査したところ、iaa17 変異体以外は光屈性が野生型よりも強まった。iaa17/axr3-3 変異体は根の屈曲に異常が見られ、IAA17 プロモーター制御下でドミナント型iaa17 遺伝子(miaa17 )を発現させた形質転換体は、根の光屈性異常に加えて、根の重力屈性や胚軸の光屈性にも異常が見られ、オーキシン処理による根の成長阻害が見られなくなった。これらの結果から、IAA17はシロイヌナズナの根の光屈性と重力屈性を抑制する効果があると考えられる。オーキシン受容体TIR/AFBに結合してオーキシン作用を妨げるPEO-IAAを処理すると、根の重力屈性は抑制されるが光屈性は強まった。シロイヌナズナの6つのTIR/AFB 遺伝子について、それぞれの変異体の光屈性を見たところ、tir1 変異体では応答性が低下し、afb1 変異体では応答性が高まった。よって、根の光屈性においてTIR1は正に作用し、AFB1は負に作用すると考えられる。以上の結果から、シロイヌナズナの根の光屈性はオーキシン不均等分布とは関係のない未知の機構によって誘導されており、根の光屈性にコロドニー・ウェント説は当てはまらないものと思われる。

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