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論文)ストリゴラクトンによる非生物ストレス応答の制御

2014-02-14 05:43:01 | 読んだ論文備忘録

Positive regulatory role of strigolactone in plant responses to drought and salt stress
Ha et al.  PNAS (2014) 111:851-856.
doi:10.1073/pnas.1322135111

植物ホルモンは様々な環境ストレスの応答に関与している。理化学研究所 環境資源科学研究センターTran らは、ストリゴラクトン(SL)と環境ストレス応答との関係を調査し、シロイヌナズナのSL生合成およびSL応答の機能喪失max 変異体は野生型と比べて乾燥ストレスを受けた際の生存率が低いことを見出した。また、これらのmax 変異体は発芽時および栄養成長期の塩ストレスに対しても感受性が高くなっていた。したがって、SLは非生物ストレスに対する応答の制御において重要な役割を演じていると考えられる。SL欠損変異体のmax3max4 にSLを噴霧して与えると、乾燥感受性の表現型が野生型と同等にまで回復したが、SL応答変異体max2 ではそのような効果は見られなかった。また、野生型植物にSLを与えると乾燥耐性が強まった。したがって、SLは乾燥ストレスに対する応答を正に制御していると考えられる。野生型植物はアブシジン酸(ABA)処理によって発芽や芽生えの成長が阻害されるが、max 変異体はABA処理による阻害の程度が野生型よりも弱く、ABA感受性が野生型よりも低くなっていた。よって、ストレス応答に関してSLとABAのシグナル伝達の間にクロストークが存在することが示唆される。塩やマンニトールによって芽生えに浸透圧ストレスを与えると根の成長が阻害されるが、野生型とmax 変異体の阻害の程度は同じであった。よって、max 変異体のストレス感受性表現型は根の成長、発達過程には関連していないと考えられる。max 変異体は野生型植物よりも水分の喪失速度が速く、蒸散速度の変化が水分欠損ストレスに対する耐性低下を引き起こしていると思われる。max 変異体の孔辺細胞はアブシジン酸(ABA)に応答した閉口が野生型よりも遅く、気孔密度が野生型よりも高くなっていた。これらことがmax 変異体の水分損失や乾燥感受性が野生型よりも高いことに関連していると考えられる。野生型植物とmax2-3 変異体の葉のトランスクリプトーム解析において、ストレスのない条件でmax2-3 変異体では231遺伝子の転写産物量が野生型よりも多く、262遺伝子の転写産物量が少なくなっていた。転写産物量が減少していた262遺伝子のうち、50遺伝子は乾燥によって発現誘導される遺伝子であり、その中の9遺伝子は他のトランスクリプトームデータにおいてABAによって発現誘導されることが示されている遺伝子であった。葉を乾燥処理すると、2時間後には1022遺伝子、4時間後には2767遺伝子の転写産物量がmax2-3 変異体において野生型よりも減少しており、そのうちの491遺伝子および955遺伝子は脱水によって発現誘導される遺伝子であり、それらの多くはABAによっても誘導される遺伝子であった。したがって、max 変異体ではABAシグナルを介した脱水応答遺伝子の発現に変化が起こっていることが示唆される。乾燥やABAによって誘導される遺伝子の多くがmax 変異体において転写産物量が低下していることは、乾燥感受性の表現型と関連していると思われる。max2 変異体で転写産物量が減少している遺伝子の中にはフラボノイド生合成に関与するものが含まれていた。フラボノイド類は環境ストレスから植物を保護することが知られており、今回の試験で見出されたフラボノイド生合成関連遺伝子の多くはABAとは独立して乾燥によって発現誘導される遺伝子であった。よって、SLはABAとは独立してストレス応答を調節していることが示唆される。また、max2 変異体では通常条件、脱水条件のどちらにおいてもサイトカイニンの分解に関与する遺伝子の転写産物量が減少しており、これらの遺伝子はストレスやABAに対する応答に関与しているとされている。以上のように、max2 変異体ではストレス、ABA、サイトカイニンのそれぞれのシグナル伝達に関連しているとされている遺伝子の転写産物量が減少しており、乾燥や塩ストレスに対する耐性の低下と一致が見られる。よって、SLはストレス応答と関連していることが示唆される。光合成関連遺伝子は脱水処理によってABAとは独立して転写産物量が減少することが知られているが、max2 変異体では転写産物量が増加しており、このことはmax 変異体の乾燥耐性の低下と関連していると考えられる。SL生合成遺伝子のうちMAX3MAX4 は脱水処理した葉において発現が誘導されることから、SL合成はストレス応答において重要であると考えられる。以上の結果から、ストリゴラクトンは非生物ストレスに対する応答において正の制御因子として機能するものと考えられる。

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