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映画・演劇のレビュー

『千年の愉楽』

2013-04-08 20:04:34 | 映画
 中上健次の世界を若松孝二が描く。『連合赤軍』(正確には『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』だが)以降むかうところ敵なしの勢いで驀進してきた若松監督の遺作になってしまった作品である。生きていたならこの後もまだまだ新作を続々と作り続けていたはずだ。だから、この作品は彼の到達点ではない。ただの通過点に過ぎなかったはずなのだ。でも、これが最期になった。しかも、なぜかこういう文芸映画のような作品である。若松監督らしくない。でも、文芸もエロも彼にしてみれば同じようなものなのだろう。全部映画なのだ。

 怒濤の勢いで映画を作り、死んでいった。低予算で早撮り、細部に関してはいささか雑な部分も多々あるのだが、そんなことを気にしない。描きたかったことが優先する。無茶は承知の上だ。今、撮らなくてはいつ撮るのか。だから、自分のお金で自分の映画を作る。

 そんな彼のこの新作は、この映画を彩る若者たちの生きざま(死にざま)と、彼らを見守る寺島しのぶ演じるオリュウノオバの関係性を見据えることを目的にする。それはまるで、映画と若松孝二その人の関係性のようだ。

 3話からなるお話なのだが、本当は5つくらいのエピソードを詰め込みたかったのではないか。3話では物足りないし、全体のバランスも悪い。染谷将太のエピソードなんて、短すぎて付け足しのようになった。短編連作である原作から、どこのエピソードを使うのかは、かなり考えただろうが、2時間弱の映画にまとめることは無謀だったようだ。すべてに於いて中途半端になった。せめて3時間くらいの腰の据わった作品にすべきだった。だが、スピードが命の若松映画である。この無謀さを押し通すのも、彼らしい。これはこれであっぱれだ。

 いつの時代だとは明確な指定はない。今ではなく、そんなには遠くはない昔。自分の思うまま、生きて死んでいく男たち。その愚かな生き死にを見守ってきた産婆の昔話。そんな神話的な世界を描きとめようとした。傑作とは言い難いが、その心意気は高く評価されていい。さすが若松孝二である。

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