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論文)イネの根のエチレン応答を制御するE3ユビキチンリガーゼ

2018-05-12 16:21:50 | 読んだ論文備忘録

E3 ubiquitin ligase SOR1 regulates ethylene response in rice root by modulating stability of Aux/IAA protein
Chen et al. PNAS (2018) 115:4513-4518.

doi:10.1073/pnas.1719387115

中国科学院 遺伝・発育生物学研究所のZhang らは、エチレン存在下で根の成長に異常の見られるイネmao hu zimhz :中国語で「猫のひげ」の意味)変異体を複数単離し、今回、mhz2 変異体について詳細な解析を行なった。mhz2 変異体の幼苗は、エチレンによる根の成長阻害が見られず、重力に対する応答性も低下し、水田で育成した変異体は根が土の表面を伸長した。マップベースクローニングの結果、MHZ2 遺伝子はSOIL-SURFACE ROOTING 1SOR1 )と同一であることが判明し、mhz2sor1-2 と改名した。SOR1 (Os04g01160)は植物特異的RING-typeタンパク質をコードしており、核局在シグナル(NLS)、RINGドメイン、von Willebrand factor type A(VWA)ドメインを含んでいる。SOR1タンパク質は他の植物種にも見られ、シロイヌナズナでオーキシンに応答して根の重力屈性を制御しているE3ユビキチンリガーゼWAV3と類似していた。SOR1 の変異は、OsEIN2 を過剰発現個体幼苗の根が短くなる表現型を抑制することから、SOR1 遺伝子はOsEIN2 の下流で作用して根の成長を制御していると考えられる。SOR1タンパク質はE3ユビキチンリガーゼ活性を有しており、この活性はエチレンによる根の成長阻害に関与していた。シロイヌナズナでは、オーキシン機能に関与するタンパク質の変異体がエチレン応答性の欠失した表現型を示すことが知られている。そこで、幼苗にオーキシン生合成阻害剤であるキヌレニンを与えたところ、エチレンによる根の成長阻害が抑制され、この抑制はオーキシンアナログのナフタレン酢酸(NAA)を同時に添加することで解消された。よって、エチレンによる根の成長阻害にオーキシンが関与していることが示唆される。オーキシン受容体をコードするOsTIR1/AFB2 の発現をMiR393a を過剰発現させることによって減少させた形質転換体は、エチレン非感受性となった。また、オーキシン受容体とAux/IAAタンパク質との相互作用をブロックする阻害剤を添加することによってもエチレンによる根の成長阻害は抑制された。これらの結果から、イネの根のエチレンによる成長阻害はオーキシン経路が関与していることが示唆される。そこで、sor1-2 変異体のオーキシンの量や感受性について調査した。sor1-2 変異体の根のオーキシン蓄積量やオーキシントランスポーター遺伝子の発現量は野生型と同等であり、NAAを添加してもエチレンや重力に対する応答性に変化は見られなかった。よって、sor1 変異体は根のオーキシン応答性が変化しているものと思われる。Aux/IAA 遺伝子のうち、OsIAA26OsIAA9OsIAA20 は、オーキシンとエチレン応答性があることが知られているが、sor1-2 変異体ではエチレンによる発現誘導が失われ、オーキシンによる発現誘導は野生型の半分程度になっていた。野生型植物へのキヌレニンの添加や、OsTIR1/AFB2 の発現抑制は、OsIAA26OsIAA9OsIAA20 のエチレンによる発現誘導を抑制した。根端部のトランスクリプトーム解析から、SOR1はOsEIN2を介してエチレンによって発現誘導される遺伝子のうちの77%を制御していることが判った。また、SOR1はオーキシン誘導遺伝子の70%の発現を制御しており、このうちの56%はエチレン応答遺伝子であった。このことから、SOR1は根でのエチレン応答に必要であり、オーキシン応答についても部分的に関与していることが推測される。SOR1はオーキシンの有無に関係なくOsIAA26、OsIAA9と相互作用をし、さらにOsIAA26はSOR1によってユビキチン化され、分解が促進された。一方、オーキシン存在下で、オーキシン受容体OsTIR1はOsIAA20と相互作用をし、オーキシン受容体OsAFB2はOsIAA9、OsIAA20と相互作用をした。OsIAA9はSOR1のRINGドメインと相互作用をすることでSOR1のE3ユビキチンリガーゼ活性を阻害し、SOR1によるOsIAA26のユビキチン化を妨げていることが判った。OsIAA9はOsTIR1/AFB2を介して分解されるが、SOR1もこの分解を促進する作用があることがわかった。OsIAA26 およびOsIAA9 を過剰発現させたイネ幼苗は、根のエチレン感受性が低下していた。したがって、OsIAA26とOsIAA9は根の成長におけるエチレンの作用を低下させる機能があことが推測される。以上の結果から、イネのE3ユビキチンリガーゼSOR1はAux/IAAタンパク質の安定性を制御することで根のエチレン応答性を制御していると考えられる。

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