習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『地下鉄に乗って』

2006-10-15 23:22:16 | 映画
 篠原哲雄監督によるファンタジー映画。すべてが夢のようであり、しかし彼の中では現実であったというスタイルは、かなり微妙で、乗り切れなかった人には、ただの夢オチじゃないかとしか思えないし、つまらないかもしれない。しかし、それを承知の上でこのあやうい映画は作られてある。

 メトロという夢の電車に乗って、夢のように時間を旅する。戦中、戦後を生き抜いてきた父と母の人生を、今の現実に疲れた中年男である主人公が追体験する。

 ある日、地下鉄を降りるとそこは昭和39年の東京で、その日から彼は父が生きた時代を行き来するようになる。そんな幾つもの体験の中で彼は全否定していた父親の人生を受け入れ、父と和解することになるまでのお話。

 それだけの話が幾つもの時代を旅することによって描かれる。自分の今の人生を否定的に捉え、生きることから逃げてしまって、家族からも逃げ、ひっそりと自分の殻に閉じこもる中年男という設定に心惹かれる。弟から「兄さんは親父と同じで自分のことしか考えない勝手な奴だ」と言われるシーンがあるが、生き方こそ違え彼ら2人は、ほんとによく似ている。そんな2人が時代を超えて出会い、2人でいくつもの体験をしていく。大嫌いだった父の手助けをすることで、彼が何を考え、どう生きたかを知っていく。今の自分よりずっと若い父と寄り添い彼の人生の幾つもの局面を一緒に生きる。

 これはただのノスタルジアではない。今一度自分の今を確かめるため、立ち止まり自分の足元を確認するための映画なのだ。そういう意味ではこれは篠原監督初のメジャー大作と言うだけでなく、いくつかの節目となる作品の流れを汲む作品とも言えよう。『月とキャベツ』、『深呼吸の必要』に続くヒーリング映画なのである。

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