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論文)ブラシノステロイドフィードバックシグナルによる細胞壁の安定性維持

2012-11-01 19:38:57 | 読んだ論文備忘録

Plant Cell Wall Homeostasis Is Mediated by Brassinosteroid Feedback Signaling
Wolf et al.  Current Biology (2012) 22:1732-1737.
doi:10.1016/j.cub.2012.07.036

細胞壁に囲まれている植物細胞の成長は、膨圧によって引き起こされ、細胞壁の拡張にはペクチンが関与していることが知られている。ペクチンを構成するホモガラクツロナン(HG)はペクチンメチルエステラーゼ(PME)によって脱メチルエステル化され、構造負荷に耐えうるカルシウムイオンの架橋を形成する。フランス国立農業研究所(INRA)のHöfte らは、シロイヌナズナ芽生えをPME活性阻害剤の没食子酸エピガロカテキン(EGCG)処理をすると根の伸長が抑制され根が波うつことを見出した。よって、PME活性は成長にとって重要であることが示唆される。また、PME阻害タンパク質であるPMEI5(At2g31430)を過剰発現させた個体の細胞壁はエステル結合の絶対量が僅かに増加し、根の伸長には変化が見られなかったが、不均一な波うちが誇張されていた。さらに葉の湾曲やシュートのねじれが観察された。これらの表現型が細胞壁力学におけるペクチンのメチルエステル化パターンの変化によるものなのか、未知のペクチンの関与するシグナル伝達による二次的な効果なのかを検証するために、PMEI5 過剰発現個体の表現型を抑制する変異体の単離を行ない、comfortably numb1cnu1 )変異体を得た。この変異体の原因遺伝子の探索を行なったところ、ブラシノステロイド(BR)受容体タンパク質BRASSINOSTEROID INSENSITIVE 1(BRI1)のキナーゼドメインのアミノ酸置換(G944D)が起こっていることがわかった。また、PMEI5 過剰発現個体の表現型の抑制は他のBR関連変異体においても観察されることがわかった。野生型植物芽生えを24-epi-ブラシノライド(BL)処理をするとPMEI5 過剰発現個体のような根の波うちが起こるが、cnu1 変異体ではBLの効果は殆ど見られなかった。BRシグナルをBRI1の下流において活性化するビキニンを処理すると根の波うちは野生型だけでなくcnu1 変異体でも起こった。暗所で育成した野生型芽生えをBL処理すると、PMEI5 過剰発現個体のように胚軸が屈曲し重力屈性が失われた。PMEI5 過剰発現個体をBL処理すると胚軸伸長が抑制されるが、BR受容体の変異であるcnu1 変異体ではBL応答性が失われていた。しかし、cnu1 変異体をビキニン処理するとPMEI5 過剰発現個体に類似した表現型を示した。野生型植物芽生えをBL処理すると細胞壁のエステル量が増加してPMEI5 過剰発現個体と類似した表現型となった。PMEI5 過剰発現個体は野生型植物やcnu1 変異体と比較するとBR生合成阻害剤ブラシナゾール(BRZ)処理に対して抵抗性があった。BRZの直接のターゲットであるステロイド22-α-ヒドロキシラーゼDWF4はBRシグナルによる転写レベルでの負の制御を受けており、PMEI5 過剰発現個体ではDWF4 の発現量が減少していた。PMEI5 過剰発現個体でBRI1 を過剰発現させるとPMEI5 過剰発現個体の表現型がさらに強調され、強いわい化と器官のねじれが起こった。以上の結果から、BRシグナルがPMEI5 過剰発現個体の表現型をもたらしていることが示唆される。EGCG処理は、BRI1に結合してBRI1を不活性化するBRI1 KINASE INHIBITOR 1(BKI1)のBRI1からの解離を引き起こしてBRシグナル伝達が起こり、PME 遺伝子の発現を増加させることがわかった。したがって、PME活性の阻害はBRI1を介したフィードバックループによってPME 発現を増加させている。また、EGCG処理したbri1 変異体やBR生合成変異体は野生型よりも根の波うちが弱くなっていた。以上の結果から、EGCG処理やPMEI5 過剰発現といったPME活性の抑制は未知の機構によるBR受容体BRI1の活性化を起こし、このことによって生じたBRシグナルの増加は成長過程にある細胞においてPME 等の細胞壁修飾に関与する遺伝子の発現を高めると考えられる。このBRを介したフィードバック制御機構は細胞壁の硬化と弛緩のバランスの制御に関与していると思われる。

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