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映画・演劇のレビュー

有沢佳映『アナザー修学旅行』

2010-08-09 21:03:45 | その他
 中学の修学旅行は絶対だ。小学校でもダメで、高校でもダメ。中学生というかなり微妙な時間の最後で、みんなが一緒の別世界へと旅立つたった3日間ということに深い意味がある。だから、その旅行に行けなくなるなんて、本人たちにとっては、この世の終わりだろう。

 この小説はそんな不幸な子どもたち6人(プラス1名)が主人公だ。しかたなく学校に登校してきて、することもないのに、教室に押し込められて、自習とか、旅行先である京都や奈良のDVDを見せられたりして過ごす3日間が描かれていく。当然ドラマチックな要素はない。つまらない時間だ。だが、彼ら6人のそんな時間が、読んでいくうちに愛おしく思えてくる。きっと修学旅行に行ったからといって、思ったほどには盛り上がらない。非日常に酔う時間は、確かに思い出に残る。だが、取り残されたあまり知らない者同士である7人の、なかなか体験できない時間も、後になればきっと思い出に残るはずだ。

 結局は何をしていても同じなのだと思う。自分に課されたことをただ淡々とこなす。それは確かにつまらない日常かもしれない。だが、そんな中にきっと大切なものがある。どうでもいいことをうだうだしている彼らの時間に埋もれて過ごすのも悪くはない。ことさら感動的にはならないのがいい。修学旅行以上に思い出に残る時間だった、だなんていう描き方をされたならきっと鼻白む。このくらいのクールさが適当だ。

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