『ウルトラミラクルラブストーリー』以来6年振りとなる横浜聡子監督の長編新作。ようやく彼女の作品が見られる。それだけで心ときめく。初めて『ジャーマン+雨』を見たときの驚き。こんな映画があるのだ、と心から驚いた。主人公の顔が凄すぎた。あんな顔のヒロインを前面に押し出す。ないわぁ、と思う。ゴリラーマンと呼ばれる。16歳植木職人。そんな設定もないわぁ、である。彼女の毎日を描くだけでもうとんでもないことになる。特別なことはしてないけど、彼女の存在そのものが特別なのだ。
さて、そんな彼女の新作である今回も、顔だ。主人公亀岡拓次演じる安井顕のあの顔。インパクトすぎ。もちろん、今ではあらゆる映画のバイプレイヤーとして引っ張りだこの彼だから、特別あの顔は不思議ではない。もう慣れた。しかし、あの顔で、この主人公を演じ、2時間の映画ずっとセンターを張って、出ずっぱり。やはり異常だ。
くたびれた顔でワキ役として、様々な映画に登場する。苦手な舞台も断らない。あげくは世界的巨匠の仕事で海外にも進出。そんな安井顕そのもののような役をなんとなく、こなす。なんだかこれはドキュメンタリーみたいなのだ。仕事のシーンとオフの時間が同じくらいの比重で描かれる。でも、オフのシーンはただただ酒を飲んでいるばかり。撮影か酒、ってこと。なんとも、単純。すんません、が口癖。自分が悪くなくても、いつもまず、「すんません」と謝る。
横浜監督はこの男の毎日をさりげなく描く。ことさら何かを見せたいとか、ない。このなんともいいようのない気だるさ。そこにすべてがある。その点も『ジャーマン+雨』と似ている。毎日いろんな現場を渡り歩く。ありえないようなチョイ役でも、オファーを受ける。様々な監督から重宝されるが、おごらない。感情はあまり出さない。映画を見ながら、だんだんなんでもよくなる。最初はへんな映画だ、と思う。何がしたのか、わからない。でも、これは何もしたくないのだ、と気付く。監督はただ、この男をずっと見ていたいだけ。そのうち、観客である僕も、監督と同じようにずっとこいつを見ていられたらいい、と思い始める。このなんとも不思議な脱力感。その虜になる。なんだかわからないけど、これは凄い映画なのだ。問答無用の最強映画。こんなわけのわからない説明ですんません。