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論文)食植者の食害に対するオーキシンの役割

2016-10-19 22:50:28 | 読んだ論文備忘録

Auxin Is Rapidly Induced by Herbivore Attack and Regulates a Subset of Systemic, Jasmonate-Dependent Defenses
Machado et al. Plant Physiology (2016) 172:521-532.

doi:10.1104/pp.16.00940

食植者による食害に対する植物の防御応答は植物ホルモンネットワークによって制御されている。特にジャスモン酸(JA)は主要な制御因子であり、他にもサリチル酸、アブシジン酸、エチレンといったストレス応答ホルモンも重要な役割を演じている。しかしながら、この過程におけるオーキシンの役割は十分理解されていない。スイス ベルン大学Erb らは、野生タバコ(Nicotiana attenuata )がタバコスズメガ(Manduca sexta )幼虫による食害を受けた3時間後に内生インドール-3‐酢酸(IAA)量が増加していることを見出した。このIAA量の増加は、傷つけた葉にタバコスズメガの口内分泌物を添加(W+OS)もしくは傷に食植者に対するエリシターとして機能する脂肪酸-アミノ酸結合体N-linolenoyl-Gluを添加(W+FAC)することによっても起こった。食植者によって誘導されるIAAの蓄積は、食害を受けてから30-60秒後には誘導され、IAA量は2-3倍増加した。W+OS処理によりIAA量は局所的に速やかに増加し、その後一過的に徐々に処理をしてない全身の地上部組織へ広がったが、根では有意な変化は見られなかった。食害によるIAA量の増加は若いロゼットでも開花期の個体でも見られ、植物体の齡に関係なく起こった。IAA生合成遺伝子であるYUCCA-like 遺伝子のうちの幾つかは食害によって発現量が増加した。食害に応答したIAA量の増加は5分後には最大となり、JA量の増加に先行していた。食害に応答したIAA量の増加は、JAの生合成、受容、シグナル伝達が低下した形質転換体でも見られることから、この過程にジャスモン酸シグナルは関与していないと考えられる。タバコスズメガの食害を受けたタバコの茎はアントシアニンが蓄積して赤く変色する。この現象はW+OS処理をしても再現されたが、傷害だけではアントシアニンは蓄積されなかった。IAAもしくはMeJAのみを添加してもアントシアニンの蓄積は起こらないが、両者を同時に与えると蓄積した。また、IAAの生合成や輸送の阻害剤を添加したり、JA生合成が低下した形質転換体ではW+OS処理によるアントシアニン蓄積が見られなかった。防御二次代謝産物の蓄積におけるIAAの効果を見るために、食害やそれを模した処理、MeJA処理をする前に予め葉柄部分にIAAを添加しておくと、処理に応答したカフェオイルプトレシンやジカフェオイルスペルミジンの蓄積が劇的に増加した。一方、ニコチンや7‐ヒドロキシゲラニルリナロールジテルペングルコシドはIAA前処理による蓄積量変化は見られなかった。したがって、IAAは単純にJAシグナル伝達を強めているのではなく、植物の防御ネットワークの特異的な調節を行なっているものと思われる。以上の結果から、IAAは、食害を受けた植物において、全身的でジャスモン酸に依存した二次代謝を制御する急速かつ特異的なシグナルとして機能していると考えられる。

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