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映画・演劇のレビュー

『海角7号』

2009-08-11 08:30:21 | 映画
 昨年台湾で史上最高の大ヒットを記録した『海角7号』をようやく見た。日本人の女の子と台湾人の男の子が60年の歳月を経て恋に陥るというスケールの大きなラブストーリーだ。(ちょっとこういう書き方には問題があるけど)

 戦後すぐと現代という2つの時代を経て7通の手紙が届くまでのお話は軽やかなタッチで描かれる青春映画で、正直言ってたわいない映画に思える。なのにこの作品が台湾人の心を鷲摑みにした。その秘密はきっとここに描かれる純粋さと、ノスタルジーが今の彼らの気分とマッチしたのではないか。近代化が進み台湾は今、急成長を続ける。そんな中でかっての素朴で懐かしい時代の優しい気分に浸りたいという気分が合致した。この作品の甘い世界にどっぷり浸かることでひと時の安らぎを感じれた、ということではないか。

 この映画が日本統治下の時代を肯定するなんてことではないことは、誰の目にも明らかだ。だが、中国政府がこの映画を上映中止にし、非難した気分もわからないではない。これだけの大ヒット作である。その影響力を恐れて自国の国民には見せれないと思うのはいかにも中国らしい。

 60年前はほとんど描かれない。貧しい日本人教師と、台湾人の少女の純愛はただ、配達されなかった7通の手紙の文面から感じるしかないし、それは彼の一方的な想いでしかない。彼女の彼への気持は映画では一切描かれない。ラストで年老いた彼女が、手紙を受け取るシーンくらいだが、それも手紙を読む背中でしか語られない。「この世の中で一番美しい手紙」と語られるが日本語で彼の独白として読まれるその手紙は日本人である僕にはあまりに独善的でありきたりなラブレターでしかなく、つまらない。だいたい人の恋文なんか所詮そんなものでしかないのだろう。だが、台湾人がみんなその手紙に泣いたというのは事実で、それはノスタルジックな日本語の響きに彼らがだまされた、ということなのか。

 この映画が今だ日本では公開されないのも分かる気がした。悪い映画ではないが、今の日本人にとってはそれほどはピンとこない映画なのだ。しかも、全体のタッチがコミカルに処理されておりセンチメンタルな日本人のニーズには合致しない。

 あまりにあっけなく手紙が配達されてしまうのにもちょっと拍子抜けする。あくまでもこの映画のメーンとなるエピソードは現代にあり、そこで出会う男女の恋心なのかもしれないが、それさえコンサートの騒動に紛れてしまい、きちんと描かれたとはいいきれない。田中千絵は悪くないが、もっと彼女が60年前の事件と関わりを持つべきではないか。まぁ、それは役者の問題ではなく演出の問題だが。要するに、全体の構成に難があるのだ。「友子」という同じ名前を持つ日本人の女と台湾人の少女をどうつなぐのかが、この映画の重大な隠し味ではなかったのか。そこをおざなりにしてはこの映画の存在はない。

 字幕なしで見たから、この映画が持つ本来のニュアンスは伝わりきらなかったのかもしれないが、映画全体が甘すぎるのは事実だし、ラストもコンサートで終わるなんて、なんだかおかしい気もする。

 とはいえ日本公開がようやく決まり、実際には日本でこの映画がこれからどんな反響を呼ぶのか、楽しみだ。

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