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論文)トマト果実の成熟を制御するMADSボックス転写因子ネットワーク

2009-12-28 21:51:24 | 読んだ論文備忘録

TOMATO AGAMOUS-LIKE 1 is a component of the fruit ripening regulatory network
Itkin et al.  The Plant Journal (2009)60:1081-1095.
DOI: 10.1111/j.1365-313X.2009.04064.x

イスラエル ヴァイツマン科学研究所のAharoni らは、トマト果実が成熟する際に発現している114の転写因子候補遺伝子についてウイルス誘導遺伝子サイレンシング(VIGS)試験を行ない、果実の成熟に関与する因子のスクリーニングを行なった。その結果、トマトMADSボックス転写因子をコードするTOMATO AGAMOUS 1TAG1 )をサイレンシングさせた個体の果実において成熟の遅れる領域が見られた。しかし、TAG1 に特異的な領域を用いて同様の試験を行なったところ、果実の表現型異常は起こらなかった。そこで、トマトMADSボックス転写因子の系統樹解析を行ない、TOMATO AGAMOUS-LIKE 1TAGL1 ; SGN-U581068)が先のVIGS試験においてTAG1 と共にサイレンシングされうることを突き止めた。TAGL1 完全長配列およびTAGL1 特異的配列を用いてVIGS試験を行なうと果実の表現型異常が現れることから、TAGL1 が原因遺伝子であると判断した。TAGL1 は果実組織の各発達ステージにおいて、芽や花において発現しており、葉、根、花粉では発現していない。TAGL1 の発現は果実が成熟するにつれて増加し、オレンジ期に最大となった。TAGL1 を機能喪失させると果実においてリコペン等のカロテノイドやエチレン生成量の減少、クロロフィル分解の抑制、成熟関連遺伝子の発現量の減少が見られた。また、TAGL1 を過剰発現させると、リコペン量の増加、がく片の膨張とリコペンの異所的生産および黄色フラボノイドのナリンゲニンカルコンの蓄積が起こった。TAGL1はACC合成酵素ACS2 の発現を上昇させる機能を有し、これとは別に果実成熟前の心皮の拡張にも関与している。トマトの成熟を制御するMADSボックス転写因子としてはTAGL1 の他にRIPENING INHIBITORRIN )が知られており、RINタンパク質はACS2 遺伝子のプロモーター領域に結合して発現を制御していることが報告されている。rin 変異体でのTAGL1 の発現やTAGL1rin 変異体で過剰発現させた個体の解析から、TAGL1とRINは互いの発現を制御していないこと、果実でのリコペンの蓄積にはTAGL1とRINの両方が必要だが、クロロフィルの分解、細胞壁の分解や果実の軟化に関与する遺伝子の発現はTAGL1単独で制御しうることがわかった。

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