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映画・演劇のレビュー

原田マハ『生きるぼくら』

2013-04-08 20:18:38 | その他
 かなり今、心が弱っているだけに、こういう小説が、実際以上に心に沁みてくる。これは先日読んだ誉田哲也『幸せの条件』に続く「農業もの」だ。主人公はあの小説と同じで、24歳。但し、こちらは男だが。まぁ、そんなことはどうでもよろしい。どちらも稲作を通して今までの生き方を見つめ直す、という話だ。都会で生活することで、疲れてしまった現代人にとって農業は夢の世界の出来事なのか。現実はこれらの小説で描かれるように、甘くはないだろう。そんなこと、誰もが知っている。でも、こういうメルヘンに一時の夢を見る。

 生きる希望もない男が、田舎のお婆ちゃんのところにやってきて、稲作を体験する。ばあちゃんを手伝う、つもりだった。でも、ばあちゃんが認知症になってしまい、(このパターンも最近やけの多いなぁ)それまでばあちゃんがしていたことを自分たちで行うことになる。初めての田植え、から初めての稲刈り、収穫まで。

 自然の中で再生していくという定番の展開なのだが、じっくりこういう本と向き合うのが、今はなんだか気持ちがいい。『幸せの条件』も、大概だったが、これもあまりに直球過ぎて、読んでいて、少し、恥ずかしくなる。

 中学、高校で、惨いイジメに遭って、ひきこもりになった男の子が、唯一の肉親出る母親の家出で、たったひとりになり、田舎のお婆ちゃんのところに行く。そこで、11年振りで再会したばあちゃんは認知症になっていて、自分のこともわからない。同じようにお婆ちゃんのことを心配して、ここに来ていた女の子(父親の再婚相手の連れ子)と2人で、ばあちゃんと生活することになる。

 ストーリーはそんな感じなのだが、そんなことはどうでもいい。時間をかけて少しずつ再生していく姿が心地よい。なんだか都合のいい話なのだが、そこは気にしない。小説なのだから、読み手に安心を与えたならそれが一番だ。もちろん甘いだけの話ではない。後半、頼りのおばあちゃんが壊れてしまってからの部分は、彼らにとってかなりハードな展開になる。でも、周囲の人々に助けられ、ちゃんと稲作に成功する。

 これは気持ちが弱くなり、無気力になっている今の僕にぴったりの小説だ。主人公のひきこもり青年と、同じように天涯孤独の子どもにしか見えない21歳の対人恐怖症の女の子が、蓼科の田舎で暮らす優しい日々をゆっくり見せる。米作りを通して、おばあちゃんと共に、新しい家族がそこに誕生する。これには癒される。

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