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映画・演劇のレビュー

『BECK』

2010-08-26 23:20:39 | 映画
 堤幸彦監督の最新作。『20世紀少年』3部作の後、『トリック』の新作も手掛け、その上で、さっそくまるでジャンルの違うこの大作に取り組み、「それなりの成果」を上げているのはさすがだ、と思う。青春映画というパッケージングだが、これだけのスケールの映画を作り上げるのは並大抵ではない。普通の、どこにでもある音楽映画に仕立てることなら簡単に出来た。だが、そんなことはしない。

 「バンドやろうぜ!」という青春映画なら、今までもたくさんあった。この映画がそれらの作品と一線を画するのは、彼らが目指すものが明確なことだ。ただの自己満足ではなく、音楽によって世界に挑戦したい、という大きな目標がある。自分たちの音楽が世界を変える、なんていう壮大な野望を持ち、そこに照準を合わせて闘うのだ。映画はそんな絵空事にきちんとした道筋を用意する。そこが従来の音楽ものと違うところだ。高校の文化祭でバンドして、ライブを成功させる、というようなラストにはならない。日本最大規模の野外ロックフェスである《グレイトフル・サウンド》に参加してメジャーバンドに負けない観客動員に成功し、伝説を作るまでの壮大なドラマを描く。しかも、それを安易な絵空事にはしない。それなりのリアリティーのもと作り上げるのだ。

 僕はまるで知らなかったのだが、原作は累計1500万部を超える大ヒットコミックらしい。それだけの支持を集めた漫画の映画化を安易なお手軽映画には出来ないだろうし、堤監督はそんな映画を作るつもりもない。キャスティングは地味だが、そこもいい。内容で勝負する、という作者の心意気がしっかり伝わる。主人公のコユキを演じた佐藤健と、竜介役の水嶋ヒロがすばらしい。彼らだけでなくバンドのメンバー5人が生き生きしていたのが成功した何よりもの理由だろう。全体的には堤監督らしい緩さが漂いちょっと不安な映画なのだが、締めるところで、ちゃんと締めているから、ダメにならない。アメリカの音楽業界のドンがやってきたり、日本の業界の大物(中村獅童が嘘くさい!)に睨まれて締めだされたり、なかなかいかにもなワンパターンの展開もある。一応、メジャー娯楽映画なので、そういうベタな展開は必要なのだろう。だが、そこに足を取られて滑ることはないのがいい。

 クライマックスのグレイトフル・サウンドのシーンは凄い迫力でリアリティーがある。実在の野外フェスにカメラを入れて撮影したのだろう。いくらなんでも映画のためだけにあんなことはできない。だが、ただの便乗ではなく確実にそのロケーションをこの映画のものにしている。

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