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論文)花の形成過程におけるAPETALA1の役割

2010-04-08 19:49:45 | 読んだ論文備忘録

Orchestration of Floral Initiation by APETALA1
Kaufmann et al.  Science (2010) 328:85-89.
DOI: 10.1126/science.1185244

MADSボックス転写因子のAPETALA1(AP1)とそのパラログであるCAULIFLOWER(CAL)は、シロイヌナズナの花の形態形成における主要な調節因子である。米国 カリフォルニア工科大学のRiechmann らは、花の形成過程におけるAP1の機能を解析することを目的に、ap1 cal 二重変異体でグルココルチコイドホルモン受容体ドメインとAP1との融合タンパク質(AP1-GR)を発現させ、デキサメタゾン(dex)処理した際の茎頂での遺伝子発現を経時的に解析した。その結果、AP1を活性化して12時間以内に1366遺伝子の発現量に変化が見られた。また、この系を用いて、AP1特異抗体によるクロマチン免疫沈降(ChIP)でAP1結合部位を大規模シークエンシング(ChIP-Seq)により調査したところ、1942のゲノム領域が同定された。得られた配列の多くはMADSボックス転写因子の結合モチーフとされているCArGボックスであり、AP1結合部位は主に遺伝子の転写開始部位近傍に見られ、2298の遺伝子の5’側3 kb上流もしくは3’側1 kb下流の中に1つ以上のAP1ターゲットが存在していた。このうち約半分はAP1の活性化により遺伝子発現に変化が見られたが、1.8倍以上の変化があった信頼度の高いターゲットは294遺伝子だった。これらのほとんどはAP1活性化の初期に発現量変化を示し、44 %の遺伝子はタンパク質合成を経ずに(シクロヘキシミド添加条件下でも)発現量の変化が見られた。信頼度の高いターゲットの25 %は転写因子をコードする遺伝子であり、AP1は花の形成過程において他の転写調節因子の発現を制御している。その中には花の形成を抑制する因子やシュートの特徴を表現する因子が含まれており、ターゲットの80 %以上は発現量が減少していた。よって、AP1は花の形成過程において主に転写抑制因子としていると考えられる。一方、AP1はSEPALLATA3SEP3 )遺伝子のプロモーター領域に結合し、SEP3 の発現を直接/間接に誘導することが示された。AP1とSEP3のChIP-Seqデータを比較すると、両者のターゲット遺伝子と結合部位は共通するものが多く、両者は転写複合体を形成して花の発達において転写活性化因子として機能していることが示唆される。AP1はジベレリン(GA)生合成酵素をコードするGA3ox1 およびGA異化酵素をコードするGa2ox1 、GAシグナルを負に制御するRGA-LIKE2 の発現を誘導することから、AP1は花原基におけるGAのホメオスタシス維持にも関与していると思われる。以上の結果から、AP1は花の形態形成に関与する制御ネットワークの中核として機能していると考えられる。

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