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映画・演劇のレビュー

超人予備校『踊る綱吉くん』

2009-08-16 20:31:02 | 演劇
 振付師マイケル・ステューバーさんと魔人ハンター・ミツルギさんの幸福な出会いがもたらした超予備版ミュージカルは、その素朴で、いつもながらの物語と、一生懸命な歌とダンスが相俟って、訳のわからない祝祭的空間を作り上げることに成功(一応)した。これを持ってアメリカに出るのである。いくらなんでも無謀すぎる、という気持ちと、アメリカと言っても広いからきっとこの思いっきりへんてこな世界はきちんと受け止めて貰えるに違いないと、そんな気分にさせられる。

彼らの魅力は下手であることを恐れないことだ。それは鈍感というのとはまるで違う。それどころか彼らはとても繊細でデリケートな感性を持っている。だからとても傷つきやすく臆病だ。だからこそ、彼らは何事にも全力で取り組む。そんな彼らをミツルギさんは全肯定して受け止める。どうしてできないんだ、というのではなく、ありのままの彼らを受け止め、だから君たちはそこがいいところなのだ、と優く包み込む。そうすることで彼らの芝居は他に類を見ないしなやかさと大胆さを手にすることができる。

 地道な努力が実を結び今彼らの芝居はひとつの完成形を迎えた。だが、ほんとうの挑戦はこれからだ。そんなとき今回のあきれた企画が舞い降りた。ミツルギさんはこの挑戦を受け入れる。だからみんなも彼についていく。臆病にはならない。だってミツルギさんが引き受けた仕事なのだ。絶対大丈夫だと彼らは思う。この信頼関係とチームワークがこの集団の凄さだ。

 なんと時代劇である。まげものに挑戦する。もちろん歌って踊ってのミュージカルだ。これって無謀にもほどがある。いきなり歌いだし踊りだすのだ。ミツルギさんもいつものように照れながらやっている。芝居自身はいつもなら90分に収まるのだが、今回は120分だ。大作だからではない。歌い踊るから、という単純な理由だ。

 ドンマイドンマイ気にすることはない。ミュージカルになろうが、いつもと変わりない。振付師のマイケルさんの指導のもと、下手なダンスに精を出す。身の程を心得たユルいダンスシーンがいい。とても安心して見てられる和製ミュージカルだ。これならブロードウェイに出しても怖くない。

 突然「人権」ならぬ「犬権」を与えられた犬たちと、犬と平等あるいは犬以下にされてしまった人間たち。それぞれの戸惑いと驚きを犬公方と呼ばれた5代将軍徳川綱吉(当然、この主人公は上別府学が演じる)の生き方と対比させて描いていく。「つなよしくん」は犬好きのただのバカ殿ではない。

 これは、このとんでもない政策(生類憐れみの令)の本質に迫る壮大なテーマを持つ志の高い大作である。犬がしゃべり、人もしゃべる。そして時々踊る。マイケルさんはマリア・A・ロペスさんとともに松と竹になり芝居をリードする。いつもながらのバカバカしさで、単純な筋立てだが、これはある種の弱者救済のための政策を通して、何かが変わる瞬間に迫ろうとした作品でもある。

 見逃した人は今からでも間に合う。10月10、11日アメリカ・デラウェア州の『NEW WORKS FESTIVAL』に駆けつけよう。

 

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1 コメント

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ありがとうございます (まじん)
2009-08-19 19:15:43
こうやって読ませてもらうとウチってヘンテコな集団なんですねー。
今更ながら思います。
アメリカ行ってきまーす!
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