習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『牛の鈴音』

2011-04-25 18:40:37 | 映画
 昨年韓国で大ヒットとなったドキュメンタリー映画だ。こんなにも地味な内容なのに、評判が評判を生み、気づくと一大ムーブメントとなったらしい。79歳になるじいさんと彼に添い遂げる(予定)ばあさんが、40年間飼い続けた牛を手放す話だ。

 年老いてもう働けなくなった牛を売りに出すが、本当は手放せない。結局家に連れて帰る。畑仕事もままならないけど、ずっと今まで一緒に過ごしてきたから、家族みたいなものだ。結局は新しい子牛を飼いながら、彼女(牛です!)の面倒もみることになるのだが、この老夫婦のほうが誰かに面倒を見てもらわなければならないくらいによぼよぼで、じいさんたち大丈夫か、と声をかけてあげたくなる。なのに、彼らはあんなよぼよぼなのに、ちゃんと新しい牛の世話もするし、死にかけている彼女をちゃんと介護して、看取る。

 低予算の(当然だろう)ビデオ撮り(これも、当然だ)のこの映画(とすら、言えないようなもの)が、たくさんの人たちの琴線に触れたのは、老いることを、ちゃんと受け止めつつも、自分は老いとは無関係なまでに、ノーテンキに元気で、生涯変わらない生き方をする老夫婦(でも、やはりじいさんは牛以上に死にかけに見える。なのに、やはり、やけの元気だったりもする)の日常のスケッチが感動を呼んだのだろう。

 なんら特別なことではなく、牛の世話をして、畑を耕す。しかも、畑は、昔ながらの牛の力でなければならない。耕運機なんか使わない。頑固というのではない。それが彼らにとっては当然のことだからだ。

 映画は実にそっけない。いいのか、こんなにも普段着のままで、と心配になるくらいだ。一応これって、映画なんですけど、と突っ込みを入れたくなるほどだ。でもそれこそが、この作品の姿勢なのだろう。だから、このそっけない映画は、当然のことだが、この夫婦の姿を、ことさら感動的な描き方にはしない。そのくせクールに淡々と見せるのでもない。作家の主張とか盛り込まない。ありのまま、どうぞ、って感じだ。そこが、いい。(と言えば、いいのだろうか? かなり微妙)

 監督・脚本・編集はイ・チュンニョル。まぁ、ただじいさんとばあさん、そして、小汚い牛の日々を撮っただけの映画だ。 映画としては、別にどうってことはない。これが韓国で300万人もの動員を成し遂げただなんて、見た後でも、信じられないが、それは事実なのだ。あなたもこのどうってことない映画を目撃すればいい。そこまで受けるわけが、きっとわからないから。でも、見て嫌な気分にはならない。あきれるけど、笑えるし、一見の価値はある。(たぶん)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 伊坂幸太郎『バイバイ、ブラ... | トップ | 『火龍 ファイヤー・オブ・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。